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12話 真実の暴露

 誘拐事件から一週間後。


 王宮の謁見の間には、王族、貴族、そして多くの民衆が集まっていた。


 広大な謁見の間は、人で溢れかえっている。

 ざわざわと、期待に満ちた空気が漂う。


「これより、グラナダ帝国諜報員、並びに共謀者の公開裁判を執り行う」


 国王アルベルト三世が、玉座から厳かに宣言した。

 金の王冠が、陽光を反射して輝く。


 被告席には、三人。


 黒マントの諜報員。

 クラリッサ・ド・ピンクリー。

 そして、セドリック・ヴァン・アルセナール、第二王子。


 三人とも、手には鎖がかけられている。


「まず、告発者より証拠の提出を求める」


 私とテオドールが、前に進み出た。

 二人で並んで歩くと、会場から「お似合い」という声が聞こえる。


「リュシエル・ヴァン・エリュドールです」

「テオドール・グレイフォードです」


 私たちは、集めた証拠を提出した。

 グラナダ帝国大使館から持ち出した機密文書。

 クラリッサと諜報員の密談記録。

 そして、諜報員の自白書。

 どれも、決定的な証拠だ。


「これが、全ての証拠です」


 シュタイン教授が、白手袋をはめて証拠を検証した。

 一つ一つ、丁寧に。


「……間違いない。これらは本物だ」


 会場が、どよめいた。

 ざわざわと、噂話が広がっていく。


「では、被告人に尋問を行う」


 国王が宣言する。

 まず、黒マントの諜報員が尋問された。


「お前の名は?」


 国王が尋ねる。


「……ヴィクトル・ダークネス。グラナダ帝国特務諜報部、大尉」


 低く、冷たい声。

 この期に及んでも、余裕の表情だ。


「目的は?」

「ヴァリスト王国の王位継承を混乱させ、国力を弱体化させること」


 ヴィクトルは、淡々と答えた。

 まるで、天気予報を読むかのように。


「具体的な方法は?」

「クラリッサ・ド・ピンクリーの家族を人質に取り、彼女を協力者とした」


 会場から、怒りの声が上がる。


「どのような協力を?」

「第二王子セドリックに近づかせ、王宮の機密情報を盗ませた。軍の配置、貴族の派閥、王族のスケジュール。全て、だ」


 会場が、再びどよめいた。

 今度は、さらに大きな声で。


「そして、エリュドール公爵令嬢リュシエルを誘拐し、公爵家を王位継承争いから引き離そうとした」

「……許せん」


 エリュドール公爵が、怒りで拳を握った。

 その拳は、震えている。


「続けろ」


 国王が促す。


「第二王子は、我々の駒だった。彼をクラリッサに惚れさせ、エリュドール令嬢との婚約を破棄させた。これにより、公爵家と王家の繋がりを弱めることができた」

「なんだと……!」


 セドリックが、顔を青ざめさせた。

 その顔は、まるで幽霊のように白い。


「つまり……僕は……利用されていたのか……?」

「その通り」


 ヴィクトルは冷笑した。


「お前は、わかりやすかった。女に弱く、見栄っ張りで、承認欲求が強い。完璧な操り人形だ」


 セドリックは、がくりと膝をついた。


「セドリック・ヴァン・アルセナール、前へ」


 国王に呼ばれ、セドリックがよろよろと前に出た。

 彼の顔は、蒼白だった。


「お前は、知っていたのか?」

「い、いえ……僕は……」


 セドリックの声が震える。

 唇も、震えている。


「僕は、クラリッサを愛していただけです。まさか、彼女が諜報員と繋がっていたなんて……」

「愛、だと?」


 国王の声が、冷たく響いた。

 玉座から、氷のような視線。


「その『愛』のために、お前はどれだけの過ちを犯した?」

「……」

「エリュドール令嬢との婚約を、トイレごときで破棄した」


 会場から、クスクスと笑い声が漏れた。

 あちこちで、「トイレ王子」という呼び名が囁かれる。

 セドリックの顔が、さらに赤くなる。


「王家の予算を、クラリッサの浪費のために使い込んだ。総額、金貨五万枚」

「ご、ごまんまい!?」


 会場から、驚きの声。


「それだけあれば、村が一つ作れますわ!」

「どんだけ使ったのよ、あの女!」


 貴族たちが、騒ぎ出す。


「そして、結果的に、敵国の諜報員に国の機密を流した」

「僕は……僕は知らなかった……!」


 セドリックは叫んだ。

 絶叫に近い声。


「クラリッサが、そんな女だとは……! 僕は騙されていたんです!」

「知らなかった、で済むと思うのか!」


 国王の怒号が響く。

 謁見の間全体に、轟く。


「お前は王子だ! もっと慎重に行動すべきだった!」

「……申し訳ございません」


 セドリックは、地面に膝をついた。

 額を床につけて、平伏する。


「僕は……愚かでした」


 彼の目から、涙がこぼれた。

 床に、水滴が落ちる。


「リュシエルとの婚約を破棄したことを、心から後悔しています」


 私は、複雑な気持ちで彼を見た。

(……可哀想だけど、自業自得よね)

 彼は、自分の選択の結果を受け入れるしかない。


 次に、クラリッサが尋問された。


「クラリッサ・ド・ピンクリー、前へ」


 彼女は、ピンクのドレスを着て前に出た。

 この期に及んで、ピンク。

 しかも、フリフリのレースたっぷり。

(相変わらずの趣味ね)


「お前は、諜報員と共謀していたな?」

「それは……」


 クラリッサは涙を浮かべた。

 大粒の涙が、頬を伝う。


「私、家族を人質に取られていたんです……母も、弟も、妹も……」

「それは認める。だが、お前は必要以上に協力していた」


 シュタイン教授が、分厚い記録を読み上げた。


「『セドリック殿下から、軍の配置図を聞き出した』」

「それは……殿下が自分から話してくれたんです」

「『エリュドール令嬢を陥れるために、偽造手紙を作った』」

「それは……諜報員に言われて……」

「『リュシエル様こそが悪役令嬢だと、貴族社交界に噂を流した』」

「それは……」


 クラリッサは言葉に詰まった。


「『魔法試験大会で、不正を試みた』」

「それは違います! 私は不正なんて……」

「証拠がある」


 シュタイン教授が、別の書類を出した。


「お前が購入した、魔力増幅の禁術道具。これは明らかに大会規則違反だ」

「……っ」


 クラリッサの顔が、青ざめる。


「違うんです! 私は悪くないんです!」


 彼女は叫んだ。

 髪を振り乱して。


「全部、全部、諜報員が悪いんです! 私は被害者なんです!」


 会場が、静まり返った。

 シーンと、音一つしない。


 そして、次の瞬間。


「ぶははははっ!」


 誰かが、吹き出した。


「被害者? お前が?」

「偽造手紙を作ったのも、噂を流したのも、お前の意志だろう」

「リュシエル様を陥れようとしたのも、お前だ」


 貴族たちが、容赦なく指摘する。


「違うんです! 私は……私は……」


 クラリッサは泣き崩れた。

 床に座り込んで、号泣する。

 でも、誰も同情しなかった。


「リュシエル・ヴァン・エリュドール、証言を」


 私は前に出た。

 背筋を伸ばして、堂々と。


「クラリッサ・ド・ピンクリーは、確かに家族を人質に取られていました」


 会場が、ざわついた。


「しかし、彼女は必要以上に私を陥れようとしました」


 私は冷静に続けた。


「偽造手紙、捏造証言、そして魔法試験大会での不正。これらは、諜報員の指示とは関係ない、彼女個人の判断です」

「それは、どうしてわかるのですか?」


 国王が尋ねる。


「なぜなら、諜報員の目的は『王位継承の混乱』であり、私個人を陥れることではないからです」


 会場が、納得したように頷いた。


「諜報員にとって重要なのは、王家と公爵家の分断。私個人への嫌がらせは、その目的には不要です」

「なるほど」

「つまり、クラリッサは個人的な恨みで、私を攻撃していたということです」

「そ、そんな……」


 クラリッサが否定しようとしたが、もう遅い。


「でも、リュシエル様だって! 冷たい目で私を見てきたじゃないですか!」


 クラリッサが叫ぶ。


「……いや、見てないけど」


 私は首を傾げた。


「見てました! 絶対に見てました! あの、冷たい、軽蔑するような目で!」


「だから、見てないって」

「見てましたー!」


 クラリッサは地面を叩いて駄々をこねる。

 まるで子供だ。

 会場から、失笑が漏れる。


「それに、セドリック殿下だって! リュシエル様がもっと殿下を愛していれば、殿下は私に目を向けなかったんです!」

「いや、それあなたが誘惑したんでしょう」

「誘惑してません! 私はただ、優しくしただけです!」

「優しく……ね」


 私は資料を開いた。


「『夜中に殿下の部屋を訪れた』これは?」

「それは、殿下が寂しそうだったから……」

「『密会の場を何度も設定した』これは?」

「それは、殿下とお話ししたかっただけで……」

「『わざと薄着でお茶会に参加した』これは?」

「そ、それは暑かったんです!」


 会場から、どっと笑い声が上がる。


「……もういいわ」


 私はため息をついた。


「陛下、この方、もう何を言っても無駄だと思います」

「……同感だ」


 国王も呆れた顔をしていた。


「クラリッサ・ド・ピンクリー、お前は確かに被害者だった」


 国王が言った。


「しかし、同時に加害者でもあった」

「……っ」

「よって、お前の罪は免れない」


 クラリッサは、絶望の表情で崩れ落ちた。


「では、判決を言い渡す」


 国王が立ち上がった。

 金の衣装が、荘厳に輝く。


「ヴィクトル・ダークネス、死刑」

「……」


 諜報員は、何も言わなかった。

 ただ、冷たい目で会場を見渡す。


「クラリッサ・ド・ピンクリー、国外追放。二度とこの国に戻ることを許さない」

「そんな……!」


 クラリッサが絶叫した。


「私は悪くないのに……! 全部、リュシエルのせいなのに……!」

「まだ言うか」


 国王が呆れる。


「セドリック・ヴァン・アルセナール」


 国王がセドリックを見た。


「お前は、愚かだった」

「……はい」

「だが、悪意はなかった。ただ、愚かだっただけだ」

「……」

「よって、王位継承権は剥奪する。しかし、命は助ける」

「……ありがとうございます」


 セドリックは深く頭を下げた。


「ただし、辺境の氷湖監視塔に左遷する。十年間、そこで償いの生活を送ること」

「喜んで」


 彼は覚悟を決めた顔をしていた。


「リュシエル」


 セドリックが、私の方を向いた。


「本当に、すまなかった」

「……」

「君との婚約を破棄したこと、一生後悔する」

「……いいのよ」


 私は微笑んだ。


「あなたも、被害者だったんだから」

「でも……」

「それに、おかげで私、テオドールと出会えたし」


 私はテオドールの手を握った。

 彼も、優しく握り返してくれる。


「むしろ、感謝してるわ。あなたが婚約破棄してくれなかったら、私、今ごろトイレの心配ばかりしてたかもしれないし」


 会場から、笑い声が起こる。

 セドリックは、寂しそうに笑った。


「……そうか。なら、よかった」

「辺境でも、頑張ってね」

「ああ」


 こうして、セドリックは罪を認めた。


「以上!」


 国王が宣言する。


「これにて、裁判を終了する」


 こうして、裁判は終わった。

 裁判が終わり、私とテオドールは廊下を歩いていた。


「……終わったわね」

「ああ」


 テオドールは私の手を握った。


「これで、ようやく平和が戻る」

「そうね」


 私は彼を見上げた。


「ねえ、テオドール」

「ん?」

「私たちの結婚式、いつにする?」

「……え?」


 彼は驚いた顔をした。

 目を丸くして、固まっている。


「い、今決めるのか!?」

「だって、もう交際したんでしょう? なら、次は結婚よね」

「それはそうだけど……」

「来月くらいがいいわ」

「早い! 早すぎる!」


 テオドールが慌てる。

 その姿が、すごく可愛い。


「準備が間に合わないよ! ドレスとか、会場とか、料理とか……」

「大丈夫よ。侍女たちが全部やってくれるから」

「いや、そういう問題じゃなくて……」

「それとも」


 私は少し不安そうに彼を見た。


「まだ、結婚したくない?」

「そんなわけない!」


 テオドールは慌てて首を振った。


「君と結婚できるなら、今すぐにでもしたい!」

「じゃあ、決まりね」


 私はにっこり笑った。


「来月、結婚式を挙げましょう」

「……はい」


 テオドールは苦笑しながら、私の手を握り返した。


「君には、敵わないな」

「当然よ」


 私たちは手を繋いで、夕日に照らされた廊下を歩いていった。


 こうして、私たちの新しい未来が始まった。

 真実は明らかになり、悪は裁かれた。


 これから、幸せな日々が待っている。

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