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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
過ぎ去った十年後
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119.気付けば早十年が過ぎました。

今回も、間が開いてしまいました…。


今回は久しぶりのリンネ視点。

彼女から見た、大体の十年などなど。



 慌ただしくも時は過ぎ去り、十年という歳月もあっという間。

 そう思ってしまうのは、それだけ目まぐるしくも密度の濃い時間を過ごしたからか。

 十年という時をかけて。

 私達の始めた建国という事業はようやく見られる程度の形にはなってくれた。 

 他の種族、他の国の人々にも沢山頼って迷惑をかけた。

 妖精の国は恩があるからと笑い、『人間』の国は償いですからと苦笑した。

 まだまだ完成したと言い切れるほどではないけれど。

 完成したと思いこみ、満足してしまったら其処までだって。

 皆で頷き合って、気持ちも一つに。

 理想郷は、理想を追求し続ける限り消えないけど。

 満足して発展を諦めてしまったら、その時点で発展も止まってしまう。

 折角の、私達の手作りの国。

 折角の、私達の新しい故郷。

 その歩みを、どうしてこんなに直ぐに止めないといけないのか?

 そんな訳はないだろうって、アイツも前向きに笑う。

 苦労も多いし、トラブルが起きるのは既に毎日。

 それでも疲れを気にせず、活力に充ち満ちて。

 明るく、前向きに。

 私達は『国』という新しい故郷を生み育てている。

 それは凄く楽しくて、嬉しくて、生き甲斐で。

 私達は今、全力で自分達が生きているのだと実感を深めていた。


 …と、言うのに。

 何故だか分からないけれど、最近、アイツの様子が何かおかしい。

 そのことになんでかな。

 私はいい知れない不安と寒気を感じていた。

 何か…ろくでもないことを予感がした。




 『人間』は数を大きく減らしつつも種としては生き残り、私は内心でほっとしている。

 『人間』の国は残ったけれど、国としての規模を維持するのにも大変そう。

 数は大きく減って、他の国々からの支援で何とか生き繋いでいる。

 それと引き替えに、私達魔族は新しい国としてはどこよりも未熟だから。

 『人間』が築いてきた、技術やシステムを学ばせて貰い、参考にさせて貰っている。

 今のこの、持ちつ持たれつという関係が、十年前からすれば信じられなくて。

 まだまだまだまだ蟠りも山と残っているけれど。

 平穏に保っていられる今の関係が私は凄く嬉しい。


 『人間』の女王様はいい人で、争いを好まない穏やかな人だけど。

 勿論当然の事ながら、『人間』全体を見て女王様の意思が共通意識じゃない。

 国としての総意を握るのは女王様でも、国民感情は難しい。

 一つ一つの細かい意見は、無視する訳にもいかないから。

 女王様のことを弱腰と罵る国民もいれば、魔族を忌む風潮も強い。


 それでも今では互いに手を出すと洒落にならない相手………魔族にとっては取り返しのつかない事態を予想して自重する相手として、当たり障りのない関係を築いている。

 禍根は残っている。

 だけど、それを表面化することへの怯え、恐怖が『人間』を大人しくさせている。

 恐怖の惨劇を再現したくない一心で。

 その感情のお陰で、魔族も『人間』も表向いての穏便さを貫いていた。


 この先、あの大魔法に対する恐怖が忘れ去られない限りは平和でしょう。

 だから、頑張って未来に語り継がないといけない。

 使命感で教育制度案の練り直しにも熱が入ります。

 長命な魔族と違い、『人間』は短命なので忘却はその分早い。

 今の国主である女王の生きている間は大丈夫。

 でも、彼女の天命が尽きた後はどうだろうか…。

 一応、『人間』の国でも語り継ぐ努力はすると言うけれど。

 何時だって記憶という不確かで曖昧なものは、時間と共に風化するから。

 やっぱり、私達の不安は尽きることがない。

 

 お陰で未来に不安は残るが、また戦争になったらその時はその時だと思うしかない。

 できる事なんて、限られている。

 今の私達にできること、やるべきこと。

 それは国を育てていくことに、全て集中するから。

 国力を高め、いつか起きるかもしれない非常時に備えるだけだ。




 私達魔族は、かつて『人間』に追いやられた先祖の故郷を取り戻した。

 今まで暮らしていた荒れ野とは比べものにならないくらい豊かな地。

 戦って取り戻した達成感もあり、アイツは魔族全体から感謝と尊敬を受けている。

 その後押しもあり、アイツや私達には一定以上の社会的地位がある。

 お陰様で、戦争には不参加だった魔族とも揉めることなく、国の中枢として働いている。

 …その裏に、穏便に私達が実権を握る様、暗躍した誰かさんの存在も感じるけど。

 我が従弟ながら、あの腹黒…本当に有能なんだから。


 たまに何故か私達を神聖視して崇拝を捧げてくる者もいる。

 本当に何でか分からないけれど、その眼差しが痛くて、居たたまれなくて仕方ない。

 その手の類は関わりたくないので皆も基本放置だ。

 何しろ、ああいう手合いはこっちが何か反応してもちょっと未知数過ぎて。

 何をするか分からないから、私達も目を逸らしています。見ないふりです。

 人気が集中しているのはアイツだし。

 このままぐいぐいアイツを押し上げて、是非とも人気を独占して欲しい。

 そうしないと、心の平安は確実にできそうになかった。





 戦争、勝利、そして建国の発端たる私の隣の馬鹿。

 アイツは現在魔族の英雄、初代王と呼ばれている。

 だけど他種族からは魔族の王、略して魔王が呼び名として定着しつつあります。

 元々はアイツがぐれていた時の渾名が元だけど…

 魔族もその呼び名を気に入っている者が多い様で、アイツを魔王と呼ぶ声は多い。

 ただアイツだけが、「俺の黒歴史が!」と顔を両手で覆って身悶えていた。

 …これも慣習となり、いつかは正式な称号となるのでしょうか。

 アイツの、黒歴史が。



 思えば幼少期を過ごした里から随分と遠い所に来たものです。

 相方くらいに近しく思っていたアイツは今や王様だ。

 たまに遠い存在になってしまったと寂しくもなる。

 それがたまになのは、アイツが今でも変わらず気さくなままだから。

 アイツが変わらない態度で、何の不思議もなく私の隣にいるから。

 むしろ、私の方が何故未だにアイツが私の隣にいるのか疑問に思う時がある。

 隣にいる必要ないでしょう?

 自分の感情とは、また別にして。

 客観的に現実的に、そして事実として。

 私より有能な面々が仕事を補佐してくれるのに、アイツの私に対する態度は変わらない。


 相変わらずのアイツ。

 何かあれば相談してくる。

 暇を見つけては話しかけてくる。

 休日には遊びに誘ってくれて、時間の許す限り側にいる。

 それが嬉しくないとは言わない。

 でも、私にばかりそう構っていて良いのだろうか。

 相談するにしても、私より適任な相手がいる気がするのだけど…。

 

 だけど、何故だろう。

 周囲の者達もそれを当然と言った顔だ。

 何故だか温かく見守られている気がする。

 

 ――と言うか、ちょっと待て。


 最近何故か、私の身の回りが少々どころでなく、おかしい。

 一番おかしいのは何かと聞かれても、数え上げればきりがない。

 だけど、無視できない幾つかの事柄から、一つあげるとすれば…

 ………私の呼び名として、流石に聞き捨てならない単語が巷を横行している気がする…。


 最初に気付いた時は耳がおかしくなったか幻聴かと混乱もした。

 放置するにはあまりにも不穏当な、私の呼び名。

 本当に、何故に私?

 何故、私のことをそう呼ぶの?


 尽きせぬ疑問に突き動かされ、私は原因究明の為に動き出すことにした。

 ええ、私自ら。

 だって、何故か誰も手伝ってくれなかったんだもの。

 単なる調べ物ではなく、情報収集として素人には厳しい流言の調査。

 今まで自分の手ではやったことの無かったそれ。

 それに単独での情報収集未経験の素人たる私が、独力のみで挑戦するはめに。

 皆が何故この件に限って協力してくれないのか分からない。

 だけど私の依頼を断った時の、彼等のニヤニヤ笑いがやけに記憶に焼け付いた。


 手助けしてくれる者のいないまま、私は噂の元を辿り、原因を手繰り寄せようとした。




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