-最終話- 先生がフンドシを締め直していた
安藤が帰って、結城と政信が応接室に戻って来る。
「土屋! ドアーを閉めろ」
「あ、すいません」
政信はドアーを閉めソファーに座る。
結城が政信を見て、
「おい。今、俺がここで話す言葉は記憶にない話だからな」
「え? あ、ハイ。・・・しかし、凄いですねえ~」
「何が?」
「いや、結城さんは」
「うん? ・・・うん」
結城は政信をジッと見詰めてニヤッと笑う。
「そりゃー、オメーとは違うよ」
「・・・あれって、千万だったんじゃないですか?」
「うん? そうだったかな?」
結城は政信を鋭い目で見る。
「オメーも聞いてたろう。アレ(解散・組閣)が近けえんだよ。ナリフリ構わずゼニを集める! これが俺達の仕事だ」
政信は感心したように、
「結城さんて途轍もない詐欺師ですね」
「サギシ? 失礼な事いうんじゃない。俺は誰も騙してねえぞ」
「え? ・・・まあ・・・ですね。でも相当、ヤバイ仕事じゃないですか」
「デキル秘書て言われてるヤツは皆んなこんなモンよ」
「でも~・・・」
「良いか。すべて、この仕事は未必でやってるんだ」
「でも」
結城が怒る。
「うるせえぞ、デモデモって。デモは会館の外でいつもやってるよ」
「いや、でもこう云う事は本当に犯罪じゃないんですか?」
「ハンザイ?・・・オメー、本当にそう思うか?」
「え? ・・・まあ」
「犯罪だと思うのなら、この部屋(狢達の部屋)から出て行く事だな」
「しかし・・・」
「今度はシカシか。オメーなー、冴えねえ頭や理屈で物事を考えたらダメだぞ。俺は誰にも迷惑は掛けてねえと言ったろう。オヤジが上手く上に上がれれば良いだけだ」
「次は大臣ですか?」
「土屋。俺が最初に言った言葉を覚えているか? 政治業をやって行くにはジバン・カンバン・カバンだ。秘書の仕事とは光り輝く菊花のバッジを、裏で支えて行く事。泥まみれに成るのよ。あんな風に見えても、安藤さんも昔は仕事がデキル秘書だった。しかし、出来過ぎて金庫番を辞めさせられたんだ。・・・詰め腹を切らされたのよ」
「ツメバラ?」
結城は政信を見る。
「・・・自分のオヤジを大臣までする事は容易なもんじゃねえ」
政信が、
「実力でしょう」
政信の投げやりの良い方に、結城が憮然と一言。
「何だその言い方は!」
「あ! すいません・・・」
「大臣の椅子は高(値段)けえーんだ。組閣の前には派閥内で実弾(金)の撃ち合いだ」
「そうなんですか?」
結城は政信の真似をして、
「そうなんですよ。・・・オマエもそろそろ、うちの陣営を知っといた方が良いな」
「陣営?」
「オメーや野上みてえな秘書達は表に出ているデフェンスだ。この仕事はフォワードもセンターもバックも居なければ出来ねえ。安藤さんはオヤジのバックを守る男。『影の私設秘書』よ。言わば、ダーティーな所を引き受けている影武者だ」
「へえー」
結城は政信を見て、
「おい。背広と靴でも見て来い!」
政信は驚いて、
「ええ! 今度は本当でしょうね」
「ベルサーチでもアルマーニでも、秘書は食わねど良い物を着るのよ。その良い背広を汗だくにする」
「いや~、本当に勉強に成ります」
「バカ野郎! あ、そうだ。明日、総理がアメリカ(トランプ会談)から戻って来る。上がるぞ」
「アガル?」
「株だよ、カブ!」
結城は応接のドアーを少し開けて、
「松永クン、自工(自動車工業会)の濱田さんに電話してくれる」
「ハイ」
公用車内。
突然、先生の内ポケットのスマホが鳴る。
スマホを取り出す。
結城からである。
先生は優しく。
「はい」
「お疲れ様です。結城です」
「・・・分ってる! 結論は」
「今月中に大二本(二千)入ります」
先生は眼を丸くして、
「おおッ! 大きいね。一本釣り?」
「転がしてます」
「てことは、洗ってあるわけか。細かく『割ら』ないとダメだね」
「安藤さんが中に入ってますから」
「おお、それは安心だ。ヨシッ! これで力が付いた。ご苦労さん」
スマホを切る先生。
内ポケットに仕舞いながら、自分に気合を入れる。
「ヨ~シッ!」
野上が運転席から、
「何か言いました?」
「うるさい! バカ者。誰に口を聞いてる!」
「あッ! すいません」
先生のスマホがまた鳴る。
先生はまた優しく。
「はい」
「たびたびすいません。結城です」
「分かってる。何だ」
「自工の濱田さんが喜んでました。株が全体に上がりました。そうとう儲けたみたいです」
「そう。・・・もう動いたんだね。十月の勉強会の件は話したの?」
「ハイ。一応、三十枚と云う事です」
「バカ者! そんな弱気でどうする。儲けさせておいて三十枚とは何事だ! 今直ぐ二袋置いて来なさい」
結城は驚いて、
「え! フッ、フタ?」
以上
この小説をお読み頂きありがとうございました。
内容は『ほんの一部』に過ぎません。
この小説から色々な事を読み取って頂ければ幸いです。
政治・・・。
大きなお金の動く所には必ず『コレ』は介入しています。
それは地方自治体の長にまで繋がっています。
その『お金の見返り』に大きな仕事を付ける事が出来るのです。
日本の政治はこの様な『仕組み』に成っているのです。
では、またお会いしましょう。
終わり




