第98話 素のわたしと神聖な幻想
恋愛的な意味においては、何一つ解決も進展もしていないのだけれど。
わたしの心は、小康状態を保っていた。
一晩寝て起きて、我に返った後。
でも――――と、また思い直したのだ。
確かに。
入れ物も依り代も、意味合い的には同じだ。
でも、言葉の持つイメージは格段に違う。
どっちも、鍵を宿す容器って意味では同じだ。
でも、入れ物は、あからさまに道具って感じだけど。
依り代は、なんて言うか、こう…………神聖な感じがする。
それって、つまり。
レイジンは、わたしのことを聖なる乙女みたいに思ってるってことじゃない?
そう思うと、心はまた、浮き立ってくる。
まあ、別に。
わたしは、レイジンに神聖視されたいわけじゃなくて、お付き合いしたい女の子として意識してほしいわけではあるんだけれど。
それでも、使い捨ての容器から恋のお相手にランクアップするよりは、聖なる乙女からランクダウン……あるいはチェンジする方が、ワンチャンあると思うんだよね。
そう!
神聖なる乙女の弱いところや、自分だけに見せてくれるダメなところにグラッときて、騎士としてだけじゃなく、一人の男として、俺が一生守らなくてはと思うようになっちゃったとか、王道だよねっ?
王道♡♡♡♡
つまり、これから!
レイジンだけに、わたしの弱いところやダメなところを……………………って、ダメじゃん!
何言ってるの、わたし?
弱いところも残念なところも、もうすでにみんなに見せまくってるじゃん!
神聖なる乙女の虚像こそが、レイジンの思い込み幻想なんであって!
弱くてダメな普通の女の子って、それ、素のわたしじゃん!
素のわたしを見せまくってるのに、レイジンが「ステラはチキュウのラピチュリン」とか言ってるってことは、それはつまり。
レイジンは、幻想のわたしを神聖視してるってことだよね?
たぶんだけど。
お地蔵様ショックで、わたしとお地蔵様を重ね合わせて、神聖なる幻に惑わされちゃってるんじゃない?
…………え? 待って?
そこで、平凡の極みである弱くて残念なところの方が多めの素のわたしを見せつけたら、萌えポイントになるどころか、ただ普通にがっかり幻滅されるだけなのでは…………?
ま、まずい!
それ、まっずい!
今頃気づいた衝撃の真実!
浮ついてる場合じゃなかった!
むしろ、ピンチ! 星灯愛大ピンチ!
え? これ、わたし、どういたらいいの?
素のわたしを好きになってほしいのに、素を晒したら幻滅されかねないって、恋の難易度ベリーハードすぎない? もはや、ナイトメアクラスじゃない?
恋の初心者には荷が重いんですけど?
誰かに相談しようにも、一体誰に?
なんか、身の回りにいる年ごろの女の子たちってば。
モテてそうな女子はいるけど、恋愛経験自体はあんまり豊富じゃなさそうな?
いや、誰とは言わないけど。
おまけに、あれだよ。
なんて言って、相談するのさ?
『レイジンがわたしのこと神聖視しているみたいなんだけど、幻滅されずに素を晒して、むしろ好感度をアップさせるにはどうしたらいいですかね……?』
――――――――って? いや、言えるか、そんなこと!
前半が自意識過剰すぎでしょ!?
そして、後半は無茶ぶりが過ぎる!
自分で言うのも悲しいけど、ほんっと難易度が高いよねっ!
くっ。
とりあえず。
とりあえず、現状維持。
それしか、ない。
嫌われてるわけでも、鍵の入れ物としてお役御免になった途端に路傍の石ころ扱いされているとかいうわけでもないんだ。
とにかく、維持!
好感度キープに努めよう!
といっても。
どのみち、今。
レイジンは、教会本部にはいないんだけどね……。
レイジンは今朝早くに、天の海へと旅立って行ったんだよね。
もちろん、任務です。
とっても重要な。
とはいえ、天の海で緊急事態が発生したとかいうわけじゃない。
そっちじゃなくて。
黒幕がいるかもしれない星宮方面への対策なのだ。
わたしの身とレイシアの魂の安全を守るための、対策。
レイジンは自他共に認める“白い鍵追い人”だ。
レイジンが、渡り人かつ鍵使いってこともあって、その噂は星宮方面まで知れ渡っているらしいのだ。
鍵使いとして一人前と認められてからのレイジンは。
報告のために本部に戻るくらいで、後は天の海に出ずっぱりだったのだそうだ。
天の海で消えた白い鍵の手がかりを求めて。
もちろん、揺らぎが起これば、ちゃんとそれに対応もした。
でも、揺らぎに対応しながらも、その揺らぎの先の世界に鍵の気配がないかを探っていた。
その揺らぎの先に白い鍵があれば、絶対に自分には分かるって、レイジンは確信していたらしい。
他の世界を知る渡り人だからこそ、絨毯星界の気配があれば見逃さないって、本人は言ってたって……ルーシアが教えてくれた。
まあ、とにかく。
人生のすべてを白い鍵探索に捧げる勢いで、ほぼ天の海で生活していたレイジン。
そんなレイジンが、天の海を離れたりしたら、黒幕かもしれない星宮の方々に、星導教会が白い鍵を奪還したとバレてしまうかもしれない。
黒幕かもしれない方々の目的が分からない今。
しかも、レイシアの本体をおそらく握られてる状態で。
白い鍵奪還済み情報を掴まれたくないっていうのが、星導教会側の事情なのだ。
レイジンは、その美貌と境遇が相まって有名人なので、下手な誤魔化しは効果がない。
おまけに、星宮にも星導教会にも、お互いのスパイが入り込んでいるらしいし……。
というわけで、黒幕かもしれない方々に疑われないように、レイジンは再び天の海へ送り出されたのだ。
ちなみに、そうは言っても、しばらく天の海を離れてたよね?――――な事実については、ちゃんと言い訳が考えられていた。
白い鍵のことだけ隠して、わたしが揺らぎの影響でこっちの星界にやって来た渡り人だってことは、すでに教会内で情報共有済み。よって、星宮にも情報は流れている。
でもって。
でもって…………。
わたしの公開後悔プロポーズのことも、情報共有されているらしい……のだ。
しかも、星宮の姫君たちとか、星宮勤務の鍵使い(星宮にも鍵使いがいるんだって)とか、あと、星妃様にまで!
情報共有されているらしいのだ!
なんでだよ!
それがなんで言い訳になるのかって?
それはね?
星導教会のゆっるい気風と、それが星宮方面にまで知れ渡っているからこその荒業(?)だった。
『同じ渡り人同志でプロポーズまでされちゃったんだから、ちゃんと責任をもって、教会本部までエスコートするように』
という星導会長の鶴の一声が下ったという学生ノリっぽい説明にみんな納得したらしいのだ。
納得っていうか、その渡り人に白い鍵が宿っていたなんて実は真実な妄想よりも、話はより恋愛めいた方向へ盛り上がっていったのだ。
レイジンもついに、無機物から生身の女の子に興味を抱いくようになったのかも――――って方へ話の矛先は向かったのだ。
つまり、わたしの渾身の黒歴史系プロポーズが、イイ感じに真実をカモフラージュしたのだ。
ちなみに、この辺の事情をわたしに説明してくれたのは、星導会長だった。
すごくいい笑顔だった。
めっちゃドヤ顔だった。
というわけで、渡り人ってことも相まって、みんなわたしに興味津々。
あんな平凡な子が……ってエイリンみたいな視線を刺してくる子もいるけれど。
渡り人補正もあってか、女子たちも割とみんな友好的。
そんなわけで。
わたしは、これからしばらく、予定が詰まっていた。
教会内のいろんなグループから、お誘いがかかっているのだ。
それは、|活動の説明をしつつ話を聞きたい《たてまえ》的なものもあれば、ストレートなお茶会の誘いもあった。
今日もすでにお呼ばれされている。
「お、ここじゃ、ここじゃ! この絨毯小屋じゃ! 着いたぞー、嬢ちゃん!」
「あ、はい」
最初のお呼ばれは、昨日シャクランさんが仲良くなったという天を研究しているグループだ。
なんか激しい争奪戦が繰り広げられたらしいけど、シャクランさんが強引に権利をもぎ取ったんだそうだ。
星導会長の親友ポジっていう権力を振りかざしたのかどうかは、あえて聞いていない。
「連れて来たぞーん!」
「お、お邪魔します」
昨日の今日なのに勝手知ったるって感じで高台(中台?)の絨毯小屋に入っていくシャクランさんの後に続く。
ちゃんと真面目に天の研究の話になるのか、早々に脱線してレイジンとのことを聞かれちゃうのか。
前者の場合、ちゃんとわたしについていける話なのか。
後者の場合、恋のライバルから、あら捜しされたりしちゃわないか。
うう。
き、緊張する……!




