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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
夢の中であいましょう
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77.目覚めを待つ暇はない




 私は、それ程長く眠っている自覚はありませんでした。

 寝ているんだから、当然ですけれど。

 でも、そんな寝ている間に、三月も経っていたなんて。

 何て言って驚いて良いのか、分かりません。

 こうしている間にも、私が気付かないだけで時間がどれだけ過ぎているか…。

 それを思うと、何もしないでいることにも恐怖が湧き上がってくるのです。

 こうしてはいられません。

 私は、この停滞した私の現状を、何とか動かさなければ

 そう、私は寝ている訳にはいかないのです。 

 私が今も眠っていることで、苦しみや悲しみを募らせる人がいるのです。

 私がただ眠っているだけで、苦しみや悲しみを振り撒こうとしている馬鹿がいるのです。

 そう、馬鹿が馬鹿をしようとしている。

 アイツが、本物の大馬鹿になってしまう。

 私が起きないせいで、戦争しようなんて…

 私はアイツに、そんな大馬鹿をさせる訳にはいきません。

 アイツは確かに馬鹿だったけれど、私の知ってるアイツは、そんなことをする馬鹿ではなかったはず。馬鹿は馬鹿でも、大馬鹿ではなかった筈なんです。

 馬鹿を、大馬鹿にする訳にはいきません。

 今でもアイツがそんなことをしようとしてるなんて、半信半疑です。

 でも、私が起きないってだけで暴走する馬鹿、他に心当たりはないんです。悲しいことに。

 この拳を持ってしてでも、アイツを止めなければ…。

 戦争が始まってからでは、遅いんです。

 止められる打ちに止める為。

 その為には…


 私は、起きなければなりません。

 何としてでも、現実の眼を、開く必要があるのです。


 アイツのことが心配だから。

 アイツに本当に馬鹿なことをさせたくないから。

 私の為にも、アイツの為にも。

 アイツが暴走する程…これ以上、悲しませたくはないから。


 ねぇ、グター。

 貴方はきっと、悲しんでいるんでしょう?

 私が眠ったまま、起きないせいで。

 恐いよね。苦しいよね。辛いよね。

 寂しいよね。胸が痛いよね。現実から目を背けたくなると思う。

 私が眠っているせいで馬鹿をやるのは、きっと貴方一人。

 私が眠っているだけで馬鹿をやってしまうほど、貴方は悲しんでいるんでしょう?

 貴方が暴走する程、私を大切にしてるって知ってる。

 だって、私もそうだから。

 きっと私だって、逆だったら。

 私が起きていて、貴方が眠ったまま目覚めないなんて事になったら。

 きっと、物凄く辛いもの。

 現実から目を背けて、心は遠くに行っちゃうかもしれない。

 目を覚まさないなんて事になったら、きっと正気でなんていられない。

 募る焦燥と、目覚めないんじゃないかって強迫観念。

 心を圧迫する現実に追いつめられて、おかしくなってしまうよ。

 他の大切なモノ全部を放り出して、貴方のことしか考えられなくなる。

 自分と貴方、二人で大切にしてた全てを忘れて、目覚めてとしか思えない。

 その焦りと、心を締め付ける苦しさを一時でも忘れられるんなら。

 想像したくもないけど、私だって馬鹿なことに走るかも知れない。

 心に蓄積されていく、負の感情。

 自分を追いつめる恐怖を振り払って、どこかに逃げたいって思うかもしれない。

 二人で起きていられないなら、いっそ、二人とも眠ってしまえば良かったのに。

 私一人、アイツ一人。

 夢と現実でバラバラに、一人にされてしまったから。

 一人にされる寂しさと恐怖で、何をしてしまうのか。

 私は自分が馬鹿なことをするとは思いたくないけど、その可能性を否定できないから。

 否定できないから、アイツが馬鹿なことをしているって事実も否定できない。

 否定できないなら、どうしたらいいの?


 やっぱり、私が止めるしかないよね。

 止められるか分からないけど、きっとアイツを止めるのは私の役目。

 アイツを止める為に、私はどれだけ足掻けるだろう。

 というか、どうやったら目覚められるんだろう。

 ここは夢の世界で、私は眠っていることも自覚している。

 だけど目覚め方が分からない。

 本当にどうするべきなのか、途方に暮れてしまう。

 じっとしている余裕がないことだけははっきりしているのに。

 やるべき事、その指針もある。

 でも、どうやるべきかが分からないから動きようがない。

 あの馬鹿を、どうやって止めたらいいの。

 どうしたら、目って醒めるの?

 私は起きなくてはならないのに。

 殴ってでも、蹴ってでも、骨を折ってでもアイツを止めないといけないのに。

 どうしたら、アイツを直接殴りにいけるんだろう…。


(その頃、現実世界では…グターが謎の悪寒に襲われていた。)




 散々考えても、夢の世界の脱出方法なんて分からない。

 誰かに聞こうにも、夜の神様は私を激励して、既にお帰りになってしまった。

 …帰って行く前に、聞いておくべきだった。

 私も詰めがあまり。

 うっかり、気が動転していたので聞きそびれてしまいました。

 この夢の世界という、得体の知れない不思議な場所。

 しかも私は精神体で、実体がない。

 こんな私にどうしろと?


 どれだけ考えても解決策が出ない状況です。

 考えていても時間を浪費するだけだと早々に見切りを付けることにしました。

 これがお兄さんだったら、力業で解決するんでしょうね…。

 爆破魔さんや羽根の人でも、きっと自力でどうにかするんでしょう。

 彼等は、自分の力に自信のある方々ですから…。

 でも、私は自分にそんな自信なんてありません。

 治癒術特化の私に、力業は無縁の領域です。

 夢の世界の脱出なんて、簡単な様で『人間』の国からの脱走より難易度高いんじゃ…

 考えていて、とても虚しくなりました。


 考えても分からない時は、誰かに聞くか、できることを一つ一つやるか。

 直進も、たまには嫌いじゃありません。

 ここには話を聞ける相手もいないので、益々選択肢が絞られます。

 取り敢えず、散策することにしました。

 空間の把握は、脱出を考えた時に重要な要素となります。

 考え無しに歩き回るのも問題かも知れませんが。

 偶然出口を見つけられたらラッキー、くらい考えて気を楽にした方が良いのかも知れません。

 夜の神様からアイツのとんでもない行状を聞いて以来、どうしても気が急きます。

 移動して、出口か…

 …夜の神様が言っていた、夢の世界の管理を任されている神様、を見つけられたら。

 夢の世界にいるとは限りませんが、誰か見つけられたら。

 夜の神様の配下なら、きっと魔族に優しいですよね。希望的観測ですけど。

 それでも、希望は持つに限ります。

 楽しい想像など何もできませんが、希望一つを胸に、私は夢の世界を動き回りました。


 

 思ってもいなかった、見慣れた姿。

 アイツの『影』を見つけることになるなんて、欠片も思わずに。







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