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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
決戦は避けられない
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101.目覚め






 意識が、覚醒する。


 突然にも感じられる、唐突な目覚め。

 気付いた時には、実体の目が開いていた。

 不意に感じる、眩しい光。

 アイツの笑顔にも似た、真昼の太陽の光。

 ずっと目を閉ざし、意識を沈めていた。

 眠り続けていた目には辛い眩さ。

 だけどその目を刺す痛みが、私にここが昼の世界なのだと訴える。


 目覚めを自覚した瞬間、私は跳ね起きる勢いで走り出していた。



 ここが何処で、いつなのか。

 私の身を置く環境が、どんなものなのか。

 そんな些細な問題は、全部頭から吹っ飛んでいた。

 ただ思いの向くまま。

 本能にも似た衝動に、突き動かされるままに。

 私は走らないではいられなかった。


 寝衣のまま、足は裸足で。

 それでもはしたないとは思わなかった。

 そう思うだけの余裕が、頭に残っていなかったから。

 有り得ない薄着で駆け抜ける。

 走る私に、道端に寄った人達が目をぎょっと見張って見送る。

 私を呼び止めようとする人も、中には何人か。

 だけど全部、全部、そんなものは気にならなかった。

 走る私を止めようとするもの、追いすがるもの。

 意識にも止めず、私は走りを止めようとする全てを振り切った。


 目的地は何処か?

 そんなことも、考えず。

 何を探して走るのか?

 その答えだけがはっきりと鮮やかで。

 私が探しているもの。

 走りながら、目はずっと求める姿を探している。

 目覚めたら一番に、会いに行くと約束した。

 何が何でも、真っ直ぐに走っていくって。

 アイツのところ。

 アイツだけを、目指して。


 私のことを大事に思って、ずっと心配していてくれて。

 私が起きないせいで、おかしくなった。

 今もきっと、アイツは感情を凍らせている。

 そんなアイツは、らしくない。

 アイツがそんな風でいるのは、我慢できない。

 そんなのはアイツの正しい姿とは思えなかったから。

 私はそれを、正しに行かなくちゃ。


 一発、ぶん殴って。


 殴ったら治るかな?

 夢の世界で会ってから、ずっとそれを考えていた。

 いいえ、いつの間にか殴ることだけを考えていた。

 起きることができたら、何が何でも一発殴る。

 起きてる癖に寝惚けた様な馬鹿の目を覚まさせる為。

 ぎゅっと握ったこの右拳で、アイツを殴り倒す。

 その思いを支えにして、私は起きた。

 もう目的が何だったのかも、どうでも良い。

 手段と目的が逆転していても、構わない。

 これは単なる、鬱憤晴らしなのかも知れない。

 もう、アイツを殴ることさえできれば。

 それで全部構わない。


 アイツは馬鹿だ。

 私の見てないところで、私が眠っているからって。

 私が側にいないと、どんな馬鹿をやらかすのか分からない。

 そんな風に、見損ないたくはないのに。

 なのに。

 散々滅茶苦茶やっていたと、知ってしまった。

 …薄々察していたけど。

 私のことを心配して、辛く悲しんでくれたのは分かっている。

 でも、だからって私にまで心配させないでよ。

 私がいないと駄目だなんて、行動で思い知らせるのは狡い。

 誰にも言えないけれど。

 それを嬉しいと思ってしまった自分も腹立たしいから。

 馬鹿なアイツと、駄目な私。

 この胸の中でぐるぐる渦巻く、何とも言いがたい感情。

 複雑なのか、単純なのか。

 分からないけれど、何という言葉で表現して良いのか分からない。

 分かるのは、それを抱えていると感情が昂ぶっておかしくなりそうになること。

 妙な焦燥感に襲われて、居ても立ってもいられなくなる。

 辛いのか、悲しいのか、嬉しいのか、幸いなのか。

 分からないから、どうして良いのか分からなくなる。

 これも全部、きっとアイツのせいだと。

 それが八つ当たりだとは分かっていたけれど。

 もう、これがただの鬱憤晴らしでも良いから。

 兎に角、アイツに会いたい。

 会って何をするとか、何を言うとか、そんなことも全部後で考える。

 今は良い。

 今は、考えない。

 何を置いても最初に何をするのか、それが分かっていれば。

 それさえ、分かっていれば。

 何よりも重要なのは、それだけなのだと一途になれる。

 そう、まずは何を置いてもアイツに会うから。

 アイツに会って、本気の全力で、アイツを殴る。

 その思いだけで、私は暫くぶりの昼間の世界をひたすら走った。

 まだ見つからない、アイツの姿を探して。

 


 アイツが、私の目覚めを待っている。

 私も、アイツとの本当の再会をずっと待っていた。

 だから足を止めずに、走った。

 ひたすらに、走っていった。




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