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案件が上がって来る

 金井事務所のインターホンが鳴る。

松永がインターホンの受話器を取る。


 「はい」

 「アンドウです」 

 「どうーぞー」


施錠を解放する音が。

安藤が「菓子折り」の入った紙袋を持って入って来る。

松永は満面の笑みを湛え、


 「あらー、安藤さん。お久しぶりです。皆さんお待ちですよ」


安藤は菓子折りの入った袋を松永に渡す。

松永が嬉しそうに、


 「わ~、アマンドのケーキ! 美味しそう」


安藤はマスクを外し『歯』を気にしながら、


 「皆サン? 先生も居るの」

 「いいえ、結城さんと土屋さんです」

 「ツチヤ?」

 「新人の秘書サンです」

 「シンジン・・・」

 「はい。よく動いてくれますよ」

 「へ~」


松永は安藤を見て、


 「安藤サン、その歯どうしたんですか?」

 「ハハハ。折れた」


安藤は応接室に入って行く。

結城と政信は安藤を見て椅子を立つ。

結城が右手を差し出し握手を求める。

握手をしながらあいも変わらず慇懃に、


 「いや~、イヤイヤイヤ、まあ、どうぞ、どうぞどうぞ。ナンダナンダ、久しぶりじゃないですか~」


安藤は右手で口を隠す。

結城が、


 「? どうしました、口」

 「歯が折れちゃって」


結城は驚いて、


 「え~えッ!」

 「いや、ここに来る前に大成オオナリさんに寄って来てね。茶うけの煎餅をご馳走になったらポロっと。まいっちゃいましたよ」

 「大成サンで?」


安藤は政信を見る。


 「ああ、紹介します。俺の舎弟シャテイで土屋と云う『カバン持ち』です」


政信は背広のポケットから皮の名刺入れを取り出し、


 「あッ、はじめまして、土屋と申します。よろしくお見知りおきを」


安藤はビトンのセカンドバックからお揃いのビトンの名刺入れを取り出し、


 「安藤正輝です」


二人は交換した名刺をジッと見詰める。

安藤は政信をまじまじと見て結城に、


 「良いの入ったじゃないの」

 「そうですか?」


結城は政信を見て、


 「ほ~ら、言われちゃったじゃないか。ハハハハ。まあ、どうぞどうぞ、座って座って」


松永が盆にお茶とコーヒーを載せて応接室に入って来る。

テーブルの上にお茶とコーヒーを並べながら、


 「安藤サン、久しぶりですねえ。元気そうで」

 「そ~お?」


安藤がソファーで伸びをする。


 「アイテテテテ。・・・首が痛くて」


松永は驚いて、


 「クビもですか?」

 「そう。回らないんだよ」


心配そうはに、


 「寝違えたんですか?」

 「油が切れたんだよ」

 「アブラが切れた?」

 「そう。金のカネのアブラを注入すると回るんだけどねえ」

 「は~? また冗談を。ごゆっくりしていって下さい」


安藤は松永を見てニッコリと、


 「ありがとう」


応接を出て行く松永。

政信が安藤を見詰めている。

安藤は応接の陳情棚を見ながら、


 「ど~お、良い話し有ない?」


結城が、


 「ゼンゼン」

 「そ~お・・・実は・・・」

 「何か」

 「実はアレが気に掛かってね」

 「アレ?」

 「例の防衛省のヘリ基地・・・」

 「ああ、あの可決した横田の」

 

結城は鋭い眼で安藤をニラみコーヒーを一口。


 「土屋、ドアーを閉めろ」

 「あッ、はい!」


結城は改めて、


 「あれは緊急で補正を組んで、三ヶ月以内に着工します。アメリカさんがうるさくて」

 「石田事務所の吉村さんからも聞きました。ナンでもカンでもアメリカ主導だ」

 「仕方がないですよ。敗戦国ですから」

 「そうだね」

 「ところで?」


結城は目を細め、マブシイしそうに安藤をニラむ。


 「ボーリングの依頼ですか?」

 「いや、数字は上がって来てるんだ。ただバランスと配分がね」

 「誰かゴネ役が居るんですか?」

 「困ったもんだ。新入りが入るとマナーってものを知らない」


結城が、


 「コチラで出来る事が有るんなら何なりと」

 「ハハハハ。そのゴネ役がね。実を言うと先生の選挙区なんだよ」

 「うちの選挙区? ダレ?」

                          つづく


※『ボーリング(深層調査)』とは、落札されるだろう額を探る事を謂う。

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