洗脳が終わった日
お昼。
先生と政信は午前中の「政治日程?」を終えて事務所に着いた。
博子が応接室のソファーに座り、週刊誌を広げて仕出弁当を食べている。
先生が軽快に事務所ビルの階段を上がって行く。
政信は汗を拭きながら先生の後を追う。
先生は自分でドアノブを回し応接室のドアーを開けた。
政信は追いつき、
「あッ、すいません」
先生が、
「ナニが?」
「いえ、ドアー」
「ドアー?」
先生は首を傾げ怪訝な顔で政信を見る。
博子が先生を見て、
「おかえんなさい」
先生は博子の弁当を見て、
「おッ! 焼き肉弁当か。旨そうだな~あ」
「パパのも有るわよ」
政信は疲れ果てて先生の後ろで呆然と立っている。
先生は生気のない政信を見て、
「? どうした。腹は減ってないのか」
「ハイ! 減りました」
「なら早くメシを喰いなさい」
「ハイ! 頂きます」
政信はロボットの様に身体を右に廻し、隣の事務所に入って行く。
事務所ではヨネと敏子が「打ち合わせ机」に座って仕出し弁当を食べている。
机の上にはヨネの自家製の沢庵が。
敏子は事務所に戻って来た政信に気付き、
「あら、お疲れ様。無事だったようね」
政信は直立不動で、
「ハイ! 勉強になります」
ヨネが政信の態度を見て、
「だいぶ、秘書らしく成ったじゃない。後は病気に成らない事だね」
敏子が席を立って、アルミの急須にポットから湯を入れる。
政信を見て、
「早くお昼食べなさい」
「はい! 頂きます」
政信は空いた席に座る。
敏子は急須のお茶を湯呑みに注ぎ、弁当とお茶を政信の前に持って来た。
「焼き肉で良い?」
「何でも構いません!」
机の上に弁当とお茶を置いた。
「あッ、すいません」
政信は弁当の蓋を開けて、むさぼり喰う。
「・・・うるさいでしょう、先生」
「いえ、勉強に成ります」
ヨネが、
「タクワンも食べな」
「ハイ。頂きます」
敏子が、
「・・・ベンキヨウ? 勉強なんかに成るの? 森さんは気が狂いそうだって言ってたわよ」
政信は箸を止めて敏子を凝視、
「えッ! 森さんて方、明大のアメフト部の副キャプテンだったそうですよ」
「そんなの関係無いわ。森さんの前の人なんか日大の相撲部だったんだから」
ヨネが、
「三週間だっけ? あの人・・・。博康と一緒に動いて胃潰瘍で入院したんだよ。痩せちゃって血を吐いてね。可哀想にね~え」
政信は二人の話など上の空で弁当を貪っている。と、敏子が、
「アンタ、点数は沢山残ってるわよね」
政信は飯を頬張りながら。
「テンスウ?」
「免許の点数よ・・・」
「あ~あ、ゴールドです」
「森さんはそこの警察署によく通ってたわよ」
急に政信は飯を喉に詰まらせる。
「ゲホッ、ゲホッ」
咽せる政信を見てヨネが、
「大丈夫? お茶を飲みなさいよ~」
政信は例によって熱いお茶を一気飲みした。
「アッチェーッ!」
それを見てヨネが、
「アンタ、本当にだいじょぶ?」
「ハイ、勉強になります」
敏子が政信の湯呑みに茶を注ぐ。
ヨネさんは呆れた顔で政信を見て話しを続ける。
「・・・でもね、どうせ罰金はウチが持つんだから。それに道子は安全協会の副会長だし」
政信は箸が止まり、二人の顔を凝視した。
すると博子が事務所のドアーを開けて中を覗く。
「あの~、パパがツッチーの事、呼んでますよ」
政信は起立して大声で、
「ハイッ! 今、行きます」
政信はまた熱いお茶を一気に飲み干す。
「アッツィ~ッ! 何でこんなにアッツイーんだ」
呆れた顔で政信を見る敏子とヨネ。
すると、ズボンのポケットのスマホが鳴る。
政信は急いでスマホを取り出す。
「ハイ! 土屋です」
結城だ。
「何やってんだ~~~」
「あッ、お疲れさまです」
「疲れてないよ~お」
結城のバカにした声。
「え? あッ、今、本人に呼ばれてます。すいません。また後で」
「ほほ~、やってるね。逃げんなよ。ハハハハ。それから夜の婦人部の会合、オメーも何か『芸』を見せろ。ジャ~ナー」
結城の電話が切れる。
「えッ! あ、モシモ・・・」
政信はスマホを片手に、急いで事務所のドアーを開ける。
ヨネが政信の背中に、
「頑張ってよ、アンタしか居ないんだから」
開けたドアーの前に地元の第一秘書 『大川正義』が立っている。
大川は「元上毛新聞政治担当記者」である。
「おお、アンタがツッチーか。ちょっと」
「あッ、すいません。今、先生に」
「運転か? うちのエースだから頑張ってもらわないとな。あッ、アンタ、点数、残ってるよな」
「ハイ。ゴールドです」
政信は大川の言葉を無視して応接室のドアーを開けた。
大川は政信の背中に一言、
「おい! 耳栓買っとけよ」
つづく




