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縁は円に通ずる

 夜。首都高速を流れる光の川。

ここは赤坂、柳城飯店である。


招待黒板に『昇竜の間 金井博康様 御一行様 六時半』と書いてある。

真っ赤な絨毯通路を結城が足早にエレベーターに向かう。

結城のアトを先生と松永が続く。

結城がエレベターの開閉ボタンを押す。

ドアーが開き、


 「先生!」

 「うん」


先生と松永が先に乗る。

続いて結城が。

結城は五のボタンを押す。

ドアーが閉まり、エレベーターは五階に上がって行く。


 五階。

結城が先に出てエレベーターのドアーのフチを左手で押さえる。

右手で奥の『昇竜の間』を手を広げ、し示す。

先生と松永が楽しそうに話しながらエレベーターから出て来る。

先生は結城の示す方向を見て、


 「うん」


先生と松永は、また話始める。


 「そうだったの。あなたのお爺さんは大谷村に住んで居るの。あれ~? 松永先生は栃木じゃなかった?」

 「はい。でも、父は婿養子ですから」

 「おう、そうか。松永先生は婿さんか。へえー・・・。お母さんは良いのをもらったなねえ。で、お爺さんは健在なの?」

 「はい。今、九六歳で農業をやってます」

 「九六で農業! いや~あ、高齢化してるーえ」


先生は松永との話に夢中になり「昇竜の間」を通り過ぎる。

結城が、


 「あッ! 先生、こちらです」


先生が振り向くと、廊下の予約黒板に『稲葉吾朗様 ほか六名』と書いてある。


 「おお、ここは稲葉様か。ハハハハ、そうかそうか。間違えちゃたなあ」


結城がドアーを開けて、


 「こちらです。どーぞ」


先生は結城を一瞥して、


 「ウン?・・・うん」


結城は急いで奥に行き、上座の椅子を引く。

先生がゆったりと座る。


 「結城くん、もういいから今日は無礼講で行こう。ジャンジャン食べてスタミナを付けなさい。ねえ、松永くん!」


松永は嬉しそうに、


 「ハイ! 頂きます」


先生はテーブルを見回し、


 「? 土屋くんはどうしたの」


結城が、


 「車を駐車場に廻してから来ます」

 「そう。分かるかな、この部屋」


 ドアーをノックする音。

ドアーが開き、ウエイトレスがワゴンに料理を載せて運んでくる。

先生がそれを見て、


 「おお! 来た来た。さあ、食べるぞ」


ウエイトレスがテーブルの上に料理を配膳して行く。


 「これは旨そうだ」


先生はウェイトレスを見て、


 「・・・で、おネーさんはどこの出身?」


ウエイトレスは突然の先生の問い掛けに驚いて、


 「えッ! あ、はい、新潟です」


先生は大声で、


 「新潟ッ?! あ、いやー、懐かしい。僕は学生の時よく山を越えて新潟までゴム紐を売りに行ったんだ。大きな自転車を引いてねえ。それがまた、よく売れるのよ。で、おネーさんは新潟のどこ?」


ウエイトレスは恥ずかしそうに小声で、


 「あ、あの~・・・六日町って云う所です」


先生は驚いて、


 「なに、六日町ッ! いや~、いやいや、これまた懐かしい。湯川の近くだ」

 「はい、あそこの温泉にはよく行きました」

 「そうッ! あそこの温泉はパンツのゴム紐がよく売れるんだ。アンタのお母さんも私の売ったパンツの紐で生活していたかもしれないぞ。ハーハハハ。・・・で隣の群馬には親戚は居ないの?」

 「居ます」


先生は更に驚き、


 「居るッ!そう。どこ?」

 「水神に婆ちゃんが」

 「水神~? そう・・・。で、元気なの?」

 「はい。元気で農業してます」

 「農業を? それは良い」


先生は天井の一点を見詰めながら、


 「ドコもココも、農村はますます高齢化してるねえ。・・・で、おネーさんのお名前は・・・」


先生はウエイトレスの名札を見て、


 「山川由紀。由紀ちゃんか?」

 「はい」

 「で、由紀ちゃんの婆さんの名前も山川さん?」

 「はい」


先生は結城を見て、


 「結城くん。名刺を渡して」

 「え? あ、ハイ!」


結城は由紀に名刺を渡す。

由紀は周りの空気が読めず、照れ臭そうに無造作に名刺をポケットに仕舞い込む。

そして、


 「失礼します。どうぞ、ごゆっくり」


空のワゴンを押しながら急いで部屋を出て行く。


 「結城くん、直ぐに水神にご挨拶!」


結城は先生のその一言に驚いて、


 「えッ! あ・・・ハ、ハイ!」


松永は目の前のエビチリに耐え切れず箸を伸ばす。


 「松永くん! アナタも聞いて下さい」


松永は急いで箸を引っ込め箸置きに置く。


 「ハイ!」

 「いいかな、これで二十票は硬い。エンだよ、五円ゴエン! 土屋くんにも話しをしたんだがね。一日に二十枚は私の名刺を配りなさい。あの蜘蛛の巣のような大きな繋がりも、たったこの一枚の紙切れ(名刺)から始まる。いいね! 松永くん。アナタもですよ。どこに『縁』が落ちてるか分からない。縁は『円』に通じる! あ、結城くん。あの山川由紀ちゃんのバアさんに会ったら由紀ちゃんは元気に料理屋で勤め上げてると言ってあげなさい。それが、私の云う『縁からの愛』なんだ」


結城はカシコまって、


 「はい。勉強に成ります」


先生が、


 「ヨシッ、さあ、食べよう。土屋くんは遅いねえ」

 「そうですねえ。ちょっと確認してみます」


結城は席を立ち、部屋の隅で背広の内ポケットからスマホを取り出す。

小声で、


 「モシモ・・・」

 「はい」

 「おい、何やってんだ。喰っちまうぞ!」

 「あッ、すいません。あのー・・・」

 「あのー、じゃねえよ。オヤジが心配してるぞ」

 「はい、あのー・・・実は車を駐車場でぶつけてしまって」


結城は驚いて、


 「なにッ! で、相手は・・・」

 「相手? 居ません」

 「お前の言ってる事はよく分かんねえよ。5W1Hだ!」

 「すいません。あの、バックしてたら後ろの壁に」

 「カベ? で、車は?」

 「車は異常無いんですけど~・・・壁の方が」

 「壁なんてどうでもいい。早く来い!」

 「でも、壁にヒビが・・・」

 「バカ野郎。違う所に車を突っ込んどけ。分かりはしねえよ! オメーは本当に気が小せえな。そんなんじゃ、またオヤジにどやされるぞ」

 「あ~あ、そうですね。結城さん、頭が良い」

 「オマエがバカなんだよ。早く来い!」


結城がスマホを仕舞い席に戻る。

先生が心配そうに、


 「何か遭ったの?」

 「あ、土屋くんですけれど急に腹痛を起こしたらしくクスリを買いに行って。今こちらに向かってます」

 「そう。彼はオナカが弱いのか~あ。いい、先に始めよう!」


何となく賑やかな食事会である。


 ドアーがそっと開く。

文豪がドアーの向こうから覗く。

松永が文豪に気付き嬉しそうに、


 「あッ! 文豪さーん」


そっと部屋に入って来る文豪。


 「いやーあ、すいません。電車の事故で遅れてしまって」

 「事故? また飛び込んだか?」

 「ええ、高田馬場駅で・・・」

 「変な病気が増えたねえ。みんな政治が悪いんだ。その内、日本も飛び込むぞ。ハハハハ。・・・よしッ! これでみんな揃った。さあ、食べましょう!」


文豪は先生の隣の席に座り、ナフキンを開いて膝の上に乗せる。

するとまたドアーをノックする音が。

政信がドアーを開け、静かに部屋に入って来る。


 「すいません。遅くなりました」

 「おお、来た来た。キミ、大丈夫か? 胃腸が弱いみたいだねえ」

 「は?」


結城が人差し指を鼻先に。

政信はそれを見て、


 「いえ、朝、立ち食い蕎麦を食べてからチョット・・・」 

 「天ぷらか? 油が古かったんだろう」

 「はい。多分」


先生は相変わらずの大声で、


 「そんな安い物を喰っているから腹を壊すんだ。こう云う物を食べなさい。食あたりなんか直ぐ治る」


先生は急に猫なで声で、


 「待ってたんだ。みんな迷惑してるぞ。さあ、アナタも早く座って食べなさい」

 「ハイ!」

                          つづく

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