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[連載版]悪役令嬢ですが、婚約破棄の原因がトイレ戦争だったので逆に清々しいです  作者: たかつど
愛の成就と新たな未来

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14話 王国の危機

 セドリックが旅立ってから、わずか二日後。

 王宮に、緊急招集がかかった。


「グラナダ帝国が、国境を越えて侵攻してきた!」


 伝令の叫び声が、廊下に響き渡る。

 その声は、恐怖と緊張に震えていた。


 私とテオドールは、結婚式のドレスの試着について話していたところだった。


「……ついに、来たか」


 テオドールが呟く。

 その表情は、一瞬で騎士の顔に変わった。


「行きましょう」


 私たちは、急いで作戦会議室に向かった。

 廊下を走りながら、心臓がドキドキと早鐘を打つ。

(とうとう、来てしまった)


 会議室には、すでに多くの人々が集まっていた。

 国王アルベルト三世、第一王子レオンハルト、父エリュドール公爵、そして軍の幹部たち。


 全員、険しい表情をしている。


「状況を説明しろ」


 国王が命じる。

 その声には、威厳と決意が込められていた。


「はっ。グラナダ帝国軍、総勢五万。騎兵一万、歩兵三万、魔導兵一万です」


 参謀が地図を指し示しながら報告する。


「我が軍は?」

「国境警備隊が三千。本隊が到着するまで、最低でも三日はかかります」

「くっ……」


 レオンハルトが歯噛みする。

 拳を握りしめ、地図を睨みつける。


「このままでは、国境を突破されるぞ」

「ならば、総力戦だ」


 父が立ち上がった。

 エリュドール公爵の威厳が、部屋中に満ちる。


「エリュドール公爵家の私兵、五千を出す」

「公爵……!」

「我が家は、王国第一の名門。国の危機に、手をこまねいてはいられん」


 父は力強く言った。

 その声には、迷いが一切ない。


「それに、娘の婚約者が最前線で戦うのだ。支援するのは当然だろう」


 父は私とテオドールを見た。

 その目には、信頼と期待が込められている。


「リュシエル、テオドール」

「はい」


 私たちは声を揃えて答えた。


「お前たちの力が必要だ」


 私は頷いた。

(来るべき時が、来たのね)

 前世で見た戦争映画が、頭をよぎる。


 でも、これは映画じゃない。


 本物の戦争だ。


 レオンハルトが地図を広げた。

 羊皮紙の地図には、細かく地形が描かれている。


「敵は、国境の要塞『鉄壁砦』を突破しようとしている」


 地図には、王国とグラナダ帝国の国境線が赤い線で引かれている。


「この要塞を守り切れば、侵攻を防げる。だが……」

「しかし、敵は五万。味方は合計で一万にも満たない」


 軍師が不安そうに言う。

 その額には、冷や汗が滲んでいる。


「無理だ。このままでは、全滅する」

「待ってください」


 テオドールが前に出た。

 その動きは、自信に満ちている。


「僕に、策があります」

「策?」


 レオンハルトが興味深そうに彼を見る。


「はい。敵は数で勝っていますが、補給線が長い」


 テオドールは地図を指差した。

 その指先は、ある渓谷を示している。


「ここ、『蛇の渓谷』を通って補給物資を運んでいるはずです」

「確かに……他にルートはないな」

「なら、この渓谷を塞げば、敵は補給を断たれる」


 会議室が、ざわついた。

 みんな、その策の有効性に気づいたのだ。


「しかし、渓谷を塞ぐには、大規模な魔法が必要だ。そんな魔力を持つ者が……」

「います」


 私が立ち上がった。

 全員の視線が、私に集まる。


「私が、やります」

「リュシエル様……!」

「魔法陣を複数組み合わせれば、少ない魔力で大きな効果を出せます」


 私は自信を持って言った。


「前世の知識と、この世界の魔法理論を組み合わせれば、きっとできます」


(って、前世の知識って言っちゃった)


 でも、みんな気にしていない様子。

 というか、戦争の緊張で誰も聞いてないっぽい。


「具体的には?」


 シュタイン教授が尋ねる。


「三つの魔法陣を連結させます。第一に岩盤を弱体化する魔法、第二に重力を操作する魔法、第三に崩落を誘発する魔法」


 私は指を三本立てた。


「これらを同時発動させれば、渓谷全体を崩落させられます」

「……見事だ」


 教授が感嘆の声を上げた。


「魔法学院の生徒たちも、協力させましょう」

「はい、お願いします」

「よし、それで行こう」


 レオンハルトが決断した。

 その声には、確信が込められている。


「リュシエル嬢は後方支援として、魔法陣の構築を指揮」

「はい」

「テオドール・グレイフォードは最前線で、騎士団を率いて敵を引きつける」

「承知しました」


 テオドールが力強く頷く。


「エリュドール公爵の私兵は、予備戦力として待機」

「了解した」


 父も頷く。


「作戦名は『蛇殺し作戦』。明朝、決行する」


 こうして、作戦が決まった。




 その夜。

 私とテオドールは、城壁の上で二人きりになった。

 月が、美しく輝いている。


 でも、その美しさが、どこか虚しく感じられた。


「……明日、戦争なのよね」

「ああ」


 テオドールは夜空を見上げた。

 星が、無数に輝いている。

 平和な夜空なのに、明日には血が流れる。


「怖い?」

「怖いわ」


 私は正直に答えた。

 強がっても仕方ない。


「あなたが、怪我をするかもしれない。死ぬかもしれない」

「……」

「そう思うと、心臓が苦しくなる」


 涙が、溢れそうになった。

 胸が、ぎゅっと締め付けられる。


「リュシエル」


 テオドールは私を抱きしめた。

 温かい腕。

 強い腕。


「僕は、死なない」

「……本当?」

「本当だ。だって、君と結婚するんだから」


 彼は優しく微笑んだ。

 月明かりに照らされた彼の顔は、とても穏やかだ。


「結婚式も、新婚旅行も、子供も。全部、君と一緒に経験したい」

「……っ」

「だから、絶対に生きて帰る」


 テオドールは私の額にキスをした。

 優しい、温かいキス。


「約束する」

「……私も、約束するわ」


 私は彼を見上げた。

 涙で、視界が滲む。


「絶対に、魔法陣を成功させる。そして、あなたを守る」

「ああ」


 二人で、強く抱き合った。

 月明かりが、二人を優しく照らしていた。


「あのさ、リュシエル」

「なに?」

「戦争が終わったら、すぐに結婚式を挙げよう」

「……うん」

「そして、新婚旅行に行こう。どこがいい?」

「海が見たいわ」


 私は笑った。


「青い海と、白い砂浜。そこで、あなたとのんびり過ごしたい」

「いいね。じゃあ、南の島に行こう」

「約束よ」

「ああ、約束だ」


 二人で、未来の話をした。

 まるで、戦争なんてないかのように。





 翌朝。

 空がうっすらと明るくなり始める頃。

 私は後方支援陣地で、最終チェックをしていた。

 魔法学院の優秀な生徒たち、三十人が集まっている。

 みんな、緊張した面持ちだ。


「皆さん、お願いします」

「はい!」


 生徒たちが一斉に答える。


「では、始めましょう」


 私は魔法陣の構築を開始した。

 地面に、複雑な文様を描いていく。

 魔力を込めながら、慎重に。

 岩魔法の生徒たちと一緒に詠唱を始める。


「第一魔法陣、『岩盤弱体化ロックナーフ』!」


 地面が光り、魔法陣が浮かび上がる。

 青白い光が、地面を這う。

 重量魔法の生徒たちと詠唱する。


「第二魔法陣、『重力操作グラビティ』!」


 空間が歪み、重力が変化する。

 空気が、重くなったように感じる。

 崩落魔法の生徒たちと詠唱する。


「第三魔法陣、『崩落誘発コラプストリガー』!」


 そして、三つの魔法陣が連結した。


「『魔法統合マジックパーティー』!」


 眩い光が、渓谷に向かって放たれた。

 光の柱が、天を貫く。


「魔力供給ライン、問題なし!」

「魔法陣の安定性、良好!」

「出力、最大値の85パーセント!」


 生徒たちが、次々と報告してくる。


「よし」


 私は深呼吸した。

(大丈夫。絶対に成功させる)


「リュシエル嬢」


 シュタイン教授が近づいてきた。

 その顔には、誇らしげな笑みが浮かんでいる。


「準備はいいかね?」

「はい。いつでも」

「素晴らしい。君の魔法陣は、教科書に載せるべき傑作だ」


 教授は優しく微笑んだ。


「今日、君は歴史に名を刻む」

「……ありがとうございます」


 その時、遠くから角笛の音が響いた。


 ブオオオォォォ……!


 敵軍が、動き出した合図だ。

 その音は、大地を震わせる。


「来たわね……」


 私は拳を握った。

 手のひらに、汗が滲む。


「みんな、配置について!」

「はい!」


 生徒たちが、それぞれの持ち場につく。

 緊張が、空気を張り詰めさせる。

 戦いが、始まる。





 最前線。

 テオドールは、騎士団の先頭に立っていた。

 その姿は、まさに戦神のようだった。


「敵軍、視認!」


 見張りが叫ぶ。

 地平線の向こうから、グラナダ帝国の軍勢が迫ってくる。


 黒い波のように。

 まるで、津波のように。

 地面が、揺れている。


 その数、五万。

 対する味方は、わずか八千。


「……多いな」


 テオドールは剣を抜いた。

 刃が、朝日を反射して輝く。


「でも、負けるわけにはいかない」


 彼は騎士たちに向かって叫んだ。

 その声は、戦場全体に響き渡る。


「諸君! 我々の背後には、愛する家族がいる! 守るべき国がある!」

「おおっ!」


 騎士たちが応える。

 剣を掲げ、雄叫びを上げる。


「そして、僕達には守りたい人がいる!」


 テオドールは剣を天に掲げた。


「だから、僕は負けない! 絶対に!」

「おおおっ!」


 士気が、最高潮に達した。

 地響きと共に、敵軍が迫る。

 轟音が、大地を揺らす。

 砂埃が、巨大な壁のように立ち上る。


「突撃ーッ!」


 テオドールを先頭に、騎士団が駆け出した。

 馬の蹄が大地を叩き、砂埃が舞い上がる。


 敵軍との距離が、みるみる縮まる。

 二百メートル。

 百メートル。

 五十メートル。


 そして――

 激突!

 ガキィィィン!

 剣と剣がぶつかり合い、火花が散った。

 戦場が、阿鼻叫喚の地獄と化す。


「うおおおっ!」


 テオドールの剣が、最初の敵兵を薙ぎ払った。


 血飛沫が舞い、敵兵が倒れる。

 彼の剣は、まるで生き物のように動いた。

 右から斬り、左へ回転し、背後の敵を刺す。

 一人、二人、三人。

 次々と敵が倒れていく。


「さすが、灰色の魔法騎士……!」


 味方の騎士たちが、感嘆の声を上げる。

 テオドールの周りに、空間が生まれる。


 でも、敵は多い。


 次から次へと、新しい敵が現れる。

 テオドールの周りには、敵の死体が積み上がっていく。

 彼の体は、すでに敵の血で染まっていた。


 でも、彼は止まらない。

 剣を振るい続ける。


(リュシエル……頼む……!)


 心の中で、彼女の名を叫びながら。





 後方支援陣地。

 私は、魔法陣の制御に集中していた。


「魔力、80パーセント維持!」

「渓谷まで、あと五分!」


 生徒たちの報告が、次々と飛んでくる。


(頑張って、テオドール)


 私は祈った。


(必ず、あなたを守ってみせる)


 魔力を、さらに注ぎ込む。

 光が、より強く輝いた。

 戦いは、まだ始まったばかり。


 でも、私たちは負けない。


 絶対に。

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