地元の事務所
早朝、関越道を一目散に走る黒い公用車。
フロントガラスに広がる一面の上毛平野。
地元群馬の事務所に向かっている政信。
車内に流れるクラッシックの名曲。
するとスマホ(アイポン)からの呼び出し音が。
「チッチキチー 、デンワダヨ・・・」
背広のポケットからスマホを取り出す。
見ると結城からである。
「お疲れ様です」
「バカ。今、起きたばかりだ。疲れて何かない」
「あッ、すいません」
「何やってんだ?」
「運転です」
「分かってるッ! で、今、どこだ」
「今ですか? え~と・・・」
政信はカーナビを見る。
「・・・群馬に入って・・・たぶん、あと二十分位で到着するかと思います」
「よ~し。当分オヤジの運転手だ。逃げるなよ。俺もそのうち行く、『カモ知れない』」
金井ビルの駐車場に到着する。
政信はカバンを手に車から降りた。
すると隣に白い軽バン(ハイゼット)が停まる。
ドアが開き、中年の女性が降りて来る。
名前を渡部敏子と云い、独身である。
金井先生の姪で事務所の一般事務を担当している。
敏子が、
「あら? もしかしてツッチー?」
やけに馴れ馴れしい女である。
「あッ、おはよう御座います。東京事務所から応援で来た土屋政信です。宜しくお願いします」
「私は渡部。ヨ・ロ・シ・クッ」
荷物を降ろし始める敏子。
「なに見てんの? 手伝ってよ」
「あッ? は、ハイ」
政信はカバンを荷物の上に置き、軽バンからダンボール箱を取り出す。
金井ビルは先生の所有のビルである。
旧式鉄筋三階建の下駄履きビルで、一階は駐車場、二階は『金井病院』、三階は『金井法律事務所』である。
駐車場には地元使用の黒のセダンが一台、軽乗用車、軽トラ、自転車が数台、バイクと一輪車・スコップが数本、選挙用の立て看板が壁に立て掛けてある。
周囲には道を隔てて警察署と消防署、コンビニ(ローソン)が並んでいる。
事務所の階段で敏子が荷物を抱えながら、
「あら? 青木くんは?」
「青木さん? あッ、青木さんは糖尿で検査入院しました」
「あら~、やっぱりねえ。先生の運転手さんて皆んな入院しちゃうのよ。ツッチーも気を付けてね」
「えッ? あ!はい」
敏子は二階のドアーを開けて医療関係の荷物を置く。
政信もそこに荷物を置くと、
「あッ、それは三階」
「え? あ、分かりました」
三階に上がると、右ドアーに「事務所」、左ドアーに「応接室」の差し札が挿してある。
政信は荷物を抱え「事務所」のドアーをノックした。
「コンコン」
「はーい」
中から気だるい声がする。
政信は荷物を抱えてドアーを開ける。
「おはようございまーす」
と、左側の受付に老婆が座って居る。
老婆の名前は金井ヨネ。
先生の義理の祖母である。
ヨネはメガネをずらし上目使いで私を見て、
「? どちら様 ですか」
「あ、すいません! 東京事務所から来ました土屋政信です」
「あ~あ、助っ人ね」
「えッ? あ、ハイ」
ヨネは私を舐める様に見て、
「あら~、ちょっとアンタ。良い男じゃない。そうだ! 道子(先生の妻)と一緒に婦人部を廻ってもらおうかしら」
荷物を抱えた政信は突然のヨネの対応に、
「フジンブ?ですか。あの~・・・この荷物は?」
「ニモツ? あ~あ、金井のパンフね。それは一階の倉庫」
「えッ?」
そこにスマホの呼び出し音が。
「チッチキチー・デンワダヨ」
政信はポケットからスマホを取り出す。
「はい。モシモシ、土屋です」
結城である。
惚けた声で
「何やってんだ~」
「あ、はい。事務所に着きました」
「応接に行け。本人が待ってるぞ。それから婆さん(ヨネ)から本日の予定とスクラップを貰って行け。あッ、オマエ点数残てるよな」
「テンスウ?」
「免許だよ」
「メンキョ? ああ、ゴールドです」
「ゴールド! 格好良いね~え。早く行け」
つづく




