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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
奴隷解放
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13.襲撃のススメ

 私達が襲撃を決めた後は、驚く程に凄まじい速さと勢いで次々に相談が進んだ。

 話し合いの時はやる気無くだらだらしていたお兄さんまでもが、積極的に次々と意見を出してくるのだ。その積極性から、白熱する場から、お兄さん達の『人間』に対する並々ならぬ憎悪というか…むしろ執着にも近い負の感情を伝わってくる。

 穏やかに育ち、最近はお兄さんのお陰で荒事にも慣れたかと思っていた私達。

 だけど今、獰猛な笑みで舌なめずりする肉食獣達を前に、身震いが止まらなくなりそうだった。


 お兄さん達は凄まじい速さで方針を決めると、血に飢えた笑みを浮かべている。

「丁度良いことに、貴方達の仲間になる直前、ターゲットとして狙っていたところがあるんですよ」

 晴れ晴れしく言ったのは爆破魔さんだ。

「ある程度の準備も進めていましたし、位置も中々便利そうな場所にあるんですよ。『奴隷市場』を吹っ飛ばすのは楽しみすぎて、いつも準備に時間と手間をかけてしまうんですが…今回は、本当に都合が良かった見たいですね。ええ、吹っ飛ばす…ではなく、占拠するのはここにしましょう」

 そう言って、彼は懐からボロボロに使い込まれた地図を取り出した。

 私達の囲む中で広げられた地図には、至る所に焼け焦げが目立ったけれど…それよりも更に、地図上に赤いインクで幾つも記された×印が物凄く気になる。

 物言いたげに見つめると、爆破魔さんは爽やかに言い切った。

「ああ、これは今まで爆破した『人間』の拠点ですよ。破壊した位置の記録を取っておく主義なんです」

 ええ、貴方はいかにも、そういった細かく神経質な癖を持ってそうに見えます。

 …ですが、流石に地図の一部が真っ赤に染まって見える程の×印は不気味に見えるんですよ。

 私の隣では、好奇心と怖れから、アイツが×印の数を数えています。

「…はちじゅういち、はちじゅうに、はちじゅうさん……」

 あ。この分じゃ、三桁越えますね。

 今まで、そんなに沢山、『人間』の建造物を吹っ飛ばしてきたんですか。

 もしかしたら爆破魔という人種には普通の行いなのかもしれないが、生憎、私が知る爆破魔は目の前の彼だけだ。その為、彼の執念が普通なのか度を超しているのか、私には分からなかった。

「地図で示すと、この辺りですね。山を背にした地形で、少し堅固すぎますが、彼等も魔族に恨まれているのを分かって警戒していますから、こんな物でしょう」

「此処は…」

「おい、マゼラっ てめぇ…俺等に無断でやるつもりでいやがったな!!」

 爆破魔さんが地図上で示した位置を確認して、お兄さんと羽根の人が目を見張ります。

 息を呑んで地図を見つめ続ける羽根の人。爆破魔さんの襟を乱暴に掴み上げるお兄さん。

 一体、どうしたというのだろう。

 この場所に、『奴隷市場』がある以外に、何かあるのだろうか…。

「だから、今この場で、二人にも教えたでしょう。実際、まだ準備している段階で、襲うのはもう少し先にする予定でしたし、その時には二人にも了承を求めるつもりでしたよ」

「………」

「別に構わないでしょう。私の目的がどこだろうと。それに、この件は三人で片付けることになるのですから、良いじゃありませんか。初の協力作業で、此処程に相応しい場所も他にありません。適任ですよ」

 暗い目で自分を見つめるお兄さんに萎縮することなく、爆破魔さんは自分に掴みかかるお兄さんの手を振り払いました。お兄さんも納得することにしたのか、渋々身を引きます。

 私達の理解を置いてきぼりに、目の前で深刻そうな空気が重みを増しています。

 それを振り払う様に、お兄さんと爆破魔さんは同時に息を吐きました。

 気を取り直した爆破魔さんは、懐から次々と襲撃に必要と思われる資料を取りだしていきます。

 お兄さんも割り切ったのか、それからは何の文句も言うことなく、爆破魔さんの爆破標的に関する説明を真面目な様子で拝聴していました。今までにない真剣さです。

 羽根の人の方も真剣な顔で資料に目を通し、自分で重要と思ったことを別にメモに取る熱心振りです。

「てめぇ、よく見取り図やら警備の配置表やら手に入ったな」

「そこはまあ、苦労した部分ですかね。ですが充分な準備をしておくことに越したことはないでしょう」

「ふむ。こちらは『奴隷市場』に関与している『人間』のリストか。少々、古いな?」

「そうですね。資料の中には古くなっていて、現在を推し量る材料にはなっても、確実とは言えない部分があります。その当たりは、誰か適当な『奴隷』を事前に解放して情報を聞き出そうと思っていたんですが…そうですね。いっそのこと、仲間に引きこみましょうか。その方が私達の目的にも添うでしょう」

 こんなにテキパキする彼等を見るのは、初めてかもしれない。特に、お兄さん。

 彼等は私達がついて行けないでいる間に大まかな計画を完成させ、後は実行に移すばかりという最終段階直前まで、止まることなく働き続けたのだった。

 彼等の情熱がどこからくるのかは分からなかったが、その熱意に鬼気迫るモノを感じとることはできた。私とアイツは三人を邪魔しない様、ひたすら与えられた仕事をこなして日が経つのを数えたのだった。


 私はこの時、知らなかった。

 爆破魔さんが次に狙っていたのは、『ルズィラ奴隷市場』と呼ばれる魔族の地獄。

 そして此処が、爆破魔さんが子供の頃からずっと狙い続けてきた…

 ずっと、破壊する為に力を蓄え、技量を身につけ、最大の標的としていた場所であること。

 此処こそが、お兄さんと、爆破魔さんと、羽根の人が出会った場所。

 彼等三人が、『奴隷』として鎖に繋がれて居た場所であることを。

 ずっと、ずっと後になるまで、私は知ることがなかった。

お兄さん、悪辣設定だったんですが、中々思ったとおりにはなりません。

きっと敵に対しては悪辣なんだと思いつつ、設定にずれない様気をつけます…。

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