表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/50

先 生

 突然事務所のドアーが開き、先生(金井財務副大臣)が事務所に入って来る。


結城が急いで席を変わる。

松永は先生を見て、


 「あッ、おはよう御座います」


本日の先生は若干『虫の居所』が良くない。

先生より少し遅れて、肥満の青木信也(秘書兼運転担当・中大法卒)が息を荒げて事務所に入って来る。

先生は応接室に入りドアーを閉める。

結城は先生を見て起立する。

政信も少し遅れて起立する。

結城は不動の姿勢で、


 「お疲れ様です」


政信も結城をそれを真似て、


 「お疲れさまです」


青木が閉められたドアーをそっとノックして応接室に入って来る。

控え目な小声で、


 「・・・失礼します」


先生は青木を無視して、新人の政信を見てニッコリと笑い、頷く。


 「・・・うん」


代議士専用ソファーにフカブカと座る先生。

結城はそれを確認して浅く静かに座る。

政信も青木も控えめに座る。

結城と息を整えた青木が背広の内ポケットから手帳を取り出す。

政信は結城と青木の仕草をジッと見ている。

先生は突然、「ニッ」と笑い青木をニラんで一言。


 「青木くんねえ・・・」


青木は突然自分の名前を呼ばれ、背筋を伸ばして、


 「ハイッ!」

 「君は目立ち過ぎるぞ~お」

 「ハ?」

 「君がワタシじゃないんだからね」 


青木は恐縮して頭を掻きながら、


 「すいません。気を付けます」

 「気を付ける? 何を」

 「えッ? あの~・・・ナニをでしょうか」

 「バカ者ッ!」

 「あ、ハイッ! すいません」


先生は机の上に置かれた水差しからガラスのコップに水を注ぐ。

そしてひとくち口にして青木を睨み、


 「・・・痩せなさい! いつまで太ってるんだ。私が小さく見える!」


青木は恐縮して、


 「あッ! き、気を付けます」

 「だから何をと聞いてるんだ!」


青木は鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をして、


 「えッ? あの、メシ・・・」


先生は人差し指で机を力強く叩き、


 「バカもの。私のソバに立つなッ! と言ってるんだ」


青木は納得したように、


 「あ~あ、・・・ハイッ!」


それから先生は「結城」を見て毎度の事の様に、


 『天に向かって唾を吐く』


説教が始まる。


 「・・・だいたいだねえ。アナタが、だらしないからこんな事に成るンだ。麻尾大臣の事務所に行ってご覧なさい。あそこの秘書サン達は実にスマートでしっかりしている。アタマが良く大臣を上手ジョウズに立て、まるで歩く『お金』の様だ。アナタとは全然違う。私はね、アナタを叱っているんじゃないんだ。よく勉強しなさいと言ってるんだ」


結城は恐縮して、


 「ハイ」


そしてこのセリフの後に続く言葉は、


 「結城くんねえ。今回の私のポストは何? 」


結城の答えはいつも、


 「ハイ! 財務副大臣です」


先生は畳み込む様に、


 「でしょう? お金が集まらない訳がないじゃない。何をためらってるんだ。私は裏金の証人尋問には呼ばれて無かったんだよ」


結城は恐縮しながら、


 「はい。すいません」

 「すいません?」


先生が結城を睨む。

結城は急いで言葉を選び、


 「あッ、いえ! 勉強になります」


政信はこの雰囲気を緊張して聞いている。


すると先生は青木を見て急に優しい言葉に変わる。


 「青木くん・・・分かるね」

 「ハイッ!」

 「行け行け、ゴーゴーッ!」


これは先生の『好きなパワフルな言葉』である。

そして、またここから先生のいつもの説教が始まる。


 「私はね、学生時代、魚の干物を売って学費を稼いだんだ。売れて売れて笑いが止まらなかった。秘訣は何だと思う、結城くん!」

 「ハイッ! 時間です」


先生はその答えを聞いて今度は平手で力強くテーブルを叩く。


 「そうッ! その通り。魚を売るにはまず時間。時イコール金! その時間にソコに行けば、必ず客は待っててくれる。週間付ける事! 無駄をはぶく。無駄とは浪費である。そこで客と軽い会話を交わす。人と人との愛が生まれる時間だ。そして愛は情報にツナガる。情報が無ければ票は集まらない。票は金! 全て愛! それともう一つはトモシビッ! そうすればでも集まって来る。灯とは何? 結城くん!」

 「ハイッ。結果の出る陳情処理です」


そしてまたテーブルを強く叩き、


 「そうの通りッ! その結果こそが糧(カテ・金)になり、票に成る」


ここまで話すと先生は急に話題を変る。

猫撫で声で、


 「で、結城くんは今はどの位?」


この『どの位』と言う言葉は券のハケ具合(捌き状況)を云う。


 「はい。現状は」


結城は机上の手帳をメクり始める。

と先生のまたキツイ一言が。


 「ヤメナサイッ! 私と話す時は結論だけッ! 時間がもったない」

 「あッ、ハイッ! 五十と・・・」


先生はそれから先は聞かない。


 「はい。次、青木くん!」


青木は即答で、


 「ハイッ。十枚です」


先生は青木を睨み怪訝な顔で、


 「十枚? 君は身内に私の『勉強会の券』を売ってるの?」


青木は直ぐに訂正して、


 「アッ、すいません! 二十枚でした」

 「そうでしょう。一週間で二十枚。素晴らしい。やはり私の人選にくるいは無かった。ただしッ! ・・・全部入金出来ればの話しだ」


先生はまた独特の「ニッ」と云う笑顔を作る。


 「あんなものは紙屑だ。化けなければ何にもならない。みんなに言っておく。勉強会のチケット売りなどと云うものは足で稼ぐモノではない。アタマで稼ぐのだ。私の話しを聞きたい人達はヤマほど居るはずだ。私の話しには日本の財務経済の夢と希望が詰まっている。その私の政治手法を売る事! 差し当たって一人百枚を目標に捌きなさい。目標は高くッ! しかし、無理はいけない。無理をすると・・・。松永く~ん。本日迄の入金は?」


松永が事務室から、


 「はーい」


松永が応接室にメモを持って来る。

先生は渡されたメモを見て驚く。


 「四八件? ・・・で地元は?」


松永が、


 「あッ、下に書いてあります」


それを見て先生はため息まじりに天井を睨み、


 「二六枚かあ。・・・まだ日にちはあるな」


先生は全員を見回し、


 「良いかね? 繰り返すがアナタ方の双肩に掛かっているんだ。で、結城くん。お世話になった医師会には回ったの?」

 「あッ、これからです」

 「これから? ・・・あそこは武藤さんが『窓口』だからね」

 「ハイ。アポは取ってあります」


先生は腕時計を見る。


 「・・・おおッ! もうこんな時間だ」


背広のポケットから「本日の行動表」を取り出し、テーブルの上に広げる先生。


 「え~と・・・松永く~ん! 修正表」


事務室に戻った松永を呼ぶ。


 「ハイッ!」


松永が応接室のドアーを開けて「本日の行動修正表」を持って来る。

先生が松永を見て、


 「で?」


松永は修正表の一行を指差し、


 「はい。本日、八時三十分、党本部にて旧派閥の緊急総会が入りました」


先生は驚いて、


 「八時半? 旧派閥の総会? 総理の発言の件だな。大変だ。青木くん、車を用意ッ!」

 「ハイッ」


青木は手帳を背広の内ポケットに仕舞い、大きな身体カラダを揺らしながら応接室から出て行く。


先生は手帳と行動表を懐に仕舞いながら新人の政信と教育係の結城を見詰め、


 「いいかね。チケットは一枚二千円だ。それにゲストは前総理の石破さんッ! 私の顔に泥を塗る事だけはやめて下さいね。二人に言っておくが、もうこの時間から走ってる秘書さんもいるんだよ。時は金! 結城くん、今日の目標は?」


結城はハッキリした口調で、


 「ハイッ! 十です」


先生が、


 「聞こえない!」

 「あッ、三十です」


先生は新人の政信を見て優しく、


 「土屋くん。こんな簡単な打ち合わせを『週の始め』にやっている。君も大いに、この議論に加わりなさい」

 「えッ? いや、ハイッ!」


先生は急いで応接室を出て行く。

結城と政信、事務室の松永の三人が起立して、


 「いってらっしやいませッ!」


 嵐の去った先生の事務所。

結城は事務室で電話を掛けている。

松永が応接の机上を片付けている。

政信はソファーに座り、冷えたお茶を飲みながら、


 「・・・凄いですね~え」


松永は優しく笑って政信を見て、


 「何がですか?」

 「いや、今の打ち合わせです」

 「そうですか? どこもこんなもんですよ」


政信は驚いて、


 「ええッ! そうなんですか」


松永はニッコリ笑って、


 「すぐ慣れますよ。代議士達は皆『カリスマ』ですから」


 電話を終えて結城が事務室から戻って来る。

代議士専用のソファーに座りながら新人の政信を見て、


 「イヤ~、いやいや凄げえだろう。毎週アレだ。松永くん。ワリーけど熱いの一杯もらえる?」

 「はい」

 「陳情処理だとかチケット売りだとか。国会議員の秘書の仕事って面白れえだろう」

 「面白い? チケット売りがですか」

 「そうだ。パーティー券と云う言葉は今は禁止だからな。いいか土屋、これがケアーだ。あのオヤジからアレを取ったら何も残んねえ。とにかくコマケーんだ。あんな事、車ン中でやられてみろ。運転なんか集中できゃしねえ。みんな一日で辞めちまうよ。運転手はあの青木で五人目だぞ。しかし、アイツはよく頑張ってる方だ」


松永がコーヒーをテーブルに置きながら、


 「相性が合うんじゃないですか?」


結城が、


 「アイショウ?」

 「 ・・・デブとハゲで 」


松永はクスッと笑い応接室を出て行く。

結城はコーヒーを飲みながらつくづくと、


 「しかし、あのオヤジは金集めと演説が下手ヘタだなあ・・・」

 「え? そうなんですか?」


結城はコーヒーを飲み干し、思いついた様に政信を見て、


 「土屋」

 「ハイッ!」

 「今日はオレと同行してみよう」

 「えッ? 僕、今日は何も持って来てないですけれど・・・」

 「いい。名刺とオレのカバンを持って付いて来い」

 「え? あ、ハイッ」


松永は薄笑いを浮かべながら、結城の本日の行動予定表と、『財務副大臣 金井博康 秘書 土屋政信』の名刺を2ケース。

チケットを一束(五十枚)持って応接室に入って来る。

松永は優しい微笑み(ホホエミ)を浮かべて、


 「今日からカバン持ちですね。頑張って下さい。『エース』なんだから」


と言いながら名刺とチケットをテーブルに置く。

政信はテーブルに置かれた自分の名刺の肩書きと、札束の様な『チケット』を見て目が点に成ってしまった。

                           つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ