まとめて五〜六人?
政信は受話器を置き、お茶を一気に飲む。
「アッチー! 何て熱ーいんだ。喉が焼ゲドしそうだ」
松永は呆れた顔で政信を見て、
「焦って飲むからですよ。裏口、上手く行きそうですね」
「浦口サンですよ。ウラグチなんて呼び捨てにしたらバチが当たります」
「え? ああ」
松永は話題を変える。
「私大って定員の二倍以上は補欠学生を取ってますよね。例えば学籍番号。あれってとっても変ですよ。だから私大の場合、別に学生の能力の問題じゃないんじゃないですか? 一に経営、二に儲け、三・四が無くって五に補助金ですよ」
政信は松永を見て、
「松永サン家も政治家一家ですよね」
「そうですよ。何か?」
「いや、僕この部屋に居ると世の中、百八十度、違って見えて来るんです」
「そうですか? うちの父は、私の小さい頃から家族によく話してましたよ。世の中は「裏と表」が有るって」
「何ですか? それ」
「裏の明るさを知れば表が暗く見える。表の暗さを知った人は裏の明るさを見たがるんですって」
政信は眼を丸くして、
「イヤー、何から何まで本当に勉強に成ります。僕、人間が変わりそうです」
電話が鳴る。
松永が受話器を取る。
「お待たせしました。衆議院金井事務所でご座います」
結城が携帯電話で「山川トメ」の玄関先から事務所に電話をしている。
「モシモ~シ・・・モシモー・・・」
結城はAUの携帯電話を睨み、独り言を言う。
「こんな田舎からAUって通じんだろうか。モシモ~・・・オ? 通じた!」
携帯電話から松永の声。
「あ、すいません。この電話、混線してるみたいです。もしもし、どちら様でしょうか?」
「俺だ」
「あ! 結城さん。お疲れさまです」
「うん? うん。いや~、イヤイヤ、えれ~え、山ん中だよ。ダメかと思ったよ」
「は?」
「いや、このAUだよ」
「AU? ああ、結城さんAUですか?」
「うん。何かある?」
「はい。今の所、有りません。あ、本人が電話を入れろって」
「本人が?」
結城はイブッタ化に、
「分ったよ」
「今はどちらに居ります?」
「家だ」
「イエ?」
「おい、バッテリーが切れそうだ。土屋に変わってくれ」
「はい」
政信は応接室の書類棚から『陳情ファイル』を取り出して立ち読みしている。
<陳情ファイルから>
○ 航空会社に入社を希望(女性キャビンアテンダント)。
○ テレビ局に入社を希望(女性アナに)。
○ 新聞社に入社を希望(報道局に)。
○ 銀行に入行を希望(男性)。(済み)
○ JR東海勤務の息子を群馬管区に転勤させて欲しい。
○ 慶應幼稚舎に入りたい。
○ 自宅までの道路を造って欲しい。(交渉中)
○ 「道の駅」を我が村にも。
○ 大手ゼネコンの下請けを希望。(済み)
○ 山野愛子美容学校に入校したい。(済み)
※○ 進学で悩み、自殺を試みた息子が居る。
内 訳(息子は五浪。慶應の医学部に、なんとか・・・「聖山病院」)
政信は目を止める。
「『聖山病院』。・・・セイザン?」
事務所から松永の声が、
「土屋さーん、一番に結城さんからです」
「えッ! あ、すいません」
政信が代議士の机上の電話の受話器を取る。
ボタンを押して、
「ハイ、代わりました。ご苦労様です」
「何やってんだ~」
「えッ? 今、浦口サンのウラグチの件で陳情ファイルを見てます」
「ンなの後で良い。株が下がってるぞ」
「カブ?」
「津山は来なかったか?」
「来ません」
「そうか。来週の月曜日、アメリカからトランプの代理でベンちゃん(財務長官)が総理ん所に来る。で、その晩、官邸で経産大臣以下皆んな集めて何か喋るらしい。翌日、自動車株と精密機器(IT)の株が上がる。浦口に伝えとけ」
政信は驚いて、
「え~えッ!」
「良いから、早く連絡しろ。五、六人まとめて入れるから」
政信は感心して、
「結城さんて凄いヒトですねえ」
「バカ野郎、この位の事が出来なくちゃ『金庫番』になれねえよ」
「分かりました。しかし、この部屋じゃ、株の上がり下がりまで事前に分かっちゃうんですね」
「ハハハ、ああ見えてもアレは一応財務副大臣だからな。おい! この事は、口外無用! 誰にも言うなよ。俺達どころか、オヤジの手も後ろに回っちまうからな」
「言いませんよ。私は株なんかまったく興味が有りませんから」
「バカ野郎! 株と為替ぐらい勉強しろ。政治とは株と為替とチケット(パー券)で成り立ってんだ!」
「そう云うもんですか」
「そう云うモンよ」
松永が応接室に入って来て、電話中の代議士の机上に一枚の名刺を置く。
そしてメモ用紙を名刺の隣に置き、応接室から出て行く。
政信がメモ用紙を見て、
「アッ、それから「K&A」の安藤さんと云う方が結城さんを訪ねて来たそうです」
結城は驚いて、
「えッ、安藤さんが!?」
つづく




