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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
アイツの魔法
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113.激務の救護テント





 ――甘かった。本当に、甘かった。

 いざ開戦したらじっとしているどころではなかった。正直、忙しすぎて仕方がない。

 慌ただしさに目を回しながら、私は目の前に積み上がる仕事を必死で捌いている。

 そういえば私、医術の心得があったっけ…と、自分も周囲も思い出したのが運の尽き。

 休息どころか息をつく暇もないとはこのことか。

 更には何故か千客万来。患者でもない、健康なお客さんが。

 戦術担当の爆破魔さんやら羽根の人やら、総大将の筈のアイツやらが何故か来るんです。

 入れ替わり立ち替わり私を探し、作戦の確認に来たり、意見やら指示やら求めに来たり。

 彼等は私が忙しいことが見て分からないのだろうか。本当に忙しない。


「リンネ参謀! 包帯がもうありません!」

「荷駄隊に在庫確認したら、リンネ参謀に聞く様言われたんですけど…」

「3番テントにまだある筈。無ければ服の切れっ端でも何でも、とにかくある物で代用して!」

「それと麻酔薬の在庫がどこにあるのか…」

「なんで事前に確認しておかなかったの!? 薬の類は4番テント!」

「直ぐ行ってきます!!」


「参謀殿ぉ! ど、どうしましょぅ!? 取れた腕がくっつきません!」

「治癒魔法の効きが悪いの? だ、大丈夫! 魔族の治癒能力は魔法無しでも半端ないから、腕の一つや二つ、添え木で固定していればそのうちくっつくから!!」

「マジですか!? 今まで腕が取れた事なんてないんで知りませんでした…」


 ………丈夫すぎて、普段ろくに怪我なんてしないのも問題だと思う。

 うん。皆、怪我をするという事態に不慣れな者ばかり。

 でも頑丈な肉体を持つ魔族は大概こんなものです。

 そもそも普通に暮らしていたら怪我なんてしない。自分の血を見たことがない魔族も多い。

 だから治療行為の大小にも一々慌てふためいて、焦りと混乱を撒き散らしている。

 怪我に慣れているのは歴戦の勇士ばかりで、怪我の手当に慣れている者も自然と強者ばかり。

 つまり、今現在、激戦区で絶賛奮闘大活躍中の皆様だ。

 治療の為にわざわざ後方のテントまでやって来てくれる筈もない。


 幸いなのか何なのか、私は魔力を使わない手当も魔法での治療も悲しい程に手慣れていた。

 しょっちゅう怪我をこさえていたアイツのお陰で。

 それがこの忙しさを助長させているのかと思うと、頼りにされるのが辛くなる。


 今ここで、負傷者の対応に慌てふためいているのは、非戦闘員の中でも治癒魔法が使える者。

 ただし使えることと使ったことがあることはイコールではない。

 能力として使用可能でも、実際には使ったことのない治療初心者ばかり。

 噴き出す血や飛び出る骨におっかなびっくり、顔面蒼白。

 中には失神して逆に治療されている者もいる。

 ある意味ここも、戦場です。私の負担はどんどん増えるばかり。

 治療用テントに控えていた治癒魔法の使い手達は、今ひとつ手際が悪い。

 けれど必死で負傷者の治療に専念していた。




 絶え間なく運ばれてくる怪我人。

 その相手に忙殺されている間に、時間は矢の様に過ぎ去っていたようです。

 私の意識外で時間は力一杯過ぎ去り、戦場の展開は私を置き去りに動きに動いていた様子。

 私の体感時間ではほんの数時間のつもりだった。

 だけど現実には何倍、何十倍の時間が過ぎていたらしい。

 忙しさに時間を忘れるとはこのことか。


 気付けば、戦場はいつの間にやら最終局面。

 患者の流れも、治療担当者達の作業効率も未だ手際が悪いけれど。

 それでもようやく救護班の皆は、慣れない治療行為に慣れてきた様子。

 まだちょっと拙いけれど、使い物にはなるレベル。

 お陰でちょっと余裕が出てきたのかな? 働く内に治療行為も効率化が進みます。

 ひとまず落ち着き、私はようやく休憩の暇を得て救護テントから出てきた。

 一応此処からでも局面を確かめようと戦場へ目を向けた訳ですが。

 いざ撤退するにも、此処に踏み留まるにも。

 戦場の影響をなるべく受けないようにと、私達は後方にいるわけですが。

 此処はちょっと小高い丘の上。

 盆地で争う皆の姿が、良く見えます。まるで蟻の戦争を見ている気分です。

 そんな不謹慎なことを思いながら、戦場を覗き込んだ私ですが。



 …とんでもないモノを見てしまいました。



 取り敢えず、先に一言だけ言っておきたい。

「……………規格外にも、程があるでしょう…」


 あとで馬鹿を問い詰める必要が、かつて無く強く感じられました。




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