汗をかくと言う事は
衆議院第一議員会館 正面玄関。
政信がコンビニの袋を提げて階段を足早に上がって行く。
衛視が政信の秘書バッチを見て敬礼する。
政信は首に掛けた「IDカード」をかざし、軽く会釈する。
衛視がコンビニの袋の中を確認する。
ニコッと笑い、
「弁当ですか? お疲れさまです」
「どうも」
急いでエレベーターに向かう政信。
堀田事務所の第一秘書 津山(津山俊久)がエレベーターを待つ。
政信は津山を見て、
「お疲れ様です」
津山は驚き、
「おう、久しぶり!」
「そうですね」
「地元から?」
「いや、国交省です」
「コッコウショウ」
エレベーターが停まりドアーが開く。
政信はエレベータードアの開放ボタンを押して、
「どうぞ」
「お。すみません」
津山がエレベーターに乗ると、中にはワインの箱を数段重ねた台車が。
津山は台車の横に立つ女性秘書・森住(森住玲子)に、
「甲州ワインですか。お中元?」
「はい」
「うちにも来るのかな?」
「勿論ですよ。先生お元気ですか?」
「元気すぎて困ります。先週人間ドックで検査してもらったら体力は三十代ですって」
「あら、そう言えば堀田先生、スポーツクラブに通ってらっしゃるんですって?」
「ええ? ご存知なんですか・・・」
「有名ですよ。うちは運動不足で尿酸値が上がってしまって。運動って言ったら議会で大声張り上げるぐらいでしょう。あれじゃその内、糖尿で」
八階のドアーが開く。
エレベーターの開放ボタンを押す政信。
「どうぞ!」
「あッ、すいません」
森住は台車を押しながら政信を見て、
「金井先生の所の秘書さんですよね」
「はい。土屋と申します。宜しくお願いします」
「こちらこそ。先生に宜しく」
「はい」
森住はエレベーターを出て、廊下の表札を確認しながら去って行く。
政信と津山が廊下を足早に歩いて行く。
津山が、
「森住大臣の長女だ」
「え! そうだったのですか。可愛い方ですね」
「可愛い? まだ独身だ。良かったら話を進めようか」
金井事務所。
結城が電話を掛けていると、政信あが戻って来る。
松永は政信を見て、
「ご苦労さまです。」
「すいません。遅くなって。あれ? 先生は」
「電話が入って少し前に出て行きました」
「え~え! 道路(課)の金井さんと話してたのに・・・」
結城が受話器を置く。
政信を見て、
「おう、ご苦労さん」
「何か遭ったんですか? 急に戻って来いって」
「うん? うん。良いなあー、オマエは」
「え?」
「おい! ちょっと黙ってろ。俺は忙しいんだ。」
政信は自分の席に座り、カバンを置いてコンビニの袋から弁当を取り出す。
松永がそれを見て、
「お昼ですか? 」
「ハイ」
「カップ麺が有りますよ」
「え、食べて良いですか?」
「どうぞ。今、お茶を入れますから」
「あ、すいません」
政信はカップ麺の蓋を開けて湯を入れる。
結城は政信のカップ麺を見て、
「旨そうだな」
政信が、
「え? まだお昼、食べてないんですか?」
「いろいろあってな。食う暇がねえんだ」
「? どうしたんですか。元気ないっすね」
「鬱病だ」
「ああ、この間の集団検診の結果が出たんですか」
「違う! あのオヤジ、俺にあれヤレこれヤレって山ほど宿題を置いて行ってな。裏口はオマエ一人でやれよ」
「えッ! 一人、ですか?」
「そうよ。俺は忙しくてそれどころじゃねえ。今から地元で票集めだ」
「ええ! 群馬へ行くんですか?」
「おう。それも国境だ。水神の婆サンの所まで行くんだよ」
「あ~あ、この前の赤坂の食事会の?」
「そ~よ、まったく。忘れない内に行って来いと。土屋、あのオヤジが食事に行こうって始まったら覚悟しておけよ。喰った後、三倍のお土産がくっ付いて来るからな。そうだ、松永君、ワリ~けど売店で総理の絵が描いてある湯呑みを三十個、アレ、取って来てくれや。あの山川の婆サンに配ってもらっちゃうから」
「ハイ」
「あれって一個、いくらだ?」
「さあ・・・八百円位かしら」
「三十個で二万四千円? 高っけえなあ」
政信が、
「パー券、一枚分じゃないですか」
「何!」
結城は政信を睨んで、
「うん。まあ、そうだな。松永君、現金有る?」
「それくらいなら」
「そうか。あッ、ついでに俺の弁当も買って来てくれ。オイナリさんとカップ麺」
「はい」
松永は手提げ金庫から現金を出して事務所を出て行く。
政信はカップ麺の蓋を開けてかき回す。
スープをすすりながら結城を見て、
「後援会長の息子サンの段取りなんですが・・・」
結城が、
「うん? どうした? あッ、そうだ! 裏口じゃなくて『勝手口』ってモノもあるらしいぞ」
政信は思わずスープを喉につまらせ咳込む。
「ゴホ、ゴホ。カッ、カッテグチ! そんな入り口も有るんですか?」
「うん? うん。何か、一年間イギリスかどっかの国にへ留学するんだと。そんで、大学へ推薦で入るんだってよ。津山が言ってた」
「津山さん? 津山さんとエレベーターで一緒でしたよ」
「津山と? アイツ、株の話はしてねえだろうな」
「カブ? しませんよ」
「そうか。最近自宅を新築したらしいからよ」
「ジタクをシンチク! 良いですねえ。それはそうと、どうやって?」
「うん? うん。俺が今から浦口に電話してやる。良いか、よく聞いてろ」
結城は受話器を取り浦口に電話をする。
「もしもし、浦口理事長(浦口 剛)をお願いします」
女の声が受話器から漏れる。
「どちらさまですか?」
結城はいつもの慇懃な調子で、
「金井事務所の結城で~す」
「あッ! お世話になります。少々お待ち下さい」
浦口が受話器を取る。
「モシモシ、いやいやいや毎度毎度お世話になりま~す。どうしました?」
結城は『いやらしい声』で、
「イヤンもう。二つも決まっちゃいましたよ~。どうします?」
浦口のオカマの様な声が受話器がら漏れる。
「えッ! 本当ですか。ありがとうございま~す。二つなんて信じられナァ~~イ。どうしましょう」
結城が、
「ね~。ウフフ」
つづく




