60.王都
建物に区切られた、狭い空。
それでも空は空として変わりなく、今日も青一色で。
思った以上に遠い場所へと引きずり出されたというのに。
ほんの一月前に居た場所から、こんなに遠いというのに。
それでも空は、空の色は変わりない。
逆に言うと、それだけしか変わらない物はない気がして。
それ以外の全部が、私の日常だった過去とは大きく懸け離れている気がして。
なんとも居心地の悪い思いに、私は落ち着くと言うことができずにいた。
仮面の男に買い取られ、一月が経とうとしている。
それは私が神器を手にしてからもまた、一月経とうとしているってことで。
それだけしか時間は経っていないのに、私はなんで、こんなに遠い場所にいるんだろう。
密集した建物、数えきれない『人間』の行き交う往来。
煉瓦敷きの道を抜ければ、そこに重厚な城がある。
まるで要塞の様な、堅固な城。
この城を陥落させるには、どんな手法を用いるべきか。
思わず算段を脳内で組み立ててしまうのは、もう生業に近いかも知れない。
手を加えられる場所には技術を注ぎ込まねば気が済まないという、『人間』の気質。
それをそのまま表した様な、手の込んだ外壁。目立つ城壁。
風にはためく旗にも麗しく、細かな刺繍が刺されている。
『人間』にとって何より重要な、中心としたる威容を示そうとするかの様に。
道々連なる店舗も立派なら、『人間』達の姿も、今まで見た中では洗練されている。
『人間』達の技術の粋と、威信を積み重ね、築き上げられた都市。
『人間』達の活気と、華やかさと、欲深さの混沌を集めた都市。
『人間』達の中心…王都。
私は今、なんで自分がこんな所にいるのかと考えている。
何故、自分がこんな所まで連れてこられたのかという、理由を。
『奴隷』の身に落ち、神器を手にして一月。
それまでも波乱だったが、それ以上の波乱に掻き乱されて、一月。
私は『人間』達の国の中心…王の都へと、足を踏み入れていた。
この時点で私は自分が王都どころか、王城という国の中心そのものへ足を踏み入れるとは思ってもおらず…予測の甘さと、自分の甘さ、自分の未熟者振りに苦い思いをすることとなった。




