そして命がけの鬼ごっこ
引き続きラフィラメルト視点でおおくりいたします。
僕は必死で逃げていた。
誰からって?
仮面を失った仮面男からだよ。
うわあぁぁぁぁぁっ!? くる、くるぅぅぅぅぅぅぅぅっ!
後ろから追ってくるよ、あの仮面! いや、もう仮面じゃないのかな!?
仮面じゃなかったら何て呼べばいいの!? 変態!? 案山子頭!? (←混乱中)
ひぃんっ 彼奴、なんだよ、あのスピード!
もう『人間』の体裁取ってないよね!? 取れてないよね!?
幾ら僕が小さいからって、飛行生物をまともに追跡できる『人間』なんていないよ!?
こわい! しつこい! おとなげない!
でもやっぱり、なによりも、こわいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!
ひゅんひゅんひゅんっ (ドガッ ドッッ ガスッッッ)
空気を切り裂く鋭い音は、どこか笛の音に似てる。
笛の音は好きだけど、刃物はきらいだよおぅぅぅぅぅぅっ!
何を置いても狙い定められたりしない様に、ジグザグ蛇行で必死に跳び続ける、僕。
それはただ真っ直ぐ飛ぶよりずっと疲れるけれど、背に腹は代えられないよ!
だって、今もそのお陰で命を取り留めたし(泣)! 焼け石に水かもしんないけど!!
仮面馬鹿が僕に向けて放った、冷たく光るモノ。
ギラギラした光沢は、まるで濡れてるみたいだね。
偶に見れば奇麗だけど、それに背中を狙われても奇麗とは思えないよ!?
蛇行飛行のお陰で避けられたけど、それも所謂紙一重。
僕の髪の毛や服をかすって壁に付き立ったナイフは、僕の身長の1.5倍。
命中したらば、必然的に「死」…
うっ うわあぁぁぁぁぁぁぁんっっ(泣)
やっぱり、やっぱりっ 穀物神様の任務なんて引き受けるんじゃなかったよぅ!
泣き言を言っても、時既に遅く。
既に仮面を粉砕してしまった身としては、生き延びる為に逃亡を続けるしかない。
追いつかれる、捕まる…ソレ即ち、「死」…むしろ、「消滅」。
そんな勢いで追ってくる仮面は、全力で大人げなかった。
あれ、絶対、穀物神様の目論見通り「神の力」とやらを発揮してるよね!?
何が何でも仮面を叩き壊した僕を捕まえ、嬲り殺しにするって目が言ってるよ!
背後から迫る仮面の気配が、他に例えようもなく死神っぽい。
そして事実、あの仮面は僕にとっての死神になるかもしれない。
未だ見えぬ逃避行の終わりがどうなるのか…どんな形で、幕を閉じるのか。
もしも逃避行半ばで力尽きるか運が尽きるかして、仮面に殺されたら…
恐ろしすぎて、想像もしたくない…。
だけどもし、命を保ってゴールにたどり着けたなら。逃げ切れたなら。
ゴール(穀物神様)に無事たどり着けたら、それなら良い。
あの方の元まで到達できたら、そこで僕の命は助かったも同然だよ。
天界の神々に所在がばれたらマズイから、大きな力は使えないけど、僕のことは庇って下さるってお約束を戴いたから。大きな力ってのも、神様基準の話らしいし。
実際には妖精一人を保護する位なら、問題ないって言っていたし。
それに穀物神様は今まで正体がばれない様に散々仮面を避けまくってきたけど…
実際に仮面を前にしたら、多分仮面は穀物神様に気付く。という目論見。
僕の狙い通りなら、予想外の再会に驚いて隙ができるはず。
あんだけ忠臣ぶってて気付かなかったらお笑いぐさだしね。
僕はもう、半泣きどころじゃなく、真実しっかり泣いてる状態で。
終わりの形が望むものと重なる様に、死なないで済む様に。
今はもうそれだけしか考えられないから、死に物狂いで必死に飛び続けた。
ぎりぎり紙一重で当るか当たらないかといった具合に飛来する仮面の攻撃に、本気の殺意。
0歳児には刺激が強すぎるよ…(泣)。
僕が辛うじて仮面の攻撃を避けきれているのも、未だ一つも当たっていないのも。
それもこれも全て、穀物神様のお陰だ。
事前に保険を掛けていてくれて、有難う御座います。今、本気で感謝してるよ。
実際、僕に向かってくる仮面男の攻撃は、悉く紙一重で『逸れて』いる。
僕自身が避けている、訳ではあるけれど…
それでもやっぱり、避けきれない攻撃も中にはある。
でもそんな攻撃が、全て例外なく、僕に迫ると勝手に進行方向が微妙にずれる。
その結果、僕は一命を取り留めている状態だ。
それは穀物神様が、危険な任務に就く僕へ、特別に『加護』を与えてくれたお陰。
加護は祝福。
神としての存在を失っている今であっても、穀物神様の魂…本質は変わらず、神。
大きな力を使えずとも、神は祝福を、加護を与えることができる。
穀物神様は、加護を与えるのは力を使うのとは、また別の感覚だって言ってた。
祝い、言祝ぐのに言葉を紡ぐ口さえあれば事足りる様に。
神にとって加護を与えるのは、特別なことではないんだって。
お陰様で、穀物神様の加護を貰っていたから、僕は命を取り留めている。
だって、案山子神である仮面は穀物神様の部下。
穀物神様の与えた加護を持つ相手に、身命を損ねる様な直接的な危害は及ばない。
『人間』を洗脳したりとか、傀儡にしていた様な気がするけれど…
多分、そこら辺は魂や身体に傷を付けた訳じゃないから、通用したんだろうね。
でも僕の場合は今、ガチで命を狙われています。
容赦なく飛来する刃物や火の玉が、僕の命の灯火を吹き飛ばそうってするんだ。
うん、かなり直接的に身命を損なおうとしているね?
そんなんだから、肝心の所で攻撃がそれるんだよ。
だけど逸れると分かってはいても、やっぱり向かってくる刃物や火の玉は恐いんだ。
冷静になんてなれないよ? だって、本当に物凄く恐いから。
だって仮面の攻撃、全部僕より大きいのが、真っ直ぐ僕に向かってくるんだもんっ!
逸れると分かってはいても、感情が納得しないんだよぅ…っ!
ああ、もう、ほんと…今すぐ助けて、穀物神様ぁ!!
僕は穀物神様に匿って貰う為、体力の限界に挑戦しようと全速力を維持し続けた。




