表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/50

裏口へ

 タクシーのドアーが開く。


運転手が二人を見て、


 「ドーゾー」


結城が先に乗る。


 「おい、早く乗れ!」

 「ハイッ」

 「どちらまで?」

 「ワリーけど、馬場下の方までお願い」

 「早稲田ですね」


夏目坂通りを走るタクシー。

車内で政信が、


 「結城さんは凄い! 多いに勉強に成ります」

 「バカ野郎、こんなの序の口だ。おい、西村は五! 覚えておけ」 

 「えッ? 三十じゃないんですか」

 「こんなモノは、歩留り三割以下が良いとこだ。会長、社長、総務部長と関係支店長で五~六枚ってとこだ」

 「そんなものですか?」

 「そんなモンよ。パーチケットの後捌き(アトサバキ)は、売るんもんじゃねえ。置かせてもらうんだ」 

 「売らないんですか?」

 「買う訳ねえだろ。カラ手形だし」

 「カラ手形?」

 「勉強会パーテーは終わってんだぞ」

 「ああ、そう云う事か」

 「だから、言ったろう。ただの『キッカケ作り』だと。キッカケまで話しを持って行く事。秘書はバカじゃ出来ねえんだ」

 「じゃ、ボクには無理です」

 「うん? 分かれば、バカじゃない」

 「は?」


結城が外の景色を見ながら独り言を言う。


 「・・・裏口か・・・」

 「え? ああ、後援会長の息子さん件ですね」

 「オヤジ(金井代議士)の息子と同じ大学って言ってたな」

 「はい」


結城は運転手に。


 「あッ、運転手さん。その交差点を左に曲がってくれる」

 「はい」

 「おい、事務所に連絡!」

 「あ、そうだ」


政信は背広の内ポケットからスマホを取り出し事務所に電話する。


 「土屋です。お疲れ様です。・・・ハイ。・・・ハイ、分かりました」

 「何か有るか?」

 「本人(代議士)が十五時に事務所に戻って来るそうです」

 「十五時? 」


結城は腕時計を見る。


 「うーん・・・。それだけか?」

 「はい。今の所は」


突然、結城が、


 「おい、裏口に行くぞ」

 「え、ウラグチ?」

 「大学の裏門だ」

 「貸し金業者じゃないんですか?」


結城はいぶった気に政信を見て、


 「あんな所は政連(政治連盟)に一本化してある。一言で門前払いだ」

 「へ~え」

 「でも俺は後で挨拶に行くがな」

 「キッカケ作りに?」

 「勿論よ。顔繋ぎにもなるし。そうやって窓口を広げて行くんだ」

 「なるほど。勉強になります」

 「何が?」

 「いや、結城先輩の一挙手一投足が」

 「おい、褒めてんのか?」

 「もちろんですよ」

 「バカ野郎、もっと勉強しろ!」

 「すいません。僕、営業は初めてですから」

 「裏口はオメーが一人で行って来いよ」

 「えッ! ヒトリ!」


結城は政信を見て、


 「そうだろうよ、営業だ。だいたいオメーが本人(代議士)から渡された仕事だ。当然、オメーが一人でやらねえとダメだ」

 「そんな大それた事、私には無理ですよ」

 「バカ。陳情処理だ。政治家の秘書はそれが仕事だ」

 「でも・・・」

 「デモ? 何だ」

 「でも、何て話し掛けて良いのか分かりません・・・」

 「いいから事務局長にオメーの名刺を渡して来れば良いんだよ」

 「えッ、それだけで良いんですか?・・・でも、どうやって」

 「『お世話になってます』だろう。決まってるじゃねーえか」

 「え~え・・・?」


結城は情けない顔の政信を見て、


 「天気の話でもして渡してくれば良いんだよ」

 「そんなあ~・・・。あ、勉強会の話!」

 「オマエはバカか? 事務局長が勉強会に来るか? だいたいオヤジは文教族じゃねえぞ」

 「じゃ、今話題の『補助金』の方で行きましょうか」

 「おおッ! えてきたな。でも、まだ陳情は来てねえ」

 「じゃあ、どんな?」

 「うん?・・・今年の試験には間に合わねえ。しかし、こんな事は半年前に決まってる。どこの大学だって秘密の『特別枠』がある。この枠をいじくれるのは理事長かその上のヤツだけだ。所詮ショセン、事務局長なんて三下サンシタだ。オヤジとオマエの名前を覚えてもらえば良い。名刺はソラからから撒いた警告チラシみてえなもんよ。その内、頭に一トン爆弾をドカーンと落としてやる」

 「結城さんて本当に凄いですねえ」

 「バカ野郎。政治屋だよ、セ~ジヤ! 政治屋は下から上からジワーと素早く攻める!」

 「凄いッ! 勉強に成ります。で、何と言って近づくんですか?」


結城はいぶった気に政信を見た。


 「オメー、本当に頭が悪りいな。そんなんでよく地元でオヤジの運転手をやってたなあ」

 「僕は後ろで新聞を読みながら、叱咤激励されてました」

 「ナニ?」


運転手が二人の会話を聞いて振り向く。


 「営業は大変ですねえ」


結城が、


 「仕事はみんな大変ですよ」

 「ハハハ。おっしゃる通りです」


タクシーが早稲田通り入る。


 「お客さん、どこまで行きます?」

 「おう! そうだ。え~と、・・・そこの交差点を左に曲がってくれる」

 「はい」

 「それで・・・、その道を真っ直ぐに」

 「はい」


タクシーの正面に大学が見えてくる。

運転手が、


 「大学ですか?」

 「そう」


タクシーが暫く走る。

結城が、


 「運転手さん! ワリーけど裏に回ってくれる」

 「裏口ウラグチですね」


タクシーが大学の裏門に停まる。


 「運転手さん、ここで少し待っててくれる」

 「分かりました」


結城が政信を見てこずく。


 「着いたぞ。俺は車で待ってるから、ゆっくり話して来い」

 「ええッ!」


タクシーのドアーが開く。

政信は不安そうにタクシーを降りる。

結城がタクシーの窓を開けて、


 「上手く(ウマク)やれよ」

 「上手くやれって、どこへ行くんですか?」

 「何? あ~あ、そうか。まだ言ってなかったな。教務課だ。受付でオマエの名刺を出せば、どっかへ連れて行ってくれるよ」


政信は結城を見て不安そうに、


 「え~ッ、何て言うんですか?」


結城は仕方が無くタクシーの外に出て来る。

小声で、


 「バカ野郎! 良いか、こう言うんだ。『大島理事長様には大所高所から大変お世話に成っております。僕も代議士の長男も御校オンコウを卒業させて頂いて、今、代議士の長男は直木賞に引っ掛かっています。今日は稲門会の議員親睦会に代議士の付き添いで御伺いしました。それで、ついでにチョコッとご挨拶に立ち寄らせてもらった次第です。忙しい所、申し訳ありませんが、宜しく御見知りおき下さい』とでも言って来い」


政信は感心して、


 「な~るほど、勉強になります。でも~・・・」

 「デモ? 何だッ! 早くしろ。皆なが見てるじゃねえか」

 「教務課の受付で課長は不在と言われたらどうしましょう?」

 「そんな事、行ってみねえと分からねえだろ。ドアーは叩かねえと開けてはくれないって知らねえのか? いいから、早く行け!」


政信は気合いを入れて、


 「はい! じゃッ、行って来ます」

 「土屋!」


政信が結城の声に振り向いた。


 「頑張れよ」

 「ハイ!」


結城は手でコブシを作り親指を立ててガッツポーズを見せる。

政信も得も言われぬ顔でガッツポーズを送り返す。

政信はカバンを小脇に抱え、裏門から急いで校内に入って行く。


 暫らくして、政信が停車中のタクシーに戻って来る。

タクシーのドアーが開き運転手が、


 「大変ですねえ・・・」


政信はようやく解放されタクシーに乗り込んだ。

結城が政信の表情をじっと見つめて、


 「で、どうだった?」

 「いやあ~、久しぶりに行った教務課だったんで緊張しました。山野美容学校の陳情とは全然違いますね」

 「そりゃー、オメエ~美容学校は正門しかねえからなあ」


運転手がタクシーのエンジンキーを捻り、


 「どうしますか?」

 「あ、永田町に行ってくれる」

 「はい」


タクシーが走りだす。

運転手はルームミラーで後部座席を覗いて、


 「・・・秘書さんですか?」


結城が、


 「セールスマンですよ」


運転手が、


 「?」


結城は窓の外を見ながら、


 「居たか?」

 「はい。応接に通されて、少し待たされましたけど」

 「どうだった?」

 「先生の事はよく知ってました」


結城は政信を見て、


 「ソリャーそうだろう。昔、野党の議員を野次ヤジり過ぎて、出入り禁止に成る寸前だったからな」

 「デイリキンシ? そうだったんですか。それで?」

 「そんな事はどうでも良い。それで?」

 「ああ、・・・息子さんの事も良く知ってました」

 「ムスコを?」

 「文豪さんて在学中はバレー部だったんですってね」


結城はまた外を見ながら、


 「バレーか・・・。アイツ、タッパ(身長)が有るからな。バレーボールには持って来いだ」

 「いや、モダンバレーです」


結城は驚いて、


 「モダンバレー? ・・・ダンスか?」

 「そうです。随分、男女にモテタらしいです」

 「ダンジョに?」

 「モデルもやっていたらしいです。何か事務局長も昔、フアンだったそうです」

 「おい、人違いじゃねえか? 文豪はジェンダーじゃねえぞ」

 「いや、間違い有りません。直木賞の五回落選も知ってました」

 「何! アイツ、五回も落ちてるのか。こればっかりはオヤジの力じゃどうする事も出来ねえしな。・・・まあ良い。今回はオマエの名前を覚えてもらえば上出来だ。アトは下(天下り)った大島を突っつけば何とか成る・・・」

                          つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ