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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
規格外の青年たち
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8.爆破魔の恩返し

 手慣れた様子で爆破魔さんは家の穴を塞ぎ、私達を応接間に通す。

 慣れた様子と、疲れた顔。そして常備してある修理道具の存在が物悲しい。

「それで、そちらの子供達は何なのです。隠し子…の訳はもちろんありませんし。

まさかアシュルー、貴方、どこからか攫ってきたのではありませんでしょうね?」

「てめぇ…俺のことをどう思ってるのか、今度じっくり話し合おうぜ」

「面倒なのでレポートで出しますよ。文面で確認して下さい」

「それこそ面倒だろうが」

 上座の長椅子独り占めでお兄さんは踏ん反り返り、爆破魔さんと睨み合う。

 お兄さんは爆破魔さんの家に来て、すっかり態度が悪くなりました。

 どうやら、私達の前では一応気を遣って取り繕っていたらしい。

 …別に取り繕えてはいなかったけれど。

「それで、今回の突然の訪問はどうしたというのです。どうせその子らが関係する

のでしょう? そろそろ説明して頂けませんか?」

 お兄さんの首を狙っていた先程の姿が嘘の様に、爆破魔さんは穏やかで丁寧な人

だった。何となく、丁寧なのは言葉遣いだけの様な気もするが、雰囲気が穏やか

なので物腰も丁寧に見える。何ともお得な人材の様だった。


 爆破魔さんは出会いの最初こそ鬼ごっこや家の修理で時間を取ったが、一度話し

始めれば話の理解は早く、察しも良く、予想以上に話は早く進んだ。

「それでは貴方方はまだ幼いと言うのに、同族の為、旅立ったというのですか。

自由を侵害され、平和を侵蝕される同胞を救う為、これから『人間』達に対抗して

行こうというのですか」

 私達の話を最後まで聞いてから、爆破魔さんは念を押す様に確認してくる。

 その瞳は真剣で、私達がどこまで本気かを見定めようとしている。

「もちろん、そうだよ」

 だけど、アイツはあっけらかんと答える。

 あっさりとした返答に爆破魔さんが呆気に取られた顔をして、眉間に皺を寄せた。

 あまりにもアイツが簡単に答えるから、本気を図りかねているのだろうか。

 でもアイツは、こういう状況にとても強い。

 その裏表のない素直さで、見てる方が明るくなれる笑顔で、嘘をつかない誠実さで。

 どんなに疑われても、どんなに鼻で笑って馬鹿にされても。

 アイツは、いつだって自分を曲げない。信じて貰えなくても負けたりしない。

 そしていつも、最後には相手に信じさせてしまうのだ。

 『アイツ』という少年の本気と、未来を感じさせる可能性を。

「俺達の里は、俺が知るだけでも三百人くらい、『人間』の仕打ちから逃げた魔族が

住んでる。もう『人間』を恐れないで良いはずなのに、その人達も、里の大人達も、

みんなピリピリしていて、悲しそうなんだ」

 爆破魔さんから向けられる視線の強さに、アイツは不安そうにしながらも自分の考え

を言葉にしていく。

 里を出た夜、私が尋ねた時みたいに、アイツは真剣に答えようとしていた。

 自分が何を思っていたのか、何がしたいのか、爆破魔さんに伝えようとしていた。

「俺は世間知らずだけど、『人間』を放っておいたら駄目だって思ってる。だって、

放っておいたら俺やリンネだって不幸になるかもしれない。それが嫌だと思ったんだ。

それで、人間をなんとかしなきゃって思ったし、できるとも思った。俺一人だけじゃ、

駄目だけど。俺だけじゃなくて、魔族みんなが協力したら『人間』なんか相手じゃない

と思うんだ。うん、やっぱり、魔族が協力して戦えたら、そしたら魔族が最強だろ?

その最強を実現させるには、やっぱり発案者の俺がみんなに呼びかけないと、って…」

「…そう、思った訳ですか」

 うろうろと視線を彷徨わせながらも、台詞の要所要所ではちゃんと爆破魔さんの目を

みて言い切ったアイツ。ずっと顔は緊張で強張っていたけれど、それでも自分の言いた

い事を言い切れた様で、アイツは最後に晴れやかに笑った。

 やっぱり、太陽みたいな笑顔だった。


 アイツの言いたいことを最後まで聞いて、爆破魔さんは暫く何かを考えていた。

 だけど次に顔を上げて私達に目を合わせてきた時、その顔には温かい苦笑を浮かべて

いた。肩の力を抜いた様で、室内の空気まで柔らかくほぐされる。

「一応、分かりましたと言っておきましょう」

「分かったって、コイツ等が聞きたいのは「はい」か「いいえ」だろーが。どっちだよ」

「何ですか、アシュルー。僕は、わざとはぐらかしたんですよ?」

「おい」

 何故か私でもアイツでもなく、お兄さんが威嚇する獣の目で爆破魔さんを睨み付ける。

 私達なら固まる殺気も、爆破魔さんは慣れた様子で受け流した。

 その泰然自若とした様子に、うっかり尊敬しかける。


 お兄さんの獣の目ではなく、私達の不安そうな目に気付いて、爆破魔さんは優しく話し

始めました。気を遣ってくれているのでしょう。

「正直な感想ですが、僕を説得する為の言葉としては及第点に及んでいません。ですが

その発想や考えていることは、とても興味深いと感じました」

 何だか前振りだけで、話が長くなりそうな予感が。

 私達が欲しいのは優しい言葉ではなく、「仲間になる」の一言です。

 分かっているだろうに、爆破魔さんは焦らしてくる。

「言葉は拙いですが、グター君の真摯な目にも声にも、共感できるだけ魅力があります。

言葉は拙くとも、聞く者を引きこむ。これは得難い才能です。それに君達には可能性を

感じさせられました」

 爆破魔さんの言葉が、どこまで本気なのか分からない。

 私達は爆破魔さんが答えを口にするのを辛抱強く待ちます。

 頼みますから、お兄さんがキレる前に結論を教えて下さい。

「僕も同胞の未来を憂う一人として、同胞の為にできる何かがあるのなら、なりふり構わ

ずに協力したいという気持ちはあります。むしろ、仲間を救う助けになりたいという気持

ちだけがあります。そして僕のとっての『同胞』には、初対面であろうと同じ魔族である

君達も勿論含まれています」

 そう言って、爆破魔さんは改めた様子で姿勢を正し、真っ直ぐにアイツを見る。

 元来、生真面目なところがあるのだろう。だからこそ、話しも長い訳だが。

 爆破魔さんは私達に向けて深々と頭を下げ、私達が待ち望んだ答えをくれた。

「だから、同胞である君達の助けになるのなら…お手伝いするのも吝かじゃありません。

僕を貴方達の仲間に入れて下さい。未来ある子供の手助けになれるのなら、それ以上に僕

が有意義だと感じられるも、きっと他にはありませんからね」


 爆破魔さんが正式に仲間になって、何故かお兄さんが不思議そうな顔をしていた。 

「紹介しておいてアレだが、正直、マゼラが仲間になるとは全っ然思ってなかった」

「駄目じゃないか、アー兄!?」

「今回は良いけど、希望のない人材を差し向けないで下さい!」

 大慌てでお兄さんに詰め寄る私達を、新たな仲間の爆破魔さんが宥めようとする。

「まあまあ。確かに僕も、最初は仲間になることに乗り気じゃありませんでしたけどね」

「じゃあ、なんでマゼラ兄は仲間になってくれたんだ?」

「それは、貴方の言葉が本気で、真剣な気持ちが籠もっていたからですよ。

いつの世だって、結局大人は子供に勝てないものです。特に、純粋で本気の気持ちには。

そして未来ある子供を助け、大事にすることは、きっと僕にとっては何より優先すべき

大事な仕事だと思いましたからね」

 にっこりと笑う爆破魔さんの顔はどこか作り物めいていて、その言葉をどこまで信じて

良いものか…真意は別にあるのではないかと勘繰ってしまう。

 だけど爆破魔さんの目をみて、建前っぽく聞こえた言葉は確かに彼に本心だと感じた。

 

 疑う様な、迷う様な。

 私の視線に気付いた爆破魔さんが、柔らかな苦笑を向けてくる。

 私に言い聞かせる様にゆっくりと話す様は、何故かどこか嬉しそうでもあった。

「あまり、深く考えて気にしないで下さい。僕が君達の仲間になるのは、完全に善意

からだけで出た結論ではありませんから」

「それは…理由を聞いても?」

「良いですよ」

 どんな思惑を腹に隠しているのかと思いきや、爆破魔さんはあっさりと答える。

「子供の頃、誰かに助けられて恩を感じたのなら…それは、いつか自分が大人になった

時、誰か別の子供を助けることで未来に恩を返すべきだと言われたことがありまして。

そして僕は、貴方達を恩返しの相手に決めた。それだけです」

 爆破魔さんは私達の仲間になった理由の一つだと前置いてそう言うが、彼の言い分は

何となく爆破魔さんらしく無い様な気がした。それ程相手を知っている訳でもないが。

 もしも誰かに恩を受けたら、恩人本人にきっちり利子付で恩を返しそうな気がした。

 そして私の予想は、それ程外れてはいなかったらしい。

「まあ、僕を助けてくれた張本人は、恩なんてどうでも良いと思っているみたいです

けれど。でも、恩は恩ですし。恩人本人の頼みもあるとなれば、協力しない訳には

いかないでしょう?」

 そう言って爆破魔さんが、楽しそうに笑う。

 彼の瞳がお兄さんにさり気なく向けられていて、気まずげに遠くを見ているお兄さん

の居心地悪そうな様子に、私も思わず笑ってしまった。


 何となく、お兄さんの居心地が悪そうな理由が分かってしまう。

 恩を楯にとって言うことをきかせたなんて、思わなくっても良いのに。

 だって爆破魔さんは、様々な思いを吟味した上で、自分で決めたんだから。

 お兄さんは紹介しただけで、強要しなかった。

 爆破魔さんはアイツの気持ちと、お兄さんのことを考えて道を選んだ。

 爆破魔さんは、新しい仲間。

 それは爆破魔さんが自ら望んで選んだ、新しい仕事と関係性の始まりだった。


お兄さんに恩を返したい爆破魔。

その恩を全く気にしていないのがお兄さん。

恩人のお兄さんと一緒にいたお陰で好意的に受け止めて貰えた主人公達。


一応、爆破魔が仲間になった決め手はグターの素直さです。

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