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陳情処理

 厚労省医政局である。

冨田さんは痩せて胃の弱そうな係長だった。

起立して政信と名刺交換する冨田さん。

冨田さんの手は若干、震えていた。

名刺を見て、


 「土屋さんは・・・初めてですね」

 「ハイ。お世話になります」

 「・・・応接に行きましょうか」


奥の小部屋に案内する冨田さん。


 二人はテーブルを隔てて対峙した。

冨田さんが政信を見て、


 「よく秘書さんが変わりますね。青木さんは?」

 「あ、青木さんは地元事務所に移動になりました」

 「移動に?・・・そんなに金井先生は厳しいんですか?」

 「え? あ、いや」


冨田さんは肩を揉みながら、


 「・・・土屋さんはゴルフはやらないんですか」

 「ゴルフ? いや、あまり・・・やります。大好きです」


政信は奇妙な答え方をしてしまった。


 「今度、結城さんを交えて行きましょうか」

 「是非ッ!」

 「で、・・・後援会長ですって?」

 「はい」

 「五十番目位ですね」

 「ご、五十番!? そんな先ですか?」

 「・・・危ないんですか?」

 「余命半年位らしいです」

 「半年? 困ったなあ~。・・・ちょっと待ってくれますか?夕方、土屋さんに電話しますよ」


 政信は会館事務所に戻って来た。

松永が、


 「お帰りなさい」


応接室のドアーが閉まっている。


 「あれ? 本人(金井代議士)、戻ってるんですか」

 「はい」

 「 誰が来てるんです?」

 「川場村の村長です」

 「う~ん・・・」


応接室のドアーが開き結城が出て来る。

その後に村長と助役、課長が続く。

そして先生が続く。

村長は振り向いて先生に、


 「じゃ、よろしくお願いします」

 「分かった。あの件は私も気にはしていたんだ。任せなさい。ハハハ」


結城は急いで事務所のドアーを開け一言、


 「お世話になります!」


村長達が事務所を出て行く。

先生は立っている政信を見て、


 「何だ、居たのか」

 「ハイ! お疲れ様です」

 「お疲れ? 疲れてなんかない! バカ者。ちょっと来い!」

 「ハイ!」


結城と私が応接室に入って行く。

政信はドアーを静かに閉めた。

先生が上座のソファーにドップリと座る。


 「で、例の件はどう成った」


結城が、


 「ハイ! 医政局の冨田さんに・・・」

 「君に聞いているのじゃない。土屋くんだッ!」

 「ハイッ、医政局の冨田係長に」

 「そんな事どうでも良い。結論ッ!」

 「ハイ! 五十番目です」

 「五十番目? バカ者ッ! それを何とかするのが秘書の仕事だ。陳情処理と云うものだッ! もっと相手の身に成って考えろ。この金井の所に駆け込んで来たんだぞ」

 「ハイ。勉強になります!」


先生がボソッと一言。


 「・・・順天堂の松本が良い」

 「えッ! 先生、松本先生をご存じで」


先生が鼻クソをホジリながら政信を見て、


 「伊藤サン(代議士)から聞いた。松本は私の医大の後輩だ。私の名刺を持って家に行って来い」

 「ハイ!」


先生はテーブルの上の名刺箱の蓋を開け、名刺を一枚取り出すと、裏に一筆したためる。

政信に渡し、


 「コレを持って直ぐに行って来い。住所は・・・」


背広の内ポケットから議員手帳を取り出し数枚捲る。

机上のメモ用紙に走り書きをする。


 「・・・確か、まだここに居るはずだ」

 「ハイ!」


先生はソファーを立って応接室を出て行く。

結城と政信、松永が急いで先生を見送る。


 「行ってらっしゃいませ~」

 「あれ? 車は」

 「党本部だから歩いて行ったんでしょう」


松永の事務机の電話が鳴る。

松永が受話器を取ると冨田からである。


 「医政局の冨田です」

 「あ、お世話になります。今、結城に代わります」

 「いや、土屋さん居りますか?」

 「あ、土屋ですか? 居ります。少しお待ち下さい」


松永が応接室で寛ぐ結城と政信を見て、


 「土屋さん、 冨田さんから二番です」

 「えッ! 冨田さん?」


松永が電話を応接に切り替える。

政信が受話器を取り、


 「イヤ~、先程は突然ですいませんでした」


冨田が、


 「松本先生は今アメリカに行ってます。戻って来るのは週明けみたいです」

 「週明け? ・・・四日後か」

 「大丈夫ですか? 逝っちゃうとか・・・」

 「いや、まだそこまでは・・・。分かりました。有難う御座います。あ、ゴルフの件、結城に聞いたたら是非にと。楽しみにしています」

 「そうですか。じゃ、また・・・」


冨田のそっけない返事。

電話が切れる。


 四日後の午後。

松本邸の応接室である。

政信と松本(松本庸動・順天堂循環器部長)がテーブルを隔てて話しをしいる。

テーブルの上には政信の名刺が。

松本は猫を抱きながら、


 「そうですか。金井くん、財務副大臣に・・・。やはりお金に興味が有るんですねえ」

 「いや、それ程でもないみたいです。本人の座右の銘が『愛と灯』ですから」

 「愛と灯? ハハハ、金井くんらしいや。昔から彼は直情派のロマンティストだったからなあ」


松本はテーブルの紅茶を一杯飲み、


 「じゃッ、その方のカルテとMRIを医局の私宛に廻してくれますか。それを見て判断しましょう」

 「えッ! やって頂けるんですか?」

 「死んでしまったら、もともこもないじゃないですか。私の座右の銘は『人助け』ですから」

私は感動してソファーを立ち、松本さんと熱い握手を交わす。

 「お世話になりま~す」


 金井事務所の応接室である。

結城が立ってコーヒーを飲みながら、向かいの第二議員会館の五木田事務所を見ている。

政信は事務所に戻って来る。

松永が、


 「あ、お疲れ様です」

 「いや~、歩道で僕の肩にカラスが糞をかけて行っていきやがって・・・」

 「あら、ホント。ウンが向いて来たんですよ。今、拭き取りますからちょっと動かないで」

 「あ、すいません」


松永はティシュを水道で濡らし肩の糞を拭き取る。


 「・・・ここまでしか取れませんねえ」

 「あ、有り難うございます。後はクリーニングに出しますから」

 「ツッチーは彼女、居ないんですか?」

 「彼女? いや~、そんな言葉久しぶりに聞きました」

 「忙しいですものねえ」


応接室から結城の声が、


 「おい! 何をしている。早く来い!」

 「あ、ハイッ!」


政信が応接室に入り、静かにドアーを閉める。

結城は立って、コーヒーカップを持ちながら、


 「どうだった」

 「バッチリです」

 「バッチリ?・・・」


疑いの目で政信を見る結城。


 「至急、カルテとMRIを廻してくれと」

 「カルテとMRIを廻せ? ・・・ヨシッ! デカした。背広買ってやる!」

 「本当ですか?」


結城は第二議員会館の五木田事務所を睨んで独り言。


 「・・・これで五百、いや千は堅いな。金井の株は上がるぞ~お」

 「秘書の仕事って面白いですね」

 「うん? 何か言ったか」

 「いや」

 「ああ、この仕事の事か? ヨロズ屋だ。オヤジがよく言ってるだろう。魚を待ってる人が居たら魚を売りに行く。ゴム紐が無ければゴム紐を売りに行く。死にそうな人が居たら親身に成って話しを聞いてやる。愛と灯が無ければ金も票も集まらない。俺達はただのメ・カ・ケだ! そんな光輝く菊のバッチを裏で支えるカバン持ちだ」


結城はカップのコーヒーを一口、口にする。

政信は、


 「なんかどっかで聞いた様なセリフですね」

 「うん?」


結城が政信を睨んだ。


 「あッ、いや、格好良いっすね」

                          つづく

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