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ご挨拶話法 其の2

 結城と政信が西村建設(大手ゼネコン)のビルの玄関から出て来る。


 「いやー、上手ウマいですねえ~」

 「何が」

 「話の展開ですよ」

 「バカ野朗。この位の話が出来なかったら大臣秘書は務まらねーよ。褒めて透かして揺する。いいか、呼ばれてねえのに押しかけて行くんだ。相手は俺達の名刺を見たら直ぐに『タカリ』と見抜く。その時点で何枚買うか名刺の肩書きで配分は決まるんだ。だから、財務や経産、建設の肩書きが必要なんだよ。あのオヤジが法務なんかに着いていたら屁の突っ張りにもなりゃしねえ。だから、アレ(先生)が売れ売れ、『俺の顔を売って来い!』ってうるせえんだ。おい! 早くタクシーを停めろ!」

 「あ、ハイ」


 タクシーから降りて新宿の「とあるビル」に二人は入る。

エレベーターが停まっている。

結城が


 「三階!」

 「ハイ!」


政信が急いで三のボタンを押す。

エレベーターは三階で止まりドアーが開く。

降りたフロアーの前方ガラスドアーに『全日本遊技事業協同組合中央会』のシールが貼ってある。

結城がぐずぐずしている政信に、


 「おい、早くしろ!」

 「ハイ!」

 「ここだ」

 「ゼンニホンユウギジギヨウクミアイ?」

 「パチンコとスロットの組合だ」


結城がドアーをそっと開ける。

受付のカウンターに置かれたベルを鳴す。


 「チ~ン。失礼しま~~す」


奥から事務服を着た暇そうな中年女が出て来る。


 「は~い」


女は二人を胡散臭そうに見て、


 「どちら様ですか?」


結城はカシコまって、名刺を一枚、女に渡す。

女は名刺を見て慣れた口調で、


 「あ~あ。ちょっとお待ち下さい」


衝立ツイタテの後ろに入って行く女。


衝立の奥の席では老人が新聞を見ている。

女は老人に名刺を渡す。

老人は眼鏡をハズして名刺を見る。

机の引き出しから名刺を一枚取り出し、女にわたす。

女が受付に戻り、


 「どーぞ」


結城は恐縮して、


 「すんませ~ん。突然でー」


結城と政信は女の後に付いて奥の応接室らしき一角に向かう。

女はドアーを開けて、


 「こちらでお待ち下さい。いま来ますから」


二人はソファーに座る。

暫くして頭を掻きながら身なりを整えた老紳士がドアーをノックし応接室に入ってくる。

二人はソファーから立ち上がる。

結城が慇懃インギンに、


 「あ、イヤ~、イヤイヤイヤすいません。忙しいところ」


老紳士は何も言わずソファーに座り、ポケットから両切りのピース(タバコ)を取り出し口元へ。

政信は立ちながら、ここぞとばかりに例の『ディポンのライター』で火のサービスをする。

老紳士は政信をジロッと見て一服する。

そして、おもむろに一言、


 「座ンなさいよ」


結城が、


 「あッ! すいません。失礼します」


二人はソファーに座る。

老紳士は二人を見て一言。


 「・・・イソガシくないよ」


胡散臭そうな目で二人を見て名刺を渡す。

二人は、また立って受け取ろうとするが、


 「立たなくて良いよ。埃が立っ」

 「あッ、すいません。じゃッ」


丁寧に頭を下げて座りながら両手で熱く名刺を受け取る。

二人は声を揃えて、


 「お世話ん成りま~す」


受け取った名刺には「専務理事 林 道夫」と書いてある。

二人は名刺を一枚ずつ林に渡そうとするが、結城の差し出した名刺を見て、


 「いらない。さっき貰った」

 「アッ、イヤ~、これまた失礼をば」


林は政信の名刺をサラッと見て背広のポケットに仕舞い込む。

政信はぎこちなく、


 「あッ、土屋政人と申します」

 「分かってる。名刺を見た」

 「すいません。いつも、世話に成ります」


林は嫌味イヤミっぽく、


 「お世話した事ある?」


結城はその場を取り繕う様に笑う。


 「イヤイヤイヤ、ハハハハ」


林は灰皿の上のタバコを摘まみ深々と一服吸い、


 「パー券だろう?」


結城がイヤらしく、


 「イヤンもう、林専務サン話が早い。でも今年からパー券と云う名前じゃ売れないんです。チケット! チケットに成ったんです」

 「同じじゃないか。で、何の用だ」

 「実は林専務サンを勉強会にお誘いに来ました」

 「勉強会?」

 「財政健全化促進の勉強会です」

 「関係ない!」


結城が慇懃に、


 「そう言わないで、一枚位付き合って下さいよ~お」


林が、


 「ウチ等の商売とは関係ない!」

 「ソレが大いに関係が有るんです。アイアールッ!」


林はアイアールと聞き再度、土屋の名刺をポケットから取り出し確認する。


 「・・・金井は財務か」


結城が、


 「そうッ! その勉強会でアイアールの話が出て来るんですよ」

 「・・・一枚しか付き合えない」

 「そんな~あ。日本中の田舎で、パチンコ屋のCMが凄いじゃないですか。モウかって儲かって大変だー。ハハハハ」

 「最近はダメだ。出玉が規制された」


タバコを灰皿に擦り付けて二人を見る林。

女が『お茶』を三つ、盆に載せて持って来る。

結城は女を見て慇懃に、


 「イヤ~、お手数かけまーす」


そう言って置かれた茶を一口啜る。


 「じゃ、失礼して本題に・・・」


そして、おもむろに話し出す。


 「実はその骨子と謂うのは・・・『税務監査の見直しとその強化』。万博の跡地にアイアールの建設がいよいよ始まります。それによる若干の法の補足と見直しをしようと。こんな趣旨の『大それた勉強会』なんですわ。金井は財務の副大臣をやらせてもらっています。法案の見直し検討をこれを叩き台にして進めて行こう。こう云う事を考えておるんでしょう。たぶん・・・」


結城はまたお茶を一口。


 「・・・なにしろ、国の財政が破綻寸前! 取れる所からギューと搾り取らないと」


林は結城達に眼を合わせない。


 「・・・」

 「それで、勉強会の参考資料をチラッと覗いたんです。そしたら資料の冒頭に『パチンコ業界の現況』が細かく書いて有りましてね・・・」


林のタバコの吸い方が若干早くなる。


 「一枚いくらだ」


結城は優しく微笑んでビクトリーサインを。

政信はカバンのチャックに手が掛かる。

結城は政信の靴を軽く踏む。

政信は結城の顔をチラッと見て手を止める。


 「そう言えば・・・、ある所から洩れ伝わって来たんですけど、北朝鮮と云う国に一大レジャーランドが建設されてますね。そこに古いパチンコ台やスロット台が流出しているって、まさかあれはウワサでしょうね~え。ヒヨッとして『衛星ロケット』のスロットだったりして・・・」


林が激しく貧乏揺すりを始める。

結城は政信の靴の上に載せた靴をどける。

政信はカバンから券を十枚出して、テーブルの上に置く。

林は驚いて若干の韓国訛りの日本語で、


 「ナニッ、こんなに? 多いよー! オレ達はアンタの国にいっぱい税金を払ってるんだ。あんまり搾りとるんじゃないよ~」


結城が、


 「林専務さん、この券をよ~くご覧下さい。マルが一つ少ない。一枚二千円ですよ。十枚で二万だ。その位は・・・」


林の口調が激しくなる。


 「金、カネ、カネって、お前等、政治家はみんな乞食かッ!」


結城は人を食た様な顔で、


 「いえ~、林専務さんの業界と同じで回してるだけですよ~お」


結城は腕時計をチラッと見て、


 「おッ、もうこんな時間だ。土屋くん、大臣が戻って来る。戻らなくては」

 「ハイ!」


結城が手帳を懐に仕舞いながら、


 「その関係の締切は毎月五日です。お手数でしょうからこの土屋に集金にお伺いさせましょう」


林が声を荒げて、


 「いいッ! もう来るな。五枚しか付き合えないからなッ!」


 結城と政信が古ぼけたビルから走って出て来る。


 「おい、タクシー捕まえろ!」

 「ハイ!」

                          つづく

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