7.お兄さんと爆破魔
お兄さん曰く、お兄さんのお友達は正確にはテロリストではなく、爆破魔という
モノに分類されるらしい。
正直どっちでも良い。
何がどう違うのか分からない。その二つは分けるべきなのだろうか?
お兄さんの人脈に不安を感じながら、私達は会う覚悟を決めた。
会うか否か、爆破魔さんの家の前で相談し始めてから、一時間が経っていた。
お兄さんのお友達、爆破魔さんの家(隠れ家)は、魔法で巧みに隠されていた。
元々ここに家があると知らなければ分からない程の、精密な魔法。
どうやら有能で実力者という前情報に偽りはないらしい。
紹介される立場として、私とアイツはお兄さんの出方を窺うことにした。
そして私達は、お兄さんに場を任せたことを出鼻から後悔することに。
「おるぁ…っ!!」
いきなりだった。
お兄さんが、いきなり爆破魔さんの家の壁を蹴り壊した…!?
「ちょっ お兄さん!?」
「アー兄っ 人様の家、壊しちゃってどうすんの!」
私とアイツ、二人の顔からザーッと音を立てて血の気が引きます。
前からとんでもない人だとは思っていたが、友達の家を蹴り壊すなんて。
そんな、一体どんな友人関係を築いているんだろう。お兄さんにとっては、友達の
家は破壊するのが普通なんだろうか。そんな友達、私だったら絶対に要らない!
「おいおい、お前等、なんてぇ顔してんだよ」
だけどお兄さんは、晴れ晴れとした顔で私達を安心させる様に微笑んだ。
わざとらしい程に、清々しい爽やかさ。お兄さんには似合わない。
お兄さんはもっと、悪鬼の様に傲慢で猛々しい笑顔が似合う。
だから、この笑顔が作り物なのは明らかに思えた。
「心配すんな。ここではこれが通常運転だ」
…やっぱり、お兄さんには一般常識がないらしい。
笑顔で私達を納得させようとするお兄さんに、何と言って常識を教えるべきか
わからない。むしろ、分かっていてやっていそうなので言うべき言葉が見つからない。
私達が何とも言いがたい顔で戸惑っていると、別の方向から文句が来た。
「そんな訳、ないでしょう!!」
初めて聞く声で、当然ながら初めて会う人だった。
その人は、お兄さんが破壊した家の、玄関からこちらを忌々しげに睨み付けていた。
ああ、そうですよね。
一時間も玄関の前でうろうろした挙げ句、盛大に家を壊されたら、来客の存在に
嫌でも気付きますよね。むしろ気になりますよね。どんな強盗が来たのかと。
文句も言わないでは居られないでしょう。気が済むまで存分に言って下さい。
勿論、お兄さん一人に。私達はただの巻き添えなので。
「さっきからざわざわざわざわ、誰が家の前で騒いでいるのかと思えば…!
いきなり来るな。来るなら事前連絡。そして来るごとに家を壊すな…!!
お前は何回も人に同じ事を言わせて楽しいのか、アシュルーっ!!」
どう見ても家主以外の何者でもない、新たな人物。
お兄さんの首を狙ってナイフを立て続けに投擲し続ける姿は、鬼気迫るモノがある。
彼の怒気は膨れあがる一方で、ナイフをひらひら避けながら家主を煽るお兄さん
の嫌みったらしい笑顔が、彼を殺意に駆り立てているようだった。
この人が、お兄さんの言うところの「爆破魔」さん。
外見からは、そんなに荒々しくも猛々しくも見えません。意外です。
頭脳派と聞いていたのでお兄さんとは別系統の人種だろうと思ってはいた。
だけどお兄さんの同類でもありそうだから、不健康そうな、退廃的な、そんな
イメージを想像していたんだけど。爆破魔さんは、外見からは予想外に常識人っぽく
見えた。今は怒り狂っているせいで荒ぶっているけれど。
アイツと二人で避難した庭木の影から観察したところ、爆破魔さんの外見は
穏やかで知的だ。争いごととは縁が薄そうに見える。
人は見かけによらない。
その言葉を、私達は強く胸に刻み込んだ。
お兄さんと爆破魔さんの追いかけっこが終了するまでに、更に一時間が経過した。
あんなにナイフを投げつけられまくっていたのに、お兄さんは無傷。
何百も何千ものナイフに狙われて、まぐれ当たりどころか擦りもしていない。
やっぱりお兄さんは化け物だと認識を新たにしながら、私達は避難先から出る。
「ここではコレが普通って、やっぱ家主が怒ったじゃん。駄目だろ、アー兄」
流石のアイツも呆れ顔で、ずっと年上のお兄さんを窘める。
「玄関に近寄ってノッカーを叩くとか、そんな『普通』は元から此処じゃ通用しない。
だから家を壊すのも仕方ない」
「アー兄、無茶苦茶言ってるよ」
「馬鹿、この家の玄関はヤバイんだって」
「何がそんなに危険なんですか、お兄さん」
「この家、侵入経路になりそうな場所は罠だらけなんだぜ?」
「「罠…」」
私達は、怒りが収まってすっかり落ち着いた爆破魔さんの顔を見上げた。
爆破魔さんは、私とアイツに警戒する様子を見せながら、鼻で笑う。
「当然でしょう? いつ誰が襲ってくるか分かりませんから。どこでどんな恨みを
買うか知れたものじゃない。これでも、『人間』には恨まれているんで」
平気な顔で、罠を張るのを当然だと言う爆破魔さん。
そう言えばさっきも別に、お兄さんに「玄関から入れ」とは言っていない。
「やっぱり類友か…」
アイツの言葉に、私は今回も内心で同意した。
今回、新しい仲間が出てきました。
ですがお兄さんにナイフを投げることしかしていない。




