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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
規格外の青年たち
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11.仲間増量計画

 お兄さんのお陰で二人の有能君が仲間に加わったけれど、それがお兄さんの人望故かと

思うと、自分達の無力感に情けなくなってくる。

 爆破魔さんも羽根の人も、事前情報に偽り無く、本当に有能で。

 そんな有能君を仲間にできたのは、お兄さんの好意に甘えた結果で。

 私達の話を真剣に聞いてくれたのも、協力する気になってくれたのも、お兄さんの気ま

ぐれのお陰だ。私達は未だ何もできていないも同然ではないか。

 --これでは駄目だ。

 確かに事前に人格や能力の保証がある相手を仲間にするのは効率的だ。

 だけどこれは、私…否、アイツの仕事なのだから、もっと頑張ってもらわなければ。


 仲間に慎重派で思慮深い人材が二人も加わった。折角なので一度、じっくりと話し合う。

「最初にはっきりさせておきたいことがある」

「な、なんですか」

 羽根の人の静かな瞳に見つめられると、何故か冷や汗が流れる。

 後ろめたいことなど何もないのに、心の中まで見透かされそうな視線が恐い。

「この場に「建国」等といきなり言ってもピンと来ていない者がいるようでな」

「ああ」

 私と羽根の人と爆破魔さんの視線は、お兄さんに集中した。

「そなた等の方針は魔族の『国』を作ることで『国力』という抗いがたい勢いを向けてく

る『人間』への対抗。正式に魔族の立場や所属を明確化することで、『人間』の非道から

魔族を保護し、支援する体制を確立すること…と理解したつもりだ。この時点で、何か誤

りはあろうか」

「いいえ。概ね間違ってはいません」

「概ね? 何やら引っかかる物言いではあるまいか」

「私もグターも、世間知らずですから。『人間』に対する方針として『建国』を掲げてい

ますけど、それが最善かどうかと言われると、少し自信がないんです」

「ふむ」

 あっさり仲間になった羽根の人は、旅の目的を話した途端に鋭い思慮の目を向けてくる。

こちらを見定めてくる瞳に表面上はともかく、精神はガチガチに緊張していた。一度考え

るべきモノを見つけたら、子供が相手でも容赦はしてくれないらしい。

そのことを、子供と侮らずに接してくれていると喜ぶべきか、嘆くべきか。


 ああ、だが、それよりも何故。

 何故に、さっきから私が質疑応答の応答役をやっているんだろう。

 この役目、本来ならば事の発案者であるアイツの役目ではないだろうか。

 アイツを睨めば、何を思ったのかにへらっという擬音で表せそうな笑顔が返ってきた。

 …駄目だ。やっぱり私が頑張るしかない。

 アイツに任せたら、すぐに論破される。浅はかな考えを見透かされ、見放される。

 自分がやらねばという強迫観念から、私は怯む心を押さえつけた。


 羽根の人に一通り方針を説明し終えると、私は妙な達成感に満たされていた。

 やり遂げた…! 自分一人なら、そう言って叫びたいくらいだ。

 羽根の人も最終的には建国案に納得したらしく、今後は積極的に案を出して協力すると

言ってくれた。やっぱり彼も頭脳労働タイプらしい。

 私はやっとこの後の具体的な計画を話し合う段階へと進んだ。

 そして、やっぱりアイツは論説を求められる場に置いては役立たずだった。


「今現在、『国』なるモノを形成しているのは『人間』のみ。正直、我等も『国』に対し

ては認識不足を否めない。先ず、建国には何をするべきか考えたいと思う。最低限、指針

だけでも決めてしまうべきだと思うのだが、何か良案はあるだろうか」

「ああ、そうですね。ですが我々は皆、誰かと協力して何かをすることもなければ、集団

を敢えて作ろうとしたこともありません。国というモノは、巨大な民の集合体なのでしょ

う? 何をするべきか戸惑うところですね…少し、時間が必要ではないでしょうか」

「む。先ずはそれぞれで考えるということか? ふむ。確かに我等は門外漢であろうしな」

 本題は、何故か羽根の人の仕切りで始まった。でも、内容は問題ない。

 爆破魔さんも賛成を示す様に頷いており、隣で考えるのが苦手な馬鹿とお兄さんが追従

する様に首を縦に振っていた。絶対に、この二人は何に同意しているのか理解していない。

「それについてなんですけど…」

 このことに関しては、旅立ち前にも友達と話し合ったことがある。発案者のアイツを抜

かして腹黒い友達と二人、何度も何度も、何時間も意見を重ね、考えを纏めるのに時間を

費やした。何をもって『国』とすべきかが分からない中で、私達はできる限りの答えを求

めて、頭を悩ませていた。

 その時の話し合った結論を、今ここで言ってしまおう。

「『国』を形成する上で、必要なモノは幾つもあると思います。その中で『国』構成する

のに重要だと思われる要素を幾つか考えてあります」

「え、リンネ、俺それ初耳…」

「グターには言っても今は無駄そうなので、言ってません。言ってどうにもならないし。

大事なことは旅立ち前に、しっかりウェアン君と案を詰めてあるので大丈夫です」

「え、俺、疎外されてた…?」

 仲間はずれかよーと、眉をへたらせてアイツが言っているが、無視です。無視。

 アイツのことを意図的に意識から追いやり、私は続けます。

「『国』を構成する基本は、国民と国土、そして国の意思を統一させる規則の三つだと思

います。でも、これをすぐに準備し、実践することは不可能です。先ずは拠点を手に入れ、

私達の考えに同調してくれる仲間を集め、仲間を養うだけの資源を手に入れる手段を考案

する為に動くべきではないでしょうか。今はどこに行っても『人間』がいますから、『人

間』の手の及ばない拠点を手に入れることは、特に重要になると思います。拠り所があれ

ば、より人材を集めやすいと思うんです。皆さんはどう思われますか?」

 私が取り敢えずの優先事項を決めようと、仲間達の顔を見回します。

 何故か、アイツ以外の皆さんが、目を見張ってこちらを見ていました。

 お兄さんなどはポカンと言葉も無い様子ですし、爆破魔さんや羽根の人は待とう空気が

鋭くなっています。アイツ一人がきょとんとしている様も、他との反応の差異が大きいの

で場違いに見えてきます。私の背中が、注目の中でじっとりと汗を掻いていた。

「…私、何か変なことを言いましたか?」

「否…集団活動に不慣れな我等にとっては、とても有意義な内容だった、の、だが…」

「ええ。変ではないのですが、そこがおかしいというか」

 困惑する様に眉間を寄せる羽根の人。爆破魔さんはうろうろと視線を彷徨わせている。

 お兄さんは顔が引きつっていて、困惑の視線を投げかけてきました。

「嬢ちゃん…」

「なんですか、お兄さん」

「お前、本当にガキか? 年、サバ読んでねぇか? 言っている内容が、どうにもガキらし

くねぇんだが。おら、もっとガキってのはこう、馬鹿っぽいっていうか。そう、グー坊み

てぇなのがガキってもんじゃねぇ?」

「お兄さん、失礼です! 私、外見通りの年齢ですよ!」

「それがおかしいんだって。グー坊と同じ年に見えねぇぞ。中身が」

「グターの方が単純なだけです。現に、里の友達も私と似た様な感じでした」

「それ、絶対におかしいって…」

 お兄さんをはじめ、爆破魔さん、羽の人の三人が揃って、私の年齢に対して言うことの

内容が年不相応だと主張してくる。失礼な。

 私の様な外見も中身も若輩者の私が、せめてしっかりしようと思っているのに。

 彼等の言うことは、まるで私に呑気になれと言っている様で、不服の限りだった。


 私に対して子供らしくないという三人の主張を全力で無視していたら、ようやく三人が

諦めました。今は既に、私の精神年齢に対する疑惑を横に置いて検討に入っています。

 先程私が重要だと言った内容から、拠点・人材の入手を最優先で考えている最中です。

「ふむ。拠点、人材、か…」

 それぞれが暫し無言で考えていましたが、やがて羽の人が意味ありげな目で私達を睥睨

します。目を細め、口許に薄い笑み。その思わせぶりな態度はわざとなのだろうか。

「何か考えがあるんですか?」

 なんだか聞いてほしそうに見えたので、水を向けてみます。

「そうさな。一つ案があるのだが、共に考えてみぬか?」

「それは内容次第です」

 手厳しいと言いながらも、羽根の人は楽しそうな笑みを零します。

 本当に、何がそんなに楽しいのだろうか。

「のう、リンネ嬢よ」

 意味ありげな笑みを更に深め、羽根の人は言いました。


「ここは一つ、『奴隷市場』を襲撃してみぬか?」


「え……?」

 いきなり襲撃計画を持ち上げる、羽根の人。

 私は思ってもいなかった方向性から繰り出された計画に、唖然とするばかり。

 何を言えば良いのか悩む暇もなく、諍いの気配に呑み込まれようとしていた。

頭は良いはずなのに、本当に根本から他人と力を合わせるという発想のない魔族の青年達。集団生活と縁のなさすぎる彼等に、まともな案は出せるのだろうか。


そして外見は子供なのに、精神年齢が明らかに高い主人公。

彼女は自分がおかしいとは、これっぽっちも気付いていない…。

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