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二つ先の事を考える

 先生が本会議に出て行った後。


結城と政信がソファーに座って茫然ボウゼンと見詰め合っている。

結城は深い溜息を吐いて、


 「毎日毎日、叱咤と激励だ・・・」


政信が、


 「結城さんは金庫番だから仕方が無いですよ」

 「なにッ!」


結城が政信をニラみ、


 「オマエがやれ」

 「無理ッすよ~。僕は泥棒は出来るかも知れませんけど、詐欺師はムリだ」

 「おい、バカにしてるんだろう」

 「とんでもない。尊敬してます」


結城はやけくそな笑いを浮かべ、


 「オメーよ~・・・」


何か言いたそうだが、やめる。


 「まあ、良い。二時の大谷村の十人の陳情団、頼むぞ」

 「はい」


政信が懐から手帳を取り出し読み上げる。


 「まず、県の出先、総務省、国交省、農水省、えーと、それ以外、どこか廻りますか?」

 「うん? それで良い。特に国交省は官房の総括、各審議官、水資源の部長と地域対策の課長、河川局は局長、次長、各課長、この辺はくれぐれも宜しく頼むって言っとけや。特に、河川局の桑原次長は地元だからな」

 「はい。あの~、何の陳情に来るんですか?」


 松永がコーヒーとお茶を盆に載せ、笑いをコラえながら応接室に入ってくる。

呆れた顔で政信を見る結城。


 「オメーよお~、はるばる上州の田舎から、村長をアタマに十人もの陳情団が雁首ガンクビそろえてやって来るんだ。まさか、裏口入学でもあるめえ?」

 「そうですけど」

 「村が沈んじゃうんだよ」

 「地盤沈下ですか」

 「バカッ! ダムの計画だよ。『湖底の村』になっちゃうの。そんな事、事前に棚の陳情ファイルを読んで頭に入れとけ。また、オヤジにドヤされるぞ!」

 「ああ、なるほど。石川達三の世界ですね」

 「何だ、それは?」

 「故郷フルサトが無くなっちゃう」

 「うん?・・・やっぱ、お前は政治家には向いてねえな。文豪の世界だ」

 「そうですか?」

 「いいか土屋。こう云うのは、推進派と反対派が居るんだ。どっちの陳情団の話も丁寧に聞いてやる。そして、丁重な扱いをしてやる。偏ったら票は減る。どうせ、もう直ぐ解散総選挙だ。この辺の芝居は大きな山場だ。金も集めろ、票も集めろ! とにかく、行け行けゴーゴー。ヤバイ橋も渡らなくっちゃならねえ。さっき、オヤジが言ったろう? 親身になって丁寧に聞いてやる。しかし、無理はくれぐれもしない事」

 「ハイ。勉強に成りました」 

 「うん? うん」


結城はソファーの隅に座った松永を見て、


 「あ、それから松永君、安藤サンの件、十六時に呼んでくれる」

 「あ、はい」


事務所の電話が鳴る。

松永が急いで応接室を出て行く。

事務所から松永の声。


 「結城さん、二番に大川(大川正義・地元事務所 第一秘書)さんからです」

 「おお? ハイハイハイ」


結城は代議士の机上の受話器を取り、二番のボタンを押し、


 「イヤイヤイヤ、忙し~いッ。すみませんねえ、バタバタさせて」


大川が、


 「何だって、教育委員会を揺さぶれって? さっきオヤジから枝野のバカ息子の裏口の件で電話が有ったぞ」

 「えッ、直接ですか? 」

 「教育委員会なんて巻き込まない方が良いぞ。共産党なんかに知れたら大変だ。あのオヤジはすぐに上を突っつけと始まる。立場をわきまえて秘書を動かさないとなあ。副大臣だぞ」

 「ごもっとも! 今、その件で事務所で会議をしてたんですよ。ましてや今は有象無象が鵜の目鷹の目だ」


大川が、


 「憲護が手綱タズナを取らなくちゃダメだ。あのオヤジ、自分には出来ないモノは無いと思ってる。その内、詰め腹を切る事になるぞ」

 「すんません。勉強になります」

 「あの件は校長に話しを付けさす。アイツは昔から酒好きで女好きなんだ。だいたい教育者と云う者は『助平』が多い。後援会長のカミさんがやってる飲み屋でカミさんのパンツをカブらせてカッポレでも踊れば枝野は卒業できる」

 「イヤ~~、さすがだ! 是非、お願いします」

 「それから、あの病院の院長の息子もだって?」

 「はい~」

 「應慶の医学部なんかに入れるのか?」

 「それはバッチリです」

 「もし、その話しが事実なら院長を立民支持から手を引かせる。あの院長の親父は済生会の会長で群馬県医師会の重鎮だしな」

 「なるほど。しかし何で立民支持者の院長のカミさんが、ウチの後援会の会計をやってるんですか?」

 「うん? あ~、アレは後妻だからよ。ナンだカンだで息子も悩んでるんだ。あの息子は自殺未遂を二回やってる。もし入学出来たら息子にも明るい未来が見えるんじゃないのかな?」

 「・・・なるほど。分かりました。頑張らせてもらいます」

 「また、電話する。インフルエンザにかかるなよ。大事な時だからな」

 「ハイ! あ、水神の婆さんの方、よろしくお願いします」

 「アイヨー」


受話器を置く。

結城はアラタまって政信を見て、


 「土屋!」

 「はい!」

 「この世界はいつも二つ先の事を考えるんだ。そうすれば手は後ろに回らねえ。オヤジに言われたら『その先のサキの事』をな」

 「はい。あの~。枝野クン、大丈夫でしょうか?」

 「エダノ?」

 「浦口さんの裏口の件・・・」

 「だから今の電話、聞いてただろう? 裸踊りを踊るんだってよ」

 「は?」

 「枝野くんの件は俺の案件じゃねえ。オマエと大川さんの仕事だ。バカ息子、いや後援会長の息子さんだ。丁寧に扱えよ」

 「卒業も裏口で、入学も裏口、就職も裏口、秘書官も裏口。岸谷総理の息子サンみたいですね。本当に裏を知ったら表は眩しいでしょうね」

 「何ッ? オメー、あまり難しい事を考えるなよ。言われた事をハイハイとやってれば良いんだ。あのオヤジは元は日弁連の副会長だぞ。緊張感を持ってスピーディーに! だ」

 「ああ、クイック アンド レスポンスですね」

 「そうだ。分かってれば良い」

 「ハイ!」

                          つづく

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