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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
夢の中であいましょう
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85.ちをはしるもの (地と言うより、木でお願いします)


 やってしまった…。

 馬鹿が、馬鹿を。

 やってしまった…。


 私はがっくり項垂れて、アイツを恨めしげに眺めていた。




 羽根の人は、基本的に話が早い。

 自力で飛ぶのは無理だとの私の主張に、穀物神様は言います。

「ですから、ここは現実の世界ではないと」

 どんな無理無茶も、夢の世界ならば押し通せるそうです。

 そして幸か不幸か、何故か羽根の人は夢の世界に慣れています。

 自覚ありで夢の世界を彷徨うヒトはかなり珍しいそうなんですけど…

 むしろ、穀物神様は初めて見たと仰っています。

 だと言うのに。

「ふむ。つまりリンネを、あの月まで運べば良いのだな」

 二つ返事で了承されてしまった…。


 詳しく話を聞いてみると、羽根の人は自信さえ滲ませてできると言います。

 どうやら以前、羽根の人は夢の世界の月まで行ったことが有るそうです。

 夢の世界だからと遊んでいたら行けたそうです。

 何やってんですか、羽根の人…。

 

 しかしその後、「ただし」と条件が付け加えられました。

「ただし、運べるのはリンネだけだ」

「えぇ!? 俺は!?」

「そなたは育ちすぎた。大きゅうてな。抱き上げるのも背負うのも断固拒否しよう」

「ああ、確かに。アンタ育ち過ぎよ、グター」

「リンネまで! 俺未だ標準身長越えてないのに!」

「私達の年齢に合わせて考えると、立派に育ちすぎてるわよ」

 今のアイツは、影の人くらいには育っている様に思えます。

 影の人、発育良いのに。

 同じ年齢の筈なのに、私と並んで同年代というと首を捻るくらいには大きいです。

 そしてここまで育ってしまったら、確かに羽根の人が持ち上げるのは厳しいでしょう。

 羽根の人はしっかりと成長した大人なので私を持ち上げるのは苦もない筈です。

 でもその体格はガッシリしている訳ではありません。

 むしろ男性としては細身の方で、大いに成長したアイツを抱えるのは傍目にも無理です。

 厳しそうというか、無理です。

 私とアイツの二人一緒にといいうのは、どう考えても無茶です。

 羽根の人も断るはずだと納得する私を他所に、アイツは拗ねた様にいじけていました。

「ちなみに私は自力で月まで飛べますから」

 控え目に微笑む穀物神様は謙虚で良い方だと思います。

 見習え、グター。

「グター…貴方には、貴方が出した大きな木があるじゃない。アレを伝って登りなさいよ」

 私は優しく優しく、穏やかにアイツに語りかけます。

 さっきはつい希望をぷちぷちと潰してやってしまいましたが、ここは精神体の世界。

 夢の世界は何でもあり。その言葉をようやっと理解できる様になってきました。

 つまりは、思いこんだ者勝ちの世界です。

 どんな無謀も無理無茶も、できる・やれると信じ込んだら、ソレが本当になるのです。

 だからこそ、アイツはできると思えば何だってできるはず。

 私は想像力の限界で月まで自力は無理ですが、羽根の人を召喚したことで要領が分かってきました。そしてこの世界により詳しい羽根の人がいれば、何とかなる気がします。

 私よりもその辺りの思考能力が柔軟なアイツなら、きっとどうとでもなるはず。

 でもアイツの思いこみをさっき丹念に潰してしまったのは私でした。

「無理だ。リンネに一つ一つ無理だって根拠を示されたら、何か自分でも登れない気になった」

「アンタの思いこみって、私の言葉如きで潰えるの?」

「俺はリンネの言葉なら無条件に信じ込んじゃうんだよ!」

 何てチョロい。

 いえ、今回はソレが裏目に出てしまった訳ですが。

 仕方がありません。

 それでは代替案を提示してやるしかないでしょう。

 私の責任ですし。

「それならグターも、何か乗り物(?)を出せば良いじゃない」

 ぽん、と。

 グターが手を打ち合わせました。

 本当にチョロいな。



 そんな訳で。

 グターが乗り物を召喚することになりました。

 ソレがまさか、こんな事になろうとは。


「出でよ! 俺背負って俺の代わりにこの木登ってくれるヤツー!!」


「ちょっ 待て、この馬鹿ああああぁぁ!!」

 その物言いじゃ、『乗り物』じゃなくて!

 『乗り物』じゃなくて、むしろ『ヒト』呼び出しちゃうだろ!?

 確信犯か!? 確信犯か、この馬鹿ぁあああ!!


 私の罵りは、馬鹿の言葉と同時に起きた爆煙&爆音に掻き消された。

 なに、この炎と爆発の演出は…。

 私が呆然とする前、炎の柱を背負って現れたのは。


 きょとんとビックリ顔で此方を見る、懐かしい規格外その1。

 拳を振るう、戦闘狂。

 お兄さん、だった。



 私はアイツの頭を押さえつけて、強制的に土下座させた。

 本当に、馬鹿が馬鹿で済みません…。





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