密 談
議員会館が夕闇に包まれる。
結城、政信、安藤の三人が応接室で『密談』をしている。
テーブルの上にはダンヒルのタバコ、ケーキ、コーヒー、お茶が置いてある。
事務室から松永の声。
「すいませ~ん。お先に失礼しまーす」
「お~う! ご苦労さん。後で神田の旨い焼鳥屋に連れて行くから」
「え~、 信じて良いのかなあ」
「俺はウソは吐かないよ」
「本当ですか~。じゃ、お疲れ様でした」
松永が事務所を出て行く。
事務所には三人が残る。
結城は空のコーヒーカップを持ち、ソファーを立つ。
「ちょっと、熱いのに替えるべえ」
結城は安藤のコーヒーカップを見て、
「替えましょうか」
「おお、そうね」
結城はカップを二つ持って事務室に行く。
応接室に安藤と政信が残る。
政信は安藤を見て、
「・・・失礼な事をお聞きしますが、仕切り屋ってどんなお仕事ですか?」
安藤は突然の問いかけに、
「シキリヤ!?」
「松永サンから、『仕切り屋』と聞きましたけど」
安藤は力強く、
「僕は仕切ってなんかないよ。流れを調整しているだけだ」
政信は首を傾げる
結城が入れ替えたコーヒーを持って、ドアーの開いた応接室に入って来る。
政信を見て、
「オメー、飲むんだったら自分で入れて来いよ」
「ハイ」
結城はテーブルにコーヒーを置いて、ソファーに座る。
安藤が結城を見て、
「わるいねえ」
結城は入れ替えたコーヒーを一口、口にして、
「で?」
安藤はダンヒルのタバコを一本抜き、抜けた歯の間に入れる。
政信はすかさず例のライター(ディユポン)で火のサービス。
「おう!」
政信を睨み、タバコを深く吸い込み歯の間から煙を出す。
政信は俯いてジッと笑いを堪える。
安藤がおもむろに話始める。
「実はねえ、あるヤツから依頼されて」
「あるヤツ?」
安藤が政信を一瞥。
結城は安藤を見て、
「ああ、コイツなら大丈夫。口は固てえから」
結城は政信を睨む。
「あ、ハイ」
安藤はまたタバコを深く吸い、天井に向かって歯の間から煙をゆっくり吐き出す。
そして急に身体を前に倒す。
それに続いて結城と政信も体を前に。
安藤はおもむろに話始める。
「拡張工入れて資材高騰で予定価格十億六五〇〇、五社呼ばれて今回のチャンピオンは大成・徳高のJVが九億七三〇〇で落とす予定」
結城が驚き、
「なんだい、もうそこまで話が進んでるんですか」
安藤は結城と政信をチラッと見て溜息まじりに、
「ただ、一社がどうしてもねえ。このままだとモグラ叩きだ」
「? で、その一社って云うのは?」
「群馬の崎田と神奈川のフジミ工業のJVなんだよ」
「サキタ? 茂樹派(旧竹志田派)か。めんどくさいのが絡みましたね」
政信が、
「モテキ?」
結城はいぶった化な顔で政信を見て、
「 オマエは少し黙ってろ」
「あ! ハイ」
安藤は話を続ける。
「そのめんどくさい会社ですよ」
「崎田に変な噂でも流れてるんですか」
「いや、実はフジミの方なんですがね」
「フジミ? 神奈川のフジミかあ。聞かねえ名前だな」
「いや、俺はそんな事どうでも良いんだ」
「え?」
政信は安藤と結城の会話を目を丸くして聞いている。
「私が頼まれているのはその下の『下請け業者』なんですよ。どうせ、フリーに成っても『二五』を切ったら『不調』で流れる。崎田としても、前々から上手くやっている裏仲間だ。昨日今日の新参者じゃねえし、一応フリーに成っても仁義だけは通すでしょう」
「で、頼まれている下請け業者っていうのは?」
「東京の日下工業という所です」
「クサカ? どっかで聞いた事があるなあ」
「堀田サンの所の秘書が顧問をしている会社ですよ」
結城は驚いて、
「ええ、堀田の! 津山が顧問だったのかあ。なるほど」
「そう。で、かりに、叩き合いに成っても八億三〇〇〇止まり。落札業者の利益をマックスで三割とすると、こっちの見積もりじゃ六億七千から七億」
「え~えッ! 七億? 七億で出来るんですか?」
「大丈夫でしょう」
安藤は軽く答える。
「面白れえ。て云う事は崎田の息子を何とかコンペに引きずり込み大成・徳高で丸く収めれば良いという事かな?」
「それが出来れば、それこした事はないんですが、不二壬の『焦げ付き』は幾らあるのかなあ」
「コゲツキ?」
結城は驚いて安藤を見る。
安藤は意味深な表情で「ニッ!」っと笑う。
結城が安藤のシナリオにハタと気付く。
「そうか! よし、乗ったッ! で、入札日は?」
「五月の連休が明けて直ぐ」
「五月の連休明け?」
結城は代議士の机の裏壁のカレンダーを見る。
「三ヶ月後か。具流! 面白く成って来たぞ。安藤さんッ! 美味しい話を有り難う御座います。来週の火曜日迄、待って下さい」
「・・・一週間か」
安藤はタバコをクリスタルの灰皿に強く押し消し、結城と政信を見る。
「分かりました。上手く行けば、大きいですからねえ」
安藤が席を立つ。
結城もそれに続き席を立ち、右手で厚い握手を求める。
安藤はそれに応え、差し出された右手を握る。
「じゃッ」
政信も我に返り、席を立つ。
「あッ、ご苦労様です!」
安藤は何も言わずに応接を出て行く。
結城が笑顔でもみ手すり手で安藤の後を追う。
「いや~、いやいや、安藤さんには負けるなあ。有難うございま~す」
安藤は振り返らず事務所のドアーを開けて退所して行く。
ドアーが静かに閉まる。
政信は映画のワンシーンの様な雰囲気に、
「格好良いですねえ」
結城は政信を見て、
「? どこが」
事務室の電話が鳴る。
政信が受話器を取る。
「お世話になります。金井事務所です。もしもし、・・・もしも!?」
「うるさい!」
金井である。
政信は恐縮して、
「あ! お疲れさまです」
「疲れてなんかない。バカ者が 」
「失礼しました」
「何をしてる」
「はい、今、安藤さんとの打ち合わせが終りました」
「結城に代わりなさい」
「ハイッ! 結城さん、本人から一番です」
政信が電話を応接室に切り替える。
結城は得も言われぬ顔で応接の受話器を取る。
「ハイ! 代わりました」
「いいね。あまり深く掘らない事。今は周りの眼が厳しいからね」
「ハイッ!」
「で、大川クンから電話はあった?」
「オオカワ? あ! まだ無い様です」
「マダナイヨウです?」
「あ、すいません。土屋くんに替わります」
結城はソファに座る政信に受話器を渡す。
政信が驚いて、
「えッ!」
結城は小声で、
「大川から電話が有ったかとよ。適当に答えとけ」
「はい」
政信が元気良く、
「ハイッ! 電話かわりました。大川さんは鋭意努力しているとの事です」
「何ッ?」
「あ、丁寧に進めているそうです」
「アンタ、時々わからない応え方をするね。結城に替わりなさい」
「ハイッ!」
政信が結城に受話器を渡す。
金井の怒った声が漏れる。
「どう成っているの?」
「あ、だから緊張感を持って・・・」
「バカ者ッ!」
電話が切れる。
つづく




