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揺さぶり話法

 結城が机の引き出しから名刺ファイルを取り出す。

一枚、名刺を抜き取り・・・。

受話器を取りボタンをプッシュして行く。


 崎田建設本社事務所。

女事務員が受話器を取る。


 「はい。崎田建設です」


受話器から声。


 「衆議院金井事務所の結城だ」


事務員は驚いて、


 「あッ! ハ、ハイ。ちょっとお待ち下さい」


 崎田建設社長室。

『崎田源次郎(代表取締役社長)』がソファーにどっぷりと座り、ゴルフのドライバーヘッドを拭いている。

すると内線電話の呼び出し音。

源次郎がテーブルの上の受話器を取る。


 「なに?」

 「あの、金井事務所の結城さんから一番です」


源次郎は横柄に、


 「結城? ・・・うん」


一番をプッシュする。


 「もしもし、崎田です」


結城の声が受話器から漏れる。


 「よーお、ご無沙汰。結城だ」


源次郎の少し緊張ぎみの声。


 「ど~も。『その節』はお世話に」


源次郎はテーブルの上のタバコ(セブンスター)を一本取り出す。


 「そのセツ? ・・・そうだよなあ。どうだい、『その』は」


源次郎はタバコに火を点け煙を飲み込む。


 「お蔭様で、あの道路も二ヶ月前に完工しました」


 議員会館金井事務所。

応接室では結城が源次郎と電話している。


 「そりやー良かった。それじや完工祝いでもやらなくっちゃなあ、ゲンジよ~」


源次郎の声。


 「へへへ、ですねえ。またあそこのコースを予約しておきましょうか。で、夜はパーっと伊勢崎のソープで」

 「良いねえ」


結城はコーヒーを口に運び、


 「・・・それはそうと、『立川のヘリポート・其の一』って聞いた事あるだろう」


源次郎の声が少し変わる。


 「え?! 知らないなあ~」

 「知らない? ・・・そう」


結城は歌う様に、


「知らない筈が無いけどなあ。妙な噂が流れて来たぞ」


源次郎は逃げる様に。


 「あ、時間だ! 結城さん、また後で電話します」

 「おい、源次郎。逃げるなよ~。ゆっくり話を聞かせてくれや」

 「いや、これから打ち合わせが有るんですよ」

結城が声を荒げて、

 「ウルセーッ!」


結城の強い口調に源次郎はとぼけて、


 「立川? 何の事ですか?・・・」


 政信は、結城の初めて聞くフテキな電話応対を目を丸くして聞いている。


 「おい、俺とオマエの仲じゃねえか。『ボカシた話』は無しにしょうぜ・・・」

 「もしかして防衛省のヘリポートの件ですか?」

 「もしかしなくても立川と言ったらそれしかあるめえ」

 「 な~んだ、もうそこまで話が広がっちゃいましたか。マイッタなあ。ハハハハ」

 「マイッタ? ・・・おい、仲良くやれよ~」

 「いやあ~、誰から回ったんでしょうねえ」


結城は優しく、


 「そんな事はどうでも良い。中身はどう成ってんだ」

 「結城さんが直接掛けて来るくらいだから、中身はお分かりでしょう?」

 「うん? ・・・で、フジミ工業て云うのは何者だ」

 「フジミ? あ~、ただのゴルフ仲間ですよ」

 「ゴルフ仲間? それにしちゃ随分、入れ込むじゃねえか」


源次郎のニヤついた声が。


 「入れ込むなんて」


結城はコーヒーを飲みながらメモ用紙を取る。


 「また賭けゴルフで借金でも作ったのか?」

 「いやいやいや、結城さんに合ったらすべてお見通しだ」

 「ほ~。で、いくらだ」

 「ええ? へへへ、一本位ですか」

 「一本? 百か」

 「いや・・・。千」


結城は驚いて、


 「千!?」


源次郎は咥えたタバコをくゆらせ、


 「へへへ」


結城が、


 「で、オマエが負けたのか?」

 「とんでもない! フジミさんですよ」

 「それだけか?」

 「ウンニャ」


源次郎のナメた応対に怒る結城。


 「ウンニャ? 何だそれは。喋っちまえよ! ネタは上がってんだから」


源次郎は頭を掻きながら、


 「工事の保証。検査で一部やり直し。完成が十日遅れ」

 「 カブったんだな? で、いくら」

 「二つかな? ゴルフでパーにしてやろう思ったんだけど・・・アイツは下手ヘタ。無理!」

 「で二つか。全部で三千か?・・・」

 「いや、二つは俺の方にも非が有るから・・・」

 「じゃ、千か?」


源次郎は関西弁で慇懃に、


 「へへへ、そうなりまっか」


 議員会館金井事務所。

応接室では結城が天井の一点を見詰め受話器を持って源次郎と電話をしている。


 「て、云う事は・・・その『千』が戻れば元の鞘に収める事は出来る。のかな?・・・」


受話器からの声。


 「そりゃあ、ウチとしても来年は『会の幹事』ですからねえ。こんな事はしたくないですよ」

 

結城が、


 「ダムの裏幹事も有るしのう。バカ野郎ッ! 幹事どころか永久に会からツマハジキだ」

 「あ、すんません。誰ですか? 流したヤツは」


結城は源次郎の問い掛けを無視して、


 「おい。その借金だけど・・・」


結城は冷えたコーヒーを一口、口に含み、


 「金井がモツって言ったら・・・」

 「え~? そんなあ、先生にまで迷惑は掛けられませんよ~」

 「うるせえ! テメーがゴネてる事がオヤジに迷惑を掛けてるんだよ」

 「ええ? なーんだ、この工事、『裏』が付いてたんですか」


結城はドスの効いた声で、


 「おう、ゲンジ」

 「はい」

 「引けよ。千戻れば、オメーん所は丸く収まるんだろう」

 「まあ、それは」

 「何だい、その煮えきらねえ言いイイグサは。まだ何か有るのか!」


源次郎はフテクサレて、


 「・・・ワカリました」


結城が、


 「初めからそう言えば良いんだよ。バカ野郎」


 結城は政信の顔を見て親指を上げて軽くガッツポーズ。

結城は更に、


 「明日の朝十時迄にチャンピオンの大成オオナリに電話しておけ」

 「あ~あ?! 大成さんから回ったんですか。有馬さんは俺に何にも言って無かったなあ。キタネー野郎」

 「ウルセーッ! 誰だって良い。いいか、ゲンジ。もしこの件で変なアヤが付いたらオマエの会社、県の建設協会、経済同友会、木曜会から全部外すからな」

 「そんなは事しませんよ。こっちは千、戻って来れば良いんですから」

 「そうか。じゃ、俺との約束だ。明日の朝十時!」


源次郎はタバコをクリスタルの灰皿にヒネり消しながら、


 「分かりました」


結城が、


 「何だい。元気がねえな。まあ、仲良くやれよ」

 「結城さん、こう云うのは事前に知らせて下さいよ~」


結城のトボけた声が、


 「アイヨ~! あ、それからオマエ、比例からか?」

 「は? 何の事ですか?」


結城が、


 「まあ良い。仲良くやろうぜ」

                          つづく


 この辺の話法は、『出来る秘書さん』は平然と使いこなします。迫力が有りますよ。

まるで『ヤクザ映画』の様ですよ。

『コレが権力の行使プッシュ』と言います。

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