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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
決戦は避けられない
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107.アイツの頬はよくのびる




 …さて。

 私は魔族と『人間』全面衝突の情報を知り、早く起きないとと焦っていました。

 取り返しの付かないことになる前にと、それこそ必死に。

 私に情報をもたらし、協力して下さった神様方も、それを望んでいるという話です。

 そうやって私が終局の抑止になることを、私は期待されていた。

 期待されていた、訳ですが…。


 はっきり言いましょう。

 手遅れとは思いたくないし、現実を直視したくない気持ちで一杯ですが。

 それでも、現実を見る為にも、自分に言い聞かせましょう。

 

 残念でなりませんが。

 どうやら、私はちょっと遅かった様で。

 既に状況は、取り返しの付かない正面衝突一歩手前へとやって来ていました。


 …なんか、ね。

 もう宣戦布告しちゃった…って、言うんだよ。

 両陣営の婦人の関係上、明後日辺りに激突するのはもう避けられない。

 魔族の立場として、何より今後の交渉を有利にする為にも、此方からの幸福は有り得ない。

 そう、目を泳がせながらも敢えて順序よく、淡々と言うんだよ。

 この、馬鹿が。


 どこに持っていけばいいのか、持って行き場の分からない腹立ちが凄まじい。

 私はソレを紛らわす為、渾身の力でアイツの頬を引っ張り上げた。

 昔に比べると弾力の落ちたアイツの頬は、それでも予想以上によく伸びた。


「どういう訳か、説明して貰いましょうか…?」

「ひっ ひんふぇふぁん…っ ふぉふぁひっ」

「全然何言ってるのかわからないわよ」

「ふぉえふぁっ …両頬いっぺんに引っ張られてたら当然だろ!」


 頬を引っ張る私の拘束から抜け出して、アイツは情けない顔を引きつらせます。

 捨てられた子犬の様な風情で、しょんぼりと肩を落としたまま。

 まるで怯える様に振る舞いながら、アイツは私への言い訳を考えている様で。

 誤魔化そうという風な態度に、私は自分の米神が引きつるのを感じた。

 

 …グターの分際で、私を誤魔化そうなんて………良い度胸だわ?


 私の手から頬を奪い取った後、さり気なく私の両手をそれぞれ掴んで、離さない手。

 緩い手の掴み方は、拘束されているとは感じさせないけれど。

 さり気なく、本当にさり気なく私の腕を無力化させようとしている。

 下手な小細工を労さない素直さが、アイツの良いところの一つだと思っていたのに。

 此方にそうと思わせない絶妙な加減で奪われた手。

 下でに出ている様で、蝦蟇化しに走ろうと計算する瞳。

 ああ、本当に。

 本当に、アイツは大きく…大人になった。

 育たなくていい部分まで、こんなに成長させて。

 狡くて汚い部分を補うのは、他の誰かにでもできる。

 清廉でいろとは言わないが、できれば真っ直ぐで裏表のないまま、成長してほしかった。

 今となってはソレも詮無いこと。

 アイツがこういう形で変貌…もとい成長した要因が私だと、分かっている。

 だから余計に、複雑で。

 自分を切欠に、私の望まぬ成長を遂げたことが。

 アイツを相手にすると、私はとても傲慢になってしまう。

 どんな成長をするのか、私にアイツを操作できるはずもないのに。

 それでも、よく言えば強かになってしまったアイツの成長が、残念でならない。

 狡い大人になんてなってほしくない。

 まだ大人になりきったとも言えない私達。

 軌道修正は、未だ間に合うだろうか…。


 私はアイツににっこりと微笑みを向けると…

 アイツが何かを言う前に、有無を言わさず頭突きを叩き込んだ。

  




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