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先の読める人

 第一議員会館。

週初めの金井事務所である。


定例会議の準備中・・・。

『会議』といっても金井事務所の場合、民間企業の「営業会議(券販売状況と陳情処理、地元の情報分析)」と思って欲しい。

事務室では松永が電話をしている。


 「・・・ハイ。あいにく本日は全員、地元に戻っております(嘘である)。・・・ハイ。・・・ハイ。その様にお伝えします」


 応接室のテーブルの上。

結城と政信が手帳を置いて姿勢を正し、座って居る。

先生はフトコロから議員手帳を取り出しオモムろにテーブルの上に置く。


 「サッ! 始めよう。で、どうかな?」


結城が初めに口火を切る。


 「ハイ! 私は昨日、水神村から戻りまして」


先生の声はいつにも増して『力強い』。


 「うんッ! で、どうだった」

 「大変な田舎で」


薄笑いを浮かべて、


 「そ~う!」


本日の先生は精神が安定して、強気である。

結城はテーブルの上の手帳を広げ、報告して行く。


 「人口が百二十三、平均年齢六七歳、山川姓が非常に多く、移住者が三家族。この三家族の住所は水神に移して有るそうです。主に蜂蜜、椎茸、カボチャ、きゅうり、ナス等を栽培。自給自足! 村には毎日、巡廻販売車が廻って来てます」


先生は鬼の様な歯を見せて「ニッ」と笑う。


 「六七歳か・・・高齢化してるね~え。で、君の調書にはほとんどの住人が山川姓と書いて有るようだね」

 「はい。非常に多いのであります」


先生の「ニッ」の笑い顔が戻らない。


 「そう。で、近くに郵便局は在るの?」

 「特定が在ります」

 「在るッ! アレの看板は立って無い?」


結城は『アレ』が理解出来ない。


 「アレ? とは・・・」


先生は小声で、


 「五木田ゴキタだ」

 「あッ! まだ有りません」


先生の気合いの入った声が更に続く。


 「ヨシッ! 大川君(地元第一秘書)に言って直ぐに看板を立てさせなさい。しっかりとしたヤツをね。それとご意見箱も忘れずにクッ付ける事」

 「ハイ!」

 「一週間に一度は『ご機嫌伺い』に廻るよう、大川君に伝えなさい。で、湯呑は※忘れて来た(置いて来た)んだろうね」

 「ハイ。ただ、ほとんどの方がトメさんの親戚と云う事で」


先生の目が不気味に輝く。


 「なるほど。・・・『忘れ物』の三十個では足りないと云う事か・・・」

 「ハイ・・・」


天井を見上げ何かを考える金井。

結城が口を挿む。


 「トメサンに後援会の取りマトメ役に成ってもらいましょうか」


先生が力強く机を叩く。


 「そうッ! 君も成長したね~。そこなんですよ。ねえ、土屋くん」


政信は自分に振られ、緊張した表情で、


 「あ、は、はいッ!」


先生は急に猫撫で声で、


 「で、君は何をしてたの?」

 「はい! 浦口サンと例のウラグチの件で」

 「そう。で、カステラは?」

 「はい。お持ちしました」

 「う~ん。喜んだでしょう」

 「はい。一人で良いのかと」

 「何ッ!?」


先生が驚く。


 「浦口さんは裏口は一人で良いのか? と言ってました」


先生は驚いて、


 「 一人で良いのか? ・・・そんな事が出来るのか?」

 「全体枠が有るみたいです」

 「ゼンタイワク・・・」


先生はヤサシイしい眼差しで結城を見て、


 「で、結城くん。アナタも同行しんでしょうね」


先生は釘を刺す。


 「え? あ、私はちょっと」


先生の顔色が変わる。


 「チョット?」

 「いや! 私は水神に」

 「良いですか? あの時、私は一緒に行ってやりなさいと言ったはずだね」

 「あ、ハイ。ですから、私は・・・」

 「言い訳はよしなさい! 土屋君はまだ素人シロオトだ。つまらない事を喋ってしまったら私が困るんだよ」

 「あ、ですから私は電話で」

 「うるさいッ!」


先生は二人を見て、


 「人と人は触れ合う事により愛が深まる。分かりますね?」


二人は身を固くして、


 「あ、ハイッ!」

 「地元事務所の陳情者の中で進学に迷っている若者やご家族が居る筈です」

 「ハイッ!」

 「アナタも浦口と熱い握手をして来るのです」

 「あ、ハイッ!」


先生が大声で松永を呼ぶ。


 「松永く~ん!」

 「ハイ!」


松永が応接室のドアーをノックして入って来る。


 「お呼びでしょうか?」

 「ヨネさんを出してくれる」

 「はい!」


松永が事務所から、


 「先生~、三番にヨネさんです」

 「おお・・・」


先生はソファーを立って、机上の受話器を取る。


 「ご苦労さんね~。大川君は? ・・・そう。出てるの。どこえ? ・・・水神村? 何とまあ~、『先の読める人』だねえ~」


先生は受話器を耳に、二人をニラむ。

結城と政信はウツムいてしまう。

受話器からヨネの声が漏れる。


 「どうした? 陳情かい?」

 「うん。学校だ・・・」

 「学校? 大学かい?」

 「うん」

 「五人来てるよ。生還病院の次男坊、聖山病院の息子、それと・・・あ、枝野か」

 「今、生還病院と言ったね。 院長は立民党じゃないの?」

 「奥さんは金井派だよ。婦人部の会計係りをやってるよ」


先生は驚いて、


 「え~え、そうだったの? で、どこに入りたいの」

 「應慶の医学部って書いてあるよ」

 「オウケイ! あの院長はどこの大学だっけ?」

 「應慶でないの? ただ次男坊は今、五浪だからねえ・・・」

 「ああ、苦しんでるんだ。野党の立民党じゃ陳情に行ってもダメだしねえ・・・」


結城は二人を見る。

結城が政信の膝をこずき合図をせがむ。

政信が気付き、結城に手でOKサインを送る。


 「そう。その陳情書、ここにファックスしてくれる。土屋くんてにね」

 「あいよ~・・・。それから川場村の集会場の看板、また、足が折れてんだよ~」

 「何~、またかあ・・・。私の反対派が多い所だからねえ。鉄パイプにしなさい。頑丈な」

 「あいよ~」


するとヨネが『驚くべき事』を話し始める。


 「あッ、言い忘れた。それからあの後援会長の息子、あの子、『引きこもり』で学校に行ってないんだってよ。だから卒業が出来ないって話しだ」

 「あんれまあ~。そりゃ困った。そんで早稲田に行きたいの? 彼は夢を追ってるんだな。よし、叶えてやろう。金井の力を見せてやる。高校卒業の方は大川君に任せなさい。あそこの校長は大川君と同窓だ。あの校長はいろいろと噂の有る男だ。大川君には教育委員会に行くように言いなさい。ここは彼の力の見せ所だ。ハハハ。じゃ、お願いね。どうぞ・・・」


先生は受話器を置きソファーに座り直す。

二人を見て、


 「良いですか。簡単な事なんですよ」


結城と政信が、


 「ハイ! とても勉強に成ります」

 「私は、いつかも君達に言った事が有るね。思い出してご覧なさい」

 「は?」


結城が、


 「すいません。ちょっと記憶に・・・」

 「バカ者! 長いお付き合いをして行くんだ。固い絆! キズナは助け合いから始まる! どんな陳情でも早く、確実に、丁寧に、相手の身になり、力強く! 支援者を包み込むように。これが、厚い信頼関係、熱い一票に繋がる。人にはそれぞれ『ヒトに言われぬ悩み』が有る。それを解決してやる事が政治家の使命だ。ヒルガエって、それは我々のカテにも成る」


人差し指で机を叩きながら熱弁をふるう先生。


 「ハイ! 勉強になります」


先生は自分の発言に満足したかの様に、


 「うん・・・」


そして、テーブルの上のコップの水を一口飲み話を変える。


 「・・・安藤君が来たらしいね」


結城が思い出した様に、


 「あッ! そうだ」

 「ア、ソウダ? 『報、連、相』はどうした」

 「すいません」


先生は結城をキツイ眼で見る。


 「・・・で、何しに来たの?」

 「あ、横田のヘリコプター基地拡張工事の件で・・・」

 「おお? もう動いているの」

 「はい」

 「あそこは格納庫の増設もあるはずだ。もう直ぐ出るぞ」

 「えッ! そうですか。・・・今日の夕方、安藤サンと打ち合わせます」

 「そう。大いに進めなさい。横田も立川も『佐賀』も大変だ。トランプさんと故安辺さんとの密約が有るからねえ」


結城が驚いて、


 「えッ! サガも?」


先生が時計を見て、


 「おお、もうこんな時間だ。本会議が始まる」


先生は議員手帳を懐に仕舞、ソファーを立つ。

二人を見て、


 「良いですか、無理はくれぐれもしない事。『無理は怪我のモト』と言いますからね」


結城と政信はソファーを立ち、


 「ハイッ!」

                          つづく

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