靴と背広と車
九段会館『農林事業振興総会会場』。
ロビーで結城が先生と電話をしている。
「報連相は?」
「あッ、今しょうと・・・」
「言い訳はよしなさい。結論だけ」
「すいません」
先生は再度力強く、
「結論ッ!」
「ハイ。一週間後に結論が出ます」
「何? ・・・流れは」
「悪くはありません。ただ・・・」
「ただ?」
「堀田先生の事務所が関わっています」
「公明党の堀田だろう」
「ご存知で」
「国交は公明だったからな。・・・分かった」
「何か?」
電話が切れる。
「もしもし、モシモ? 」
議員会館金井事務所である。
松永が事務所に出所して来る。
「おはよう御座いま~す」
政信が振り向いて、
「あ、おはようございます」
「あら、今日は早いですねえ」
「昨夜結城さんから、もう少し早く出て来いと言われたんで」
「ええ? 結城さんが早く出過ぎですよ」
松永はロッカーにコートを仕舞ながら、
「結城さん、事務所にいつも六時半には来てるんですよ」
政信は驚いて、
「ええッ! 三鷹からですか?」
「はい。仕事の事で頭がイッパイなんですって」
政信が不安そうに、
「僕は付いて行けるかなあ」
松永は政信の座る机にお茶を持って来る。
「・・・どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
政信を見て、
「大丈夫ですよ。あのヒトは特別です。群馬の小中学校で皆勤賞だったとよく自慢してますから」
「へえ~。真面目なんですねえ」
「マジメと云うか、決めたら突き進むんですって。だから高校も大学もみんな、皆勤賞なんですって」
政信は鼻からお茶を吹き出す。
「大学で皆勤賞なんか有るんですか?」
「ね~え。・・・だから、みんな優だったそうですよ。優って文字が好きなんですって。一つでも良が有ると留年したく成るんですって。何しろ小学校では班長・中・高で生徒会長、大学ではゼミで進行係りをやってたそうですから」
「凄い人なんですね~」
「凄くは無いですよ。好きなだけ。そう云う事が」
「やはり政治家に成るつもりなんでしょうか?」
電話が鳴る。
松永が受話器を取る。
「おはようございます。金井事務所です」
結城である。
「おうおうおう、ご苦労さん。土屋、居るか」
「あ、結城さん。ちょっとお待ち下さい。今、変わります」
松永が受話器を政信に渡す。
「結城さんからです」
政信が受話器を取る。
「はい、電話かわりました。おはようございます」
「うん。電話あったか?」
「はい、本人からホウレンソウだと」
結城は捨て鉢の笑いで、
「ハハハ。いつも食ってるよ。それだけか?」
「堀田先生の事が引っ掛かってる様でしたよ」
「堀田? ああ、昔の仲間だからな。そんなの関係ねえ。おい、俺はこれから防衛施設庁の審議官の所に寄って来る。オメーは施設庁の中澤さんの所へ行って挨拶して来い」
「ナカザワ?」
「施設課長だ」
「あ~あ。で、何て言うんですか?」
「バカ、繋ぎだ。挨拶だけで良い。後は俺がやる。それから、四時から例の件、二人で打ち合わせしよう」
「あ、はい。靴と背広とクルマでしたっけ」
「なにッ?」
つづく




