世話の焼ける弟
群馬の『ド田舎(山の中)選挙区』。
結城は水神村の山道を山川由紀の婆さん、山川(山川トメ)を乗せて軽トラ(地元用選挙カー)を運転している。
携帯電話が鳴る。
政信からの電話である。
結城は携帯を懐から取り出し、
「何だ。運転中だ、電話するな」
「あ、すいません。あの例の裏口の件です」
「アトにしろ・・・」
政信はその言葉を無視して、
「バッチリです」
「バカ野郎! オマエの話を聞いてると事故っちゃうよ。ちょっと待て。今、車停めるから」
結城は路肩に車を停める。
後ろの座席に座るトメを見て、
「トメさん、わりいねえ。三分待っててや」
「良いよ。どうせ、急ぐ旅でもあるめえし」
結城はまた携帯電話を耳に、
「もしもし、土屋。オメー、親父の口癖、知ってるだろう。5W1Hだぞ」
「あ、すいません。昨日、浦口さんの所に行って来ました」
「結論!」
「 OKでした」
「そんな事、あたりめーえじゃねえか。切るぞ」
「いや、一人で良いんですよね」
「ナニッ?」
「あの~、浦口さんが一人で良いのかと」
「・・・」
「もしもし、モシモシ、結城サン?」
「聞こえてるよお~。おい、応接の棚の陳情ファイルを広げてみろ。息子の進学で悩んでいる親が居るだろう」
「あッ! そうか、分かりました。また後で電話します」
「いいよ。電話なんかしなくても」
結城が携帯を切る。
トメが後部座席から結城に赤飯の握り飯を差し出し、
「忙しいねえ~。これ、食うか?」
結城は驚いて、
「あ、イヤ~、いやいやいや、こりゃーすんません。旨そうだ」
「誰と喋ってたんだい?」
「世話の焼ける弟ですよ」
「そ~けえー」
結城は握り飯を頬張る。
つづく




