机上のシナリオ
安藤が出て行った後の応接室。
政信は応接室のドアーをそっと閉めてソファーに座り直す。
結城がテーブルの上のメモ用紙に数字を書きながら、
「土屋、・・・さっきの話、分かったか?」
「代議士が言われた大川さんの件ですか?」
「違う! 安藤の話だ」
「 え? ああ・・・まあ。要するに、崎田サンが今回の話し合い(談合)に参加してくれれば総てが丸く収まるんですよね。それにはあの急に浮上して来たフジミ工業が何で崎田サンとタッグを組んだか・・・。それが分かれば簡単じゃないですか」
結城は政信を見てわざとらしく、
「ほお~。さすが刑事の息子だ」
「で、結城さんは『何で』崎田サンとフジミがタッグを組んだと思いますか?」
結城はもっともらしく、
「そりゃあオメ~・・・、崎田とフジミとの間に利害関係があるからだろう」
「利害関係?」
「フジミなんて聞いた事のねえ名前だ。そんな新参者とJVを組むんじゃ崎田も相当の訳があるんだろう」
政信は感心して、
「へえ~、そうなんですか」
「俺は、こう読んだ。フジミなんて何の後ろ盾も無く表舞台に出られる訳がねえ。と云う事は・・・」
結城は応接室の天井を睨み、
「県下でも指折りな崎田が、何かの工事でフジミと関わった・・・」
政信は笑いながら、
「何かの工事で、崎田サンがフジミの工事の保証人に成ったんじゃないですか」
結城は自分の膝を叩き、
「そうだッ! 保証人だ。・・・おそらくどこかの工事で、フジミの手抜きがバレタ」
政信が、
「検査で手抜きがバレてやり直し! 納期に間に合わなかった」
「あ~あ、なるほど」
結城は政信を見て、
「オメー、結構読むなあ」
「そんな事、そんなもんじゃないですか。世の中なんて」
結城は指の爪を噛みながら政信をジッと見てニャッ。
「あんまり先を読み過ぎると長生き出来ねえぞ」
「手が後ろに回る方が良いですよね」
結城はきつい眼で政信を見る。
改まって、
「いずれにしてもその辺を探って・・・結果、もし工事のチョンボならフジミが崎田に義理を返せば良いて訳だ。崎田としては、下請けか何かでフジミからの金銭的な債務を工事で返してもらおうと云う算段だろう。でなければ崎田だって、ヤバイ橋を渡ってまで叩き合いなんかしたくもねえはずだ。今回、このままフリーにでも成ったら崎田はこのグループから外されるからな。崎田だって、フジミなんてチンケな土建屋と心中なんかしたかねえはずだ。大体、崎田の息子は気が短くて地元じゃ評判だ。何かと言うと上を使う」
「ウエ?」
「茂樹派の先生だよ」
「崎田サンと関わりを持つ方が居るんですか」
「便覧(国会便覧)を開いて見ろ」
「はい」
結城は両手を思い切り伸ばして背伸びをする。
「あ~あ、崎田に俺みてえな懐の深~い参謀が居ればなあ。おう! そんな事はどうでも良い」
結城がテーブルの上のメモ帳に、ボソボソと呟きながら、また何かを書き始める。
「要するに、日下工業が五億で出来るって言っていたな。・・・今回のチャンピオンが九億七三〇〇で落としてくれたら、そこからチャンピオンの利益がマックス、25パーセントで・・・約二億四千。残った約七億三千から五億を引くと・・・」
「約二億円です!」
「うん。下請けの日下から大成に六億の見積もりを出させる。どうせ、大成から幾らかの出精値引きが来る筈だ。それが千万としたら五億九千。その九千の中からフジミの義理を崎田に返す」
結城はまた天井を睨んで。
「ただ、フジミのチョンボした義理金、いや、崎田が代わって保証した損出が幾らかだ。フジミみてえな低ランクの土建屋が億単位の仕事は任せられねえ。とすると ・・・、仮にその損が三千としたら・・・残りを・・・三人で話し合い・・・」
「三人?」
結城は政信を見て、
「安藤と、堀田の所の津山(秘書)とオマエ。・・・なあ、良く出来た話じゃねえか」
政信は自分の名前が出て驚く。
「エッ! 僕ですか?」
「バカ野郎、この位のシナリオ書けなくっちゃ秘書じゃねえ。仮に、この話がダメに成っても崎田の下請けを日下にやらせれば良い事よ。所詮、フジミ工業なんてグリコのオマケみてえなもんだ」
「どっちに転んでもコンサルタント料は入るって事ですね」
「そう! 完璧なシナリオだ!」
「でも、金ではなかったら?」
結城は政信を見て、
「うん?」
「だって、その理由を知ってるのは僕と結城さんしか居ないという事ですよね」
結城はニヒルな笑いを浮かべ土屋を見詰める。
「土屋、オヌシもワルじゃのう。ベルサーチの背広でも買ってやるか」
「ついでに靴とクルマを」
「何!」
政信と結城は顔を見合わせ、
「ウフ・・・ハハハハ」
結城と政信は大声で笑いながら、二人だけの応接で親指を立ててガッツポーズ。
政信が突然、真顔になり、
「で、枝野クンですの件ですが」
「そんなの放っとけ! 大川に尻を預けたんだ。オマエには関係ねえ。オメーは気が小せえのう」
つづく




