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綺麗に洗って

 結城が受話器を置く。


政信は感心した表情で結城を見る。


 「よし、土屋。良いか。此処からが俺達の本当の仕事だ。よ~く聞いとけ」

 「ハイ」


松永が地下一階の郵便局から戻って来る。


 「すいません、遅くなって。堀田先生の所のサッちゃんとそこで会っちゃって。電話有りました?」


結城が応接室から


 「無いよ~」


 応接室。

ソファーに結城と政信が対座している。

政信が結城の交渉術に感心して、


 「しかし結城さん、凄い交渉術ですね」

 「うん? ・・・生徒会長だったからな」

 「え?」


 火曜日の朝。

安藤との約束の日である。

電話が鳴る。

松永が受話器を取る。


 「はい、金井事務所です」

 「結城さん居ますか」

 「あ、安藤さん! お世話に成ります。少しお待ち下さい」


松永は電話の保留ボタンを押し、応接室の内線に電話を回す。

応接室では結城と政信がドアーを閉めて話をしている。

応接室の内線が鳴る。

政信がソファーを立ち、代議士の机上の受話器を取る。


 「はい」


受話器から松永の声。


 「安藤さんから一番です」

 「はい」


政信は結城を見て親指を立てる。

結城は嬉しそうに政信から受話器を取り上げる。


 「もしもし、おはよう御座います」


安藤の静かな声が受話器から漏れる。


 「有り難う御座います。うまく行きましたね」


結城はわざとらしく。


 「いやー、大変でしたよ~」

 「ハハハハ。今、近くに居ます。これからお邪魔しても」

 「どうぞどうぞ。お待ちしております」

 「じゃ、五分後に」


結城が政信を見ながら受話器を置く。

政信が嬉しそうに、


 「来ましたね」

 「うん。さあ、ここから本番だ。土屋! オメーのその良い頭を借りねえとな」

 「え? ・・・高いッすよ」

 「何?」


暫らくして事務室のインターホンの音が。

松永はインターホンの受話器を取る。

モニターに安藤が映る。


 「はい」

 「・・・安藤です」

 「はい」


松永は開鍵ボタンを押す。

ドアーの開鍵の音。

安藤がそっとドアーを開けて入って来る。

松永が、


 「お待ちしておりました」


安藤はいつものケーキの箱を松永に。


 「はい、これ」


松永が嬉しそうに、


 「わ~、これ、石川屋さんのケーキ? いつも有り難うご座います。結城さんが奥でお待ちかねですよ」

 「そう」


安藤がニッと笑う。

松永が驚いて、


 「あら?! 歯ッ」

 「ハハハ、新築したんだ」


松永は驚いて、


 「シンチク?」


安藤が応接室のドアー開けてノゾく。


 「どうも」


政信と結城が起立。

結城は慇懃に、


 「おう! オウオウオウ、来た来た来た。どうぞどうぞどうぞ。ハハハハ」


政信が、


 「お世話に成ります」


安藤は政信を一瞥し、軽く片手を挙アげソファーに座る。

政信が応接室のドアーをそっと閉めてソファーに座る。

安藤は二人に見せびらかす様に「出っ歯(表情)」を作り笑う。


 「あれ~! 入ってるじゃないですか」

 「良い工事でしたよ」


政信は噴き出してしまう。


 「プッ、ハハハハ」


安藤は政信を見ながら、おもむろに懐からダンヒルのタバコを取り出す。

政信はすかさずデュポンのライターを背広のポケットから取り出し、火を点け安藤のタバコに。


 「おう、わるいねえ」


ライターの蓋の閉まる音が応接室に響く。


 「ピーン・・・」


安藤は熊川と政信を一瞥して、


 「で、どうしましょう」

 「それでねえ、とりあえず日下から大成に六億の見積もりを出してもらいましょうか」


安藤はタバコをクリスタルの灰皿に置く。

テーブルのメモ用紙を一枚破き、書き取って行く。


 「うん」


松永が応接のドアーをノックする。

ドアーが開き、松永がお茶とコーヒー、ケーキを持って入って来る。


 「失礼します」


急に応接室の中が静まる。

クリスタルの灰皿から、タバコの煙が一筋。

松永がお茶とコーヒー、ケーキを静かにテーブルの上に並べて行く。

安藤を見て、


 「どうぞ、ごゆっくり」


安藤は松永を見てニコッと笑い、


 「ありがとう・・・」

 

松永は静かにドアーを閉め、応接を出て行く。

安藤は灰皿からタバコを取り、


 「・・・で?」

 「仮に、大成から値引き依頼が千とすると、五億九千、日下が五億で出来ると云う事で九千が浮きます。そこで、崎田のフジミからの借金がトータルで三千と云う事ですから、その三千を崎田に代わってうちの金井がフジミに返済。もちろん、崎田を通してですが。この三千の返済が崎田の条件なんですよ。そうすると残り六千、これを安藤さんの方で、安藤さんと堀田先生、金井の三人の割り振りを決めてもらう。こんなんでどうでしょうか・・・」


政信は「三千」と云う言葉を聞いて、思わず結城の顔を見る。

政信が、


 『三千? あの時の電話では確か・・・、一千と言っていたはずなのに・・・』


安藤は天井を見詰め深く吸ったタバコを吐き出す。


 「崎田建設の借金は三千だったのですか」


結城はコーヒーを一口、口に含む。


 「賭けゴルフで『千』負け、完工保証のトラブルで二千、合計三千。全部、崎田建設が絡んでるんですよ」

 「崎田は何でそれまでしてフジミをかばうんでしょう・・・」

 「それは、崎田建設の源次郎の妹が、最近、フジミ工業の息子に嫁に行ったらしいんですよ。地元の秘書も言ってました。俺もそこまでは知らなかったんですけれどね」

 「ああ、なるほど」


安藤はタバコをクリスタルの灰皿に押し消す。


 「分かりました。フフフ。大成から値引きはさせませんよ」

 「その辺は安藤さんにお任せします」

 「お互いに取り分が多いにこしたことはない。それに・・・」

 「それに?」

 「七千を三者で分けた方が良いでしょう」

 「・・・安藤さん、ここから先はアンタの受け持ちだ。金井もこの件に関しては強い関心を持っている。鷹市さんじゃ自民党が持たない。派閥とは無関係のグループが浮上して来たし」

 「分かりました。キチッと『洗って』お渡しします」

 「イヤイヤイヤ、そうしてくれると、金井も大助かりです」

 「じゃ、これで!」


安藤はソファーを立つ。


 「分配の件は今週の金曜日まで待って下さい。落札後五日以内にまず二千を預手で、これは三枚分けてお持ちします。残りは現金。・・・早い方が良いでしょう」

 「いや~、安藤さん! 助かります」


結城はソファーを立ち安藤と熱い握手をする。

安藤は歯を舌で触り、ニヒルな笑いを浮かべて応接室を出て行く。

結城と政信は安藤を見送る。

松永が応接室から出てきた三人を見て、


 「あら、もうお帰りですか。やっぱり安藤さんは歯が無いとサマになりませんよ~」

 「もう、煎餅は食わない事にした」

 「センベイ? 煎餅を食べたんですか? クッキーの方が柔らかいのに」

 「俺がクッキー? 似合うかなあ」


安藤はその一言を残し金井事務所から出て行く。

結城と政信は安藤の背中に、


 「お世話に成りま~す」


と突然、結城が、


 「あッ、例の核廃用地の件、また後で電話します」

 「あ~、アレねえ。アレも『施設庁』がカラんでる様だねえ」

                           つづく

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