表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
戦の終わり
179/193

117.妖精の詰問

6/8、誤字を修正。


 魔族と『人間』の戦争は、一応の終局を見せた。

 『人間』側は、戦場に出ていた全ての者が死亡。

 屍すら残らなかった、わかりやすい全滅。

 国王すらも命を落とし、『人間』は子供と老人を覗いてほぼ全ての男が死んだ。


 あまりに大きな被害を、わざわざ出してしまった訳だけど。

 それでも変わらず、事実は緩がない。

 他に言い様もないほど完璧に、二種族の諍いの勝者は、私達魔族だった。



 戦後処理もままならず、まだまだ山積している。

 色々な意味で大きな結果を出してしまった為、後始末は大変で。

 全然一段落はしていなかったけれど。


 それでも余裕を持って、息を抜ける様になった頃。

 ようやっと、気を抜ける時間が持てる様になった頃。

 私達は終戦の区切り、その目処として調停を行う計画を立てていた。

 複数種族と、『人間』間での調停。

 和平と協調を目的とした取り決めを、私達は正式に書面に起こしていく。

 それに各種族の代表が署名捺印をして、節目としよう。

 今まで誰もそんなことをやったことはなくて、誰も思いつかなかった。

 何しろ種族丸ごとを巻き込んでの、大規模な争いだって今回が初めてだったんだから。

 でもそうやって、目に見えるカタチで『終わり』を示すのは良いと思った。

 意外なことに発案者は、アイツ。

 本当に発想力では負けるなぁと、溜息と一緒に苦笑が零れた。


 調印式の予定を組み上げるので、私は忙しい。

 アイツ発案の『調停』は、他の種族にも好評で。

 折角なので足並み揃え、今回の争いに荷担した全種族の代表を一つ所に集める予定だ。

 ………準備、特に警護の面でスケジュールが物凄く大変な事になったけれど、仕方がない。


 みんながまったりする時間をちょっとずつ過ごしている横で、奔走するのは大変。

 文字通り走り回って、もう目が回りそう。

 大きな最後の仕事に向けて、私の意識は一直線になりがちで。

 優先順位の低い事から順に、小さな事は頭から軒並み吹っ飛びかけていて。

 忙しさを言い訳に、きっと色々なモノを取りこぼした。

 それでも振り返る余裕もないほど、私は一直線に駆け抜けるしかなかった。


 ラティが私に話しかけてきたのは、そんなある日のことだった。


「大変な時にご免ね、リンネ」

「それは良いんだけど…大事な用事って、なに?」


 忙しい中、何事かと思ったけれど。

 それでも大事な話だと、ラティが言う。

 だから私も足を止めて、ラティに向き合ったのですが…

 思い詰めた様な顔で、妖精の少年が言う。


「リンネ、正直に答えて」

「どうしたの、そんなに真剣な顔で…」

「うん…」


「……リンネ、うちの母がリンネに子供を託したと思うんだけど…その種、どうした?」


 …………………。


 ………。

 ……………。


「………あ」


 わ、忘れてました…。


 ら、ラフィラメルト…。

 ろくな別れも交わしてないけど、私の考え違いじゃなければ…


「あ、ってなに!? あ、って!!」

「お、落ち着こう。ラティ、興奮は良くないわ」

「なんで目を逸らすの!? リンネ、正直に言おう? 怒らないから!」


 なんで目を逸らすの…って、目を合わせられないからです。罪悪感で。

 もう私の襟首に掴みかかってきそうな勢いで、ラティが取り乱している。

 物凄く珍しい光景の様な気がするけれど、ラティにとっては弟妹の話。

 身内に甘いのは、種族数の少ない魔族や妖精なら当然のこと。

 ラティの顔は、蒼白になる一歩手前だった。


「リンネ、僕の弟はどうなったの。母さんはもう生まれてる筈、弟だって言ってたけど!?」

「う、うん。生まれた。確かに生まれた。男の子だった」

「…なんかさ、歯切れ悪くない?」

 うろうろと目を彷徨わせる私に、ラティの疑念は高まるばかり。

 でもだからって、どう言えと?

 まさかあんな場所に、あんな状況で置き去りにするなんて…。

 私自身、そんなつもりは全くなかったので、とても心苦しいのですが。


「それで! 僕の弟はどこに!?」


 鬼気迫る、ラティ。

 逃げられない、私。


 さあ、私。

 観念しましょう。


「………に、『人間』の国の、王宮に…」


 更に具体的に言うのであれば、国主となることが決定した王女様の元です。


 私の答えに、ラティの動きが緊急停止、した。


「…………………」

 ラティが押し黙り、沈黙が重く横たわる。

 私は変な汗をだらだらと流しながら、ラティの顔を見ることもできず。

 他に視線をやるまいと必死に沓のつま先を見ていたら、ラティが動いた。

 彼は私の肩に両手を置き、言ったのです。


「…妖精女王から通達があって、でもどうしようか、迷ってたんだけどさ…」


 ぽつぽつと、静かにラティが言います。

 でも、何の話でしょう。

 話が全く見えません。

 …と思ったら、直ぐに答えが出ました。


「………『人間』との調印式、僕も行くから」


「…はい」

 それはまあ、仕方がないですよね。

 顔も硬く、表情の硬直したラティ。

 ぎこちない彼の口調に、どんな思いが込められているのか…。

 複雑な声音は、耳に重く残って暫く離れませんでした。


 


 こうして誰が参加するか、各種族、代表者の随行員選別もごたつく中。

 硬い表情で参席を表明したラティの言葉は、私には覆すことのできないモノでした。


 せめてラフィラメルトの安否を、夜の神様に祈ります。

 どうか無事でいてください。

 そうでなければ、私がラティの報復に遭ってしまいそうでした…。


 どうか呉々も、ラティが調印式で問題を起こしません様に。

 それだけは、何としても叶えて欲しい願いで。

 いざという時、ラティを取り押さえる為の人員確保の為、私は更に走ることとなりました。


 ラティ、魔力を吸収するなんて物騒な刺草を操る妖精。

 万が一にも、彼が取り乱し暴走する姿は見たくありません。

 そうなったら大惨事です。

 公式行事の間だけでも、犠牲者が出ないと良いのですが…。


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ