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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
規格外の青年たち
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9.険しい山奥、100%の羽毛

 旅に出てから、仲間になってくれた魔族は未だ二人。

 旅立ちの時の二倍になった、とアイツは嬉しそうに笑う。

 アイツとは逆に、私はまだたった二人しか仲間がいない現実に焦っていた。

 早いところ充分な数の仲間を集めなくてはいけない。私がしっかりしなくては。

 意気込みはあるのに、空振りしそうで恐くなる。

 

 取り敢えず、新たな人材に心当たりはないかお兄さんや爆破魔さんに尋ねてみた。

この二人に聞く時点で言い知れぬ悪い予感もするけれど、背に腹は代えられない。

「…誰か私達に協力してくれそうな良い人、知りませんか?」

  お兄さんと爆破魔さんは二人顔を見合わせ、やがて一つの名を口にした。


 という訳で、現在。

 --険しく切り立つ、道なき道。所々から溢れる溶岩。鼻につく異臭。

 --崩れやすい足場の隙間から見えた、沢山の白い骨。霊場顔負けの異様な威圧感。

 私達はこの辺で悪魔の山と呼ばれる、険しい上に危険すぎて生身での登山不可能とさ

れる岩山に来ている。何故なら、この生物の生存を嘲笑う様な峻厳な山奥に、お勧めの

有能君その2が隠れ住んでいるというからだ。

 有能君その2の現住所を聞いて、思ったこと。

 --その人、絶対人じゃない。むしろ、仙人か。

 間違いなく、その人もお兄さんの類友。そのことを確信し、私達は覚悟を決めた。


 登山を開始してから、三週間。それだけの時間が経っても、未だ頂上は遠い。

 この三週間程、私は自分が魔族で良かったと思った日々はない。

 生身での登山は本当に無謀なこの山を、魔法無しで乗り切れただろうか。

 私には無理だ。アイツにも無理だ。そして爆破魔さんにも無理だった。

 幸い、爆破魔さんの巧みな魔法の補助も受け、私とアイツは何とか登山に耐えている。

疲労回復や身体補強、風を操ること、空を飛ぶこと。生命の危機感から、私達の魔法の

腕はメキメキ上達した。ちょっとした強化合宿をしたようなものだと、爆破魔さんが笑

う。強化合宿のつもりだったのなら、前もって通達しておいてほしかった。

 そう思う程、辛い三週間でもあった。


 そんな中、たった一人だけ一切の魔法を使わずに生身登山をしているお兄さんはやっぱり

化け物だと思う。思えばお兄さんが魔法を使っているところを見たことが無い。だが、魔法

無しなのに魔法で楽をしている私達と同じ速度移動を平然と行うお兄さんの体力の前には、

魔法など全く必要ないのかもしれない。


 やっと頂上が見えてきた。まだ、見えているだけで遠いけど。

「…本当に、遠い道程だった……」

「ここに住んでる奴、絶対化け物だ…」

 私とアイツは、魔法で楽していても疲労困憊で倒れそうだった。

 平気な顔をしているのはお兄さん。うっすら汗を掻いているだけの爆破魔さん。

 彼等の同類だろう新たな人材は、一体どんな化け物だろうか…。


 頂上にあったのは、家ではなく洞窟だった。

戸の代わりに出入り口を仕切っている織物を潜り抜け、お兄さんが洞窟の中へと踏み入った。

言うまでもなく、無断で。声など一切かけずに。

 無断侵入はお兄さんにとって普通のことなのだろう。

 もはや何も言うまいと、私達はお兄さんと距離を取り、音で洞窟の中を窺う。

 この後、お兄さんと家主の間で乱闘が始まっても、絶対に巻き添えを食わない様に。

 里を出た時、あんなに世間知らずだった私達。

 だけど今、私とアイツは大事なことを知っている。

 いつでも用心と先の予測を欠かさぬ事。そして何よりも、何かがあればお兄さんから離れ、

確実に安全が確保できるまでは決して近寄ってはいけないこと。

 大事なことを知った代わりに、私達とお兄さんの心の距離も離れていきそうになっていた。


 暫くして、お兄さんが不思議そうな顔で洞窟から出てくる。

 私達の顔を見つけ、不満顔で文句を言った。

「お前等、何でついてこねぇんだよ。気付かないで俺だけ先に行っちまったじゃねぇか。

お陰でフェイルの奴に妄想狂扱いされただろうが」

 どうやら、今回は何の乱闘も起きず、平和な展開が待っていたらしい。

 私とアイツは安心して、ゆっくりと洞窟の中へ入っていった。


 洞窟に入った私達を迎えてくれたのは、暗くも寒くもなく、明るくて温かみのある部屋。

居心地の良い空間には、羽毛を敷きつめて作られた家具が、どことなく可愛らしい印象だ

った。ただし、住んでいるのは確実にお兄さんの類友。過剰な期待をしてはいけない。

「なんだ。本当に客人を連れてきていたのか」

 未開の森の奥、ひっそりとした湖水の様に静かな声。

 触れると冷たそうに思える程、静かな瞳、静かな声の置物めいた青年。

 私達を迎えたのは、お兄さんや爆破魔さんとはまた印象の違う、とにかく静かな青年。

但し、静かなのは印象だけで、彼の背中にはばっさばっさと忙しなく、思いっきり動物め

いたモノが生えている。全体的な印象は冷たいのに、背中だけ物凄く温かそう。

 私とアイツは、ポカンと口を開けて驚いていた。

 驚いたまま、何も言えずに無心に青年を見つめている。

 それは青年が物凄い美形だったからでも、超人めいた印象だったからでもない。


 私達が青年に注目せずに入られなかった理由。

 その理由は…彼の背中を、100%天然の羽毛をが覆っていたから。

 六対十二枚の、大きく柔らかな翼が、しっかりと生えていたから。

  

 お兄さんの紹介で、私達が新たに現れた不思議な人。

 魔族には無いはずの、大きな翼を持つ、珍しい魔族。

 魔族の中で翼を持つ、最初の一人。

 後にアイツの魔法面での師匠の一人となる彼は、やはりお兄さんと同じく規格外としか

言い様のない雰囲気のある人だった。

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