表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
豊穣の王女
105/193

60.王都




 建物に区切られた、狭い空。

 それでも空は空として変わりなく、今日も青一色で。

 思った以上に遠い場所へと引きずり出されたというのに。

 ほんの一月前に居た場所から、こんなに遠いというのに。

 それでも空は、空の色は変わりない。

 逆に言うと、それだけしか変わらない物はない気がして。

 それ以外の全部が、私の日常だった過去とは大きく懸け離れている気がして。

 なんとも居心地の悪い思いに、私は落ち着くと言うことができずにいた。



 仮面の男に買い取られ、一月が経とうとしている。

 それは私が神器を手にしてからもまた、一月経とうとしているってことで。

 それだけしか時間は経っていないのに、私はなんで、こんなに遠い場所にいるんだろう。


 密集した建物、数えきれない『人間』の行き交う往来。

 煉瓦敷きの道を抜ければ、そこに重厚な城がある。

 まるで要塞の様な、堅固な城。

 この城を陥落させるには、どんな手法を用いるべきか。

 思わず算段を脳内で組み立ててしまうのは、もう生業に近いかも知れない。


 手を加えられる場所には技術を注ぎ込まねば気が済まないという、『人間』の気質。

 それをそのまま表した様な、手の込んだ外壁。目立つ城壁。

 風にはためく旗にも麗しく、細かな刺繍が刺されている。

 『人間』にとって何より重要な、中心としたる威容を示そうとするかの様に。

 道々連なる店舗も立派なら、『人間』達の姿も、今まで見た中では洗練されている。

 『人間』達の技術の粋と、威信を積み重ね、築き上げられた都市。

 『人間』達の活気と、華やかさと、欲深さの混沌を集めた都市。

 『人間』達の中心…王都。

 

 私は今、なんで自分がこんな所にいるのかと考えている。

 何故、自分がこんな所まで連れてこられたのかという、理由を。

 『奴隷』の身に落ち、神器を手にして一月。

 それまでも波乱だったが、それ以上の波乱に掻き乱されて、一月。

 私は『人間』達の国の中心…王の都へと、足を踏み入れていた。


 この時点で私は自分が王都どころか、王城という国の中心そのものへ足を踏み入れるとは思ってもおらず…予測の甘さと、自分の甘さ、自分の未熟者振りに苦い思いをすることとなった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ