大切なもの
「あんたは、私の弟というだけ!何で私にここまで付いて来るの!?」
かなりの厳しい声でそう言われた。たしかに、そりゃ俺も悪かったよ。後を付けていくなんて。
でもさ、これさすがに酷いぜ。自分の親友(?)の前で姉に説教をされるなんて……。俺にだったプライドというものはありますよ。
そして、俺の親友(?)である福田はケラケラと笑っている……。これってキレてもいいですか?なんてね。あっちだってイライラしてるのであろう。
とは言え、もう過ぎた話ではある。単純な性格で、基本的に過ぎたことは気にしない。まあ、話によるがな。今のレベルであれば我慢はできる。まあ、せっかく金を払ってカラオケに来たのに、その事件で帰るのは寂しいがな……。あいつらと居るの結構楽しいんだぜ。
家に帰ると、ポストにハガキが入っていた……。え?ポストだからハガイは入ってるに決まってるだろって?そんなのは、嫌な予感がしたからネタにしただけだよ。
ハガキなのに真っ黒だったらびびるだろ!普通は白いだろ?なのに全部が黒だぞ!!!さすがの俺でもびびったぜ。俺がどのくらいかはさておき……。
表面と裏面どちらも黒はさすがに……。
そして、問題は内容だ。
『これは、不幸の手紙です。あなたは三日以内に誰かにこの手紙と全く同じ内容のことを送らなければ……』
……?え、何!?まじでその先は何!?なんかある意味怖いんですけど!逆にリアル!
てか……。一番驚いたのは、不幸の手紙とやらはまだこの世に存在していたんだ……。もう絶滅していたかと思っていたぜ。
さて、もう夜になってしまった……。せっかくの部活がない貴重な日も、もう終わろうとしている。まあ、俺にはそもそも部活というものが無縁の話だが。
「ぶーぶー」
メールだ。ちなみに、今の「ぶーぶー」は、別にバイブレーションではない。豚の鳴き声だ。といってもリアルな感じの鳴き声ではない。
『今日は、ファミレスでご飯食べてから帰るから』
絵文字を一つも使わない、何とも寂しいメールだった。姉からだ。
「さて、ご飯でも作るか……」
なぜか、独り言をつぶやいてしまった。俺は独り言なんてまず言わない奴だ。自分でも驚いてしまった。
今までは、別に家族が居ないのにも慣れていた。それに穂の家の人にもお世話になってたし。今だってお世話になってる。
そこに一人の姉がやってきたんだ。家族が来たんだ!
なのに、……。何でだよ……!姉が少し居ないだけでも悲しかった。まだ、出会ってから一ヶ月しか経ってない。いや、幼いころに既にあってるはずだが。寂しい……。こんな感じは初めてだ。穂がいなくてもこうはならない。
肉をいためてるだけなのに、涙がでてくる……。悔しいし、悲しい……。
料理を作れそうもないので、火を消す。同時に、体から力が抜けていった。
気がつけば、なぜか布団に寝ていた。
その横には、あの俺がスタンガンで倒れたときのように姉が座っている。
「気がついた……?」
「ああ」
なんとも、寂しい会話だ。あの時とはまるで違う。
「何でさ、調理中に倒れてるの?」
「さあな……」
会話は続かない……。そりゃあそうだろう。カラオケでの事件があれば無理ないだろう。
そう思っていたが……。なぜか姉は俺を抱きしめてきた。
こういう展開は全く期待していなかった。てか求めてもいない。……。でもさ……。今の状況ではとても有難かった。
そのまま、あの日のように……、キスをしたときのように寝てしまいそうだった……
そのとき、自分の部屋のドアが開いた。
「なんで……?なんで!?」
悲鳴をあげるようにドアを開けた彼女はそう言った。片手にもっていた、小さな箱と鍵を、俺の頭に投げつけて、部屋から出て行った……。
俺にのって、一番大切な人は誰なんだろな……?今、自分にしたい一番の質問だ。
ここで、選択を間違えればすべてを失う。人間には、すべてを手に入れることは不可能だ。それをしようとすれば、人間は終わる。つまり、それは俺が言う『普通でない』になってしまうのだ。