7話 魔法学院の試練
一週間後。
王立魔法学院では、年に一度の魔法試験大会が開催される。
これは、学院の生徒たちが魔法の実力を競い合う、一大イベントだ。
優勝者には、王家から特別な称号と褒賞金が授与される。
しかも、今年の賞金は金貨百枚。
貴族にとっても、無視できない額だ。
「リュシエル様、出場なさるんですか?」
エミリーが尋ねてきた。
心配そうな顔をしている。
「ええ、もちろん」
私は自信満々に答えた。
「クラリッサを、公の場で叩き潰すチャンスだもの」
「でも、お嬢様、魔力はそこまで……」
確かに、私の魔力は平均的。
クラリッサのような天才型ではない。
「大丈夫よ。魔法は、魔力だけじゃないわ」
私には、前世の知識がある。
そして、この世界の魔法理論も徹底的に研究してきた。
(知識と戦略で勝つ)
それが、私の作戦だ。
「それに」
私はにっこり笑った。
「テオドールも観に来てくれるもの」
「お嬢様、顔が緩んでますわよ」
エミリーが、にやにやしている。
「……気のせいよ」
試験大会の前日。
私は図書館で、最後の勉強をしていた。
机の上には、魔法陣の参考書が山積み。
「ふむ、『古代魔法陣の応用理論』か」
背後から、渋い声が聞こえた。
振り返ると、そこには白髪の老紳士が立っていた。
黒いローブに身を包み、杖を持っている。
いかにも、魔法使いという風貌。
「あなたは……」
「エルヴィン・フォン・シュタイン。魔法史を教えている」
シュタイン教授!
彼は、魔法学院で最も博識な教授として知られている。
学生たちからは「生き字引」と呼ばれているらしい。
「リュシエル・ヴァン・エリュドール嬢だね」
「はい」
「君の論文、読ませてもらったよ。『魔力効率化のための魔法陣改良案』」
教授は興味深そうに言った。
「素晴らしい内容だった。特に、魔法陣の幾何学的配置を変えることで、魔力消費を30%削減するというアイデア」
「ありがとうございます」
顔が、熱くなる。
まさか、教授が読んでくれていたなんて。
「君は、魔力はそう高くない」
教授は私の目を見た。
「でも、知識がある」
「……はい」
「魔法とは、力だけではない。知恵だ。理解だ。そして、創意工夫だ」
教授の言葉が、心に染みる。
「明日の試験、楽しみにしているよ」
教授はにっこり笑った。
「君のような生徒がいると、教師冥利に尽きる」
その言葉が、私の背中を押してくれた。
(よし、頑張ろう)
翌日。
魔法学院の大闘技場には、数百人の観客が集まっていた。
貴族、平民、学生、教授。
みんなが、この試験を楽しみにしている。
屋台も出ていて、祭りのような雰囲気。
私は控室で、最終チェックをしていた。
「リュシエル様、頑張ってください!」
エミリーたち侍女が、応援してくれる。
「ありがとう」
そして、テオドールが入ってきた。
「リュシエル」
「テオドール!」
「大丈夫か?」
「ええ、完璧よ」
彼は私の手を握った。
「君なら、きっとできる」
「……うん」
その温もりが、勇気をくれた。
「では、これより、第47回魔法試験大会を開催します!」
司会の声が響き渡る。
出場者は20名。
その中には、私とクラリッサがいた。
「あら、リュシエル様」
クラリッサが、わざとらしく微笑んできた。
相変わらずのピンク尽くし。
「頑張ってくださいね。まあ、魔力の低いあなたには、厳しいでしょうけど」
「……そうね。でも、魔法は魔力だけじゃないのよ」
「強がりはおやめなさいな」
彼女は鼻で笑った。
「今日、あなたの実力のなさを、みんなの前で証明してあげますわ」
(やってみなさいよ)
私は心の中で呟いた。
最初の試験は、「魔法陣構築」。
制限時間内に、指定された魔法陣を描くというもの。
「課題は、『防御魔法陣・レベル5』です。制限時間、30分!」
スタートの合図と共に、出場者たちが一斉に動き出した。
会場が、緊張に包まれる。
クラリッサは、豊富な魔力を使って、派手に魔法陣を描いていく。
光が眩しいくらい。
周囲の観客が「おお」と歓声を上げる。
一方、私は――
(冷静に、効率よく)
前世の知識と、この世界の理論を組み合わせる。
魔法陣の配置を最適化し、無駄な魔力消費を削減。
一筆書きのように、滑らかに描いていく。
結果、私の魔法陣は、他の誰よりも早く、そして美しく完成した。
「リュシエル・ヴァン・エリュドール、完成!」
私が手を挙げると、会場がどよめいた。
「早い! しかも、あの魔法陣、完璧だ!」
シュタイン教授が立ち上がって拍手した。
「素晴らしい! 彼女の魔法陣は、教科書に載せるべきレベルだ!」
クラリッサの顔が、歪んだ。
まるで、レモンを齧ったような顔。
(やった)
第一試験、私の勝利。
観客席から、テオドールが親指を立てている。
私も、小さく手を振り返した。
第二試験は、「実戦魔法」。
対戦相手と一対一で戦い、先に相手の魔力を削った方が勝ち。
組み合わせが発表される。
私の対戦相手は、クラリッサだった。
「あら、運命的ですわね」
彼女は不敵に笑った。
「ここで、あなたを倒してあげますわ」
「やれるものなら」
私も負けじと言い返す。
試合開始の合図。
クラリッサが、いきなり強力な火炎魔法を放ってきた。
「炎の竜巻!」
巨大な炎の渦が、私に向かって迫る。
熱気が、肌を焼く。
「防御障壁!」
私は咄嗟に防御魔法を展開した。
透明な壁が、炎を防ぐ。
でも、炎の威力が予想以上に強い。
防御壁が、ビキビキとひび割れていく。
(おかしい……彼女、こんなに魔力が高かったっけ?)
その時、私は気づいた。
クラリッサの手首に、光る腕輪がある。
(あれは……魔力増幅器!?)
魔力増幅器は、装着者の魔力を一時的に2倍にする禁止アイテムだ。
試験での使用は、完全にルール違反。
「クラリッサ、それ反則よ!」
「証拠はあって?」
彼女は嘲笑った。
「それに、誰も気づいてないわ。審判も、観客も」
くっ。
確かに、彼女は袖で腕輪を隠している。
遠くからでは見えない。
「さあ、これで終わりですわ! 雷撃波!」
強力な雷撃が、私を襲う。
バチバチと電撃が空気を震わせる。
もう、魔力が足りない。
防御壁が、完全に砕けた。
(まずい……!)
その瞬間。
「リュシエル!」
テオドールの声が聞こえた。
見ると、彼が観客席から身を乗り出している。
「その腕輪、魔力増幅器だ! 審判、確認を!」
テオドールの指摘に、審判が動いた。
「待て! クラリッサ・ド・ピンクリー、袖をまくりなさい!」
「え、あ……」
クラリッサは慌てたが、もう遅い。
審判が彼女の腕を掴み、袖をまくった。
そこには、光る腕輪。
金属製で、魔石が埋め込まれている。
「これは……魔力増幅器! 禁止アイテムだ!」
会場が、騒然となった。
「ずるいぞ!」
「不正だ!」
「クラリッサ・ド・ピンクリー、不正行為により失格!」
「そ、そんな!」
クラリッサは地面に崩れ落ちた。
涙を流しているが、もう誰も同情しない。
私は、テオドールに目配せした。
(ありがとう)
彼は、優しく微笑み返した。
第三試験は、「魔物討伐」。
学院が用意した模擬魔物を、制限時間内に倒すというもの。
私の相手は、「炎の獣」。
巨大な狼のような魔物で、口から火を吐く。
体長は三メートル以上。
「……でかい」
正直、これは厳しい。
私の魔力では、正面から戦うのは無理だ。
(どうする……)
その時、フレイムビーストが突然暴走し始めた。
「なっ……!?」
魔物が制御を失い、会場中を暴れ回る。
観客たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
「きゃあ!」
「逃げろ!」
「誰だ! 制御魔法陣を壊したのは!」
審判が叫ぶ。
(……クラリッサの仕業ね)
彼女が、復讐のために制御魔法陣を破壊したに違いない。
失格になった腹いせ。
「リュシエル、危ない!」
テオドールが剣を抜いて駆けつけた。
観客席から飛び降りて、瞬時に私の前に立つ。
フレイムビーストが、私に向かって火炎を吐く。
ゴオオッ!
「くっ……!」
テオドールが私を庇い、剣で火炎を弾いた。
剣が赤く輝く。
「大丈夫か!?」
「ええ……でも、このままじゃ……」
「任せろ」
テオドールは私の前に立ちはだかった。
「僕が、お前を守る」
「でも、テオドール、あなた一人じゃ……」
「一人じゃない」
彼は振り返って、私を見つめた。
その瞳が、真っ直ぐで。
「お前がいる」
ドクン。
心臓が、大きく跳ねた。
「リュシエル、お前の知識と、僕の剣で戦おう」
「……わかったわ」
私は頷いた。
「フレイムビーストの弱点は、額の魔石。でも、炎で守られてる」
「なら、僕が炎を斬る」
「無茶よ!」
「お前となら、できる」
テオドールは不敵に笑った。
その笑顔が、眩しい。
「信じてくれ」
「……わかった」
私は魔法陣を展開した。
「水流操作!」
空気中の水分を集め、巨大な水の壁を作る。
透明な水が、渦を巻く。
「今よ、テオドール!」
「ああ!」
彼は水の壁を蹴って跳躍し、フレイムビーストの額に剣を突き立てた。
一閃。
魔石が砕け、フレイムビーストが光の粒子となって消滅する。
静寂。
そして、次の瞬間。
「やったぁぁぁ!」
観客たちが大歓声を上げた。
「すごい! あの連携!」
「リュシエル様とテオドール、完璧だった!」
「平民だろうと何だろうと、あれは本物の騎士だ!」
私とテオドールは、顔を見合わせて笑った。
試験が終わり、夕暮れ。
私とテオドールは、学院の中庭にいた。
噴水の音が、心地よく響く。
「テオドール、今日はありがとう」
「いや、僕こそ。君の知識がなければ、勝てなかった」
「でも、あなたの剣がなければ、私は魔物に食べられてたわ」
二人で笑い合う。
「なあ、リュシエル」
「なに?」
テオドールは、少し照れたように言った。
耳が、赤い。
「今日、君と一緒に戦って……改めて思ったんだ」
「何を?」
「君を、守りたい。ずっと、そばにいたい」
彼は私の手を取った。
大きくて、温かい手。
「身分なんて関係ない。僕は、君が好きだ」
ドクン、ドクン、ドクン。
心臓が、うるさいくらいに鳴る。
「……私も」
私は顔を赤らめながら答えた。
「私も、あなたが好きよ。テオドール」
「リュシエル……」
彼は私を抱きしめた。
温かい腕の中。
彼の鼓動が、聞こえる。
力強くて、でも優しい鼓動。
「ずっと、一緒にいてくれるか?」
「……ええ」
私は彼の胸に顔を埋めた。
「ずっと、一緒よ」
夕日が、二人を優しく照らしていた。
オレンジ色の光が、魔法のように美しい。
その夜。
シュタイン教授が、私のもとを訪れた。
「リュシエル嬢、見事だったよ」
「教授……」
「君は、魔力は高くない。でも、知識と勇気がある」
教授は優しく微笑んだ。
「そして、何より、信頼できる仲間がいる」
「はい」
「テオドール・グレイフォード。彼は、君にふさわしい男だ」
「教授……」
「身分など、くだらん。大切なのは、心だ」
教授は私の肩を叩いた。
その手が、温かい。
「幸せになりなさい、リュシエル嬢」
「……ありがとうございます」
私は深く頭を下げた。
そして、心に誓った。
(絶対に、幸せになる)
テオドールと共に。
どんな困難があろうと、二人で乗り越える。
窓の外を見ると、星が綺麗に輝いていた。
まるで、祝福しているかのように。
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