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『脇が甘い』と謂う事

 次のご挨拶。『JA青年部の会合』に向かう車中である。


先生はJAの作業服に着替え、ネクタイを直しながら、


 「君は脇が甘いねえ・・・」

 「ハ?」

 「映画か何かの見過ぎじゃないの?」

 「はあ」

 「先が読めんのかね」

 「はあ・・・」

 「いちいち私の指図サシズを受けるなと言ってるんだ。自分で考えなさい」

 「はい。・・・あの~」

 「何だ」

 「先生のおっしゃってる言葉の意味が分かりません」

 「要領が悪いと言ってるんだ。バカ者が」

 「え? あッ、ハイ! すいません」

 「で、次の会場で私は何を喋れば良いの?」

 「は? いや、それは~・・・」

 「ソレは何だ!」

 「はい! それは、JAの青年部会ですから・・・」

 「ですから?」

 「希望の持てるような・・・補助金なんか」

 「補助金? 何の」

 「・・・分かりません」

 「バカッ! 君はそれで私の秘書を務めると云うか!」

 「あッ、ハイ! すいません」

 「今、世間で一番問題に成ってるのは何だ!」

 「え?・・・JA・・・あッ、米だッ!」

 「そうッ! そこに農家に対しての補助金を絡める! 俺は今、財務だ。そう云う所に目を付けてこそ、魚(票)は売れるんだ」

 「あ~あ、なるほど」

 「ナルホド?」

 「あ、いや、勉強に成ります」


政信は落ち着いて運転出来ない。

すると先生が。


 「そこの路地を右に曲がりなさい。近道だ」

 「はい」


政信はハンドルを右に切り路地へと入った。

そこは侵入禁止(一方通行)であった。

政信は緊張した声で、


 「先生、一通です・・・」

 「大丈夫だ。行け」


強気な先生の一言。

政信が、


 「エッ! いや、違反・・・」

 「イハン? 君は度胸が無いねえ」

 「いや、そんな・・・」

 「バカ者ッ! また私に運転させたいのか」

 「あ、ハイッ! すいません」


目の前に目的地の勤労会館が見えて来る。


 「あ、本当だ。随分、近いですねえ」

 「近いですねえ? 誰に向かってモノを言ってるんだ! バカ者が」


 先生がJAの『ご挨拶』が終わって会館から出て来る。

政信は急いで車を玄関に着け、後部ドアーを開ける。

先生が座席に飛び込む。


 「早くしろ!」

 「ハイ!」


先生は車内で、次の予定(梶原淳子夫妻の結婚披露パーティー)の礼服に着替えながら一言。


 「君はあそこで、お茶を飲む必要はないんだからね」

 「エ? あ、はい。申し訳ありません」

 「君が大臣じゃないんだから・・・」

 「すいません」

 「それから、あそこで名刺交換してたでしょう」

 「は?」

 「アレは共産党の秘書だぞ」

 「えッ! そうだったんですか?」

 「何だ、その答え方はッ!」

 「あッ、失礼しました!」

 「・・・もっとスピードが出ないの? 間に合わないぞ」

 「ハイッ!」


 梶原淳子夫妻の結婚披露パーティーも何とかこなし、関越道を超快調に飛ばす漆黒の公用車。

午前中の予定が終わり、事務所に戻る途中である。


先生は新聞を顔に載せて眠っている。


突然、道路正面、頭上の速度探知器オービスが光る。


 「あ、光ったッ!」


政信はスピードを落とした。

先生が顔にのせた新聞をずらし片眼を開ける。


 「どうした?」

 「光りました」

 「ほ~らね。だから君は『脇が甘い』と言ってるんだ」

                          つづく

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