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ご挨拶話法 其の1

 ソファーに座って担当を待つ二人。

結城は政信を見て囁く様に、


 「土屋、こう云う所に通されたら先ずテーブルの下をサグる事」

 「え?」

 「隠しマイクが仕掛けて有るからな」


驚いて、


 「えッ、そうなんですか?」


政信はテーブルの下を確認する。


 「・・・」

 「どうだ」

 「無いッす」

 「俺達のしてる事は全て未必の話だ。盗聴されて流されたら、本人の政界に於けれる立場に大変な傷が付く」

 「あ~あ、なるほど」


 暫くして応接室の奥のドアーが開き、ゴルフ焼けしたメガネの小柄な男が出て来る。

結城と政信が起立する。

男は二人を見て、


 「いや~、お待たせしてすいません」


結城はわざとらしく身体を固め席を立つ。


 「すいませんッ! アポも取らずにお邪魔しました」

 「ハハハハ。あいにく本日は室長が外出ておりまして・・・」


男は背広の内ポケットから名刺入れを取り出し、一枚を結城に渡す。


 「空閑(空閑静生・西村建設 秘書室次長)と申します」


結城は空閑クガの名刺を両手で熱く受け取る。

名刺を見て、


 「イヤ~、良いお名前だ。気品がある。このお名前は元平家の・・・」

 「ええ? ハハハ、そうかも知れませんねえ。北九州には多いですよ」

 「ほお〜、そうですか・・・。クガさんね~・・・」


結城も自分の名刺入れから一枚取り出し、


 「始めまして金井博康事務所の結城です」


結城の姿勢はまだ固まって居る。

政信も名刺入れから一枚取り出し、


 「あッ、土屋と申します。いつもお世話になります」


空閑は政信にも名刺入れから一枚取り出す。

政信も恐縮しながら身を小さく固め、両手で名刺を熱く受け取る。

空閑は政信の名刺をジッと見詰め、右手を広げソファーに誘う。


 「どうぞ・・・」


結城が、


 「あッ、恐縮です」


結城と政信が並んで座る。

上座のソファーに空閑が座るとドアーをノックする音が。


 「コンコン」


先程、応接室に案内して来た上席担当の女性秘書がコーヒーをカートに載せて入って来る。


 「失礼します」


コーヒーを静かにテーブルに並べてニッコリと笑う『超美人秘書』。

政信は超美人秘書を見つめて目が点に成っている。

結城は芳しい香りの秘書を見て、


 「オホホホー、イヤ~、すいませーん」

 「どうぞ、ごゆっくり・・・」


秘書は軽く会釈して応接室を出て行く。

政信は秘書の後姿に見惚れていると結城が脚をこずく。


 「あッ!・・・」


空閑が二人を見てコーヒーを勧める。


 「どうぞ」


空閑はコーヒーにシュガーとミルクを入れ、ゆっくりとスプーンでかき回す。

メガネの縁から怪しげな目で二人を覗く空閑。

そして事前に秘書室で便覧(国会便覧)を見て調べたのか、


 「金井先生は・・・。今、財務の副大臣で?・・・」


結城が、


 「ハイッ! 党の建設部会の方でも頑張らせてもらってます」


空閑は納得したように、


 「あ~あ、建設部会ね。そう云う事でしたか。それはそれは忙しくて」

 「イヤ~、貧乏暇無し。毎日走り回ってないと、痛い目に合いますから」


空閑は儀礼的な会話で、


 「・・・中国ねえ。鷹市さんどうなるのでしょう?」


結城はブラックでコーヒーを啜りながら急に真顔になり空閑を睨む。


 「・・・」


空閑が、


 「ほう。やっぱりかぁ・・・」


結城は空閑がコーヒーカップを置いた途端、


 「あッ、そうだ!」

 「は?」

 「いや、先週ですねえ、既存建設物耐震強度再審査委員会と云う少委員会が有りましてね。本人の持ち帰った書類をチラッと覗かして頂いたら大中のゼネコンさんのお名前がズラーと。そこにまた御社のお名前の上に丸が。さりげなく私が本人に『また』ですか? と尋ねると本人もだいぶ気にしていましてね。確か前回の東名厚木富士工区もJVで取りましたよね」


空閑の顔色が変わり唾を飲む。

結城は畳み掛ける様に、


 「いや~、西村さん! 最近、御社のお名前が目立つ事、メダツコト。また『談合坂の喫茶店』で五者会談でもしながら、旨いコーヒーを啜っているのかと。ハハハハ」


と笑いながら鋭い目で空閑を睨む結城。

空閑は結城の目を気にして、


 「そう言えば先生のパーティーはいつでしたっけ?」

 「パーチーは御法度ッ! 今は『勉強会』です。先週、密かにやらせてもらいました。盛 サンや石田サンも来賓でいらしてくれましてね。アレ? 御社の方にはご案内が?」

 「えッ? あ、はあ。残念ながら・・・」


結城は政信を見て、


 「土屋くん、ダメじゃないの~・・・西村さんはとても熱心な盛サンの支援者なんだよ」

 「アッ、すいません。ウッカリしてました」

 「ウッカリ~?・・・。ウチダさんとJVを組んだ、BKテックさんにはお誘いしたんでしょうね」

 「え? あ、ハイッ。野上がお邪魔した筈です」

 「野上くんが?」


ウチダと聞いて空閑は、コーヒーを一気に飲み干す。


 「先生は一枚幾らでしたっけ?」


結城は優しく空閑に笑いかけ、指で『ビクトリー』のサインを示す。


 「二万ですか・・・」

 「いえ、今はゼロが一つ少ないのです」


結城は大笑いをしながら、


 「二千円で。お恥ずかしい~ッ!」

 「で、BKテックさんは何枚?」

 「土屋くん、野上君から聞いてる?」

 「え? あッ、はい。確か・・・」


政信は背広の内ポケットから黒いビニールの手帳を取り出して開く。

そしてわざとらしく空閑に見える様に、三本の指を立てる。

空閑は安堵した様に、


 「あ~あ・・・三枚ですか」


とコーヒーカップを取り一口啜る。

政信が、


 「いえ、三十と書いてあります」


思わずムセてしまう空閑。


 「ゴホッ、ゴホッ。三十枚?」


結城は空閑を諭す様に、


 「あ、これはあくまでも御依頼ですから・・・」


カップをテーブルに置き、宙を睨みため息を吐く。

結城が、


 「空閑さん。金井は西村さんの味方です。これからも大いに御社の為に頑張らせてもらいます。まだまだこれから永~いお付き合いをさせてもらわないと。おう、そうだ! 土屋くん、『アレ』を」

 「はい!」


政信はカバンのファスナーを開け、終わった勉強会の『チケットの束(三十枚)』を取り出しテーブルの上に丁寧に置く。

空閑はその束を見て驚き、


 「えッ! こ、こんなに? ・・・」

 「何を言って~、下請けさんとか役員さんとか、みんな連れ添って賑やかにお越し下さいな~。ハハハ」

 「でも、勉強会はもう終わって・・・」

 「大丈夫ッ! 三ヶ月にいっぺんが『定例』ですから。博康会に入会の法人サンには定期的に送らせてもらってます。御社はまだ未入会の様で。早速、空閑様宛てに入会のご案内を一通、お送りさせて頂きます。この三十枚はその時迄、大切に保管しといて下さい」


空閑の得も言われぬ顔。

結城は畳み込む様に、


 「あ、それからチケットの入金絞め切りは毎月、月末です。あッ、そうだ! 情報交換等で集金でも構いません。その時は土屋をお伺いさせます。一つ宜しくお取り計らいを」


何か言いたそうな空閑。

結城は腕時計を見て、


 「おッ、もうこんな時間だ。大臣が戻って来る! 土屋くん、オイトマしよう。空閑次長さんも忙しそうだし」


結城と政信が席を立つ。

結城は座ったままの空閑の右手を取り、両手で熱く包む。


 「空閑さんッ! 安心して下さい。金井が付いております。どんどん仕事をお取り下さい。能登半島震災後の整備再開発、神宮外苑周辺の道路整備、福島第一周辺の土地改良、横田のヘリコプター基地拡張工事と弾薬庫の新設! 佐賀の自衛隊航空基地増設と離島の防衛開発ッ! 大阪万博跡地に続くアイアール施設の建設。これから忙しく成りますよ~。西村社長さんや長谷川会長さんにも宜しくお伝え下さい。それじゃ是非是非、次の勉強会ッ! お待ちしております」


結城は席を立ってドアーまで来ると、ふと、振り向いて、


 「あッ! お近くを通ったら是非、お寄り下さい。ゴルフの話でもゆっくりと。お、そうだ。今度、ご一緒しましょうか。ハハハハ、じゃ、貴重な時間を拝借しまして有り難う御座いました」


結城と政信は足早に社長応接室を後にする。

                          つづく

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