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異星界で。  作者: 蜜りんご
第4章 星導教会の人たち
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第95話 星女《せいじょ》の恋バナ

 ハンカチが必要になるかもしれない。

 わたしは、クッと口元を引き締めた。

 外野の嗚咽で姉妹の語らいの邪魔をするなど、あってはならないからね!

 姉妹の片割れが、もっちりふよふよしている白ヒヨコなのが、ちょっと締まらないけれど。

 それは、それなのじゃ!


「この人は、シアを取り戻してくれる人なのだと思いました」

「ミア…………」


 ああ、やばい。

 もう泣きそう。

 けれど、潤みかけた視界は、震える声で妹姫の名を呼んだ白ヒヨコの次なる一言で、サッと拭われた。


「…………そこから始まる恋は、なかったんですか?」

「は! 確かに! どうなんですか?」

「失われた姉星女(せいじょ)の鍵を取り戻すことに己のすべてを注ぎ込む白銀の鍵使いを頼もしく思う妹星女は、次第に、そのひたむきさに心打たれ、魅かれていくのです! 姉星女と鍵使いの間に、自分が張り込む余地はない! でも! みたいな! これもまた、王道ですわよね! どうなんですの? どうなんですの?」

「え? ええー…………?」


 し、白ヒヨコォオオオオオオオ!

 話の腰、折りすぎ!

 必要なのはハンカチじゃなくて、ハリセンだったぁ!

 涙の張り込む余地がないくらいに普通の恋バナに路線変更されちゃってるんですが!?

 しかも、なんか!

 壁際にいたエイリンも、姉妹の方へにじみ寄るように興味津々だし。

 腕組みで白けてたルーシアも、腕組み解いて、目を輝かせてますが?

 う。ちょ!

 その恋のお相手がレイジンじゃなければ、わたしだって、身を乗り出すところだけど!

 やめてぇ! つつかないでぇ!

 姉星女ルートが確定路線すぎて無意識で沈めたはずの妹星女の秘めたる思いが急浮上して、(シア)の恋より自分(ミア)の恋を推すべきよねって、自らの恋の成就のために邁進し始めちゃったら、わたし霞み過ぎて恋のヒロインの候補からすら脱落しそうなんですが!?

 いや、恋愛ゲームじゃないんだけどさ!

 この星女姉妹、一人だけでも十分すぎるほどに強敵なんだよ!

 恋のラスボス……いや、裏ボス並みの強敵なんだよ!

 こんな天使級美少女にぐいぐいアプローチされたら、異星界からの渡り人ってだけで、個人としての乙女ポテンシャルは平凡の極みなわたしのアプローチなんて、間違いなく掻き消される!


 もはや黒歴史な匂いハラスメント付きプロポーズすら、光の速さで忘却されちゃうんじゃない!?


 か、かくなる上は――――!

 平凡乙女スペックでも魂に残るような、より鮮烈で個性的で印象的な奇をてらったアプローチを……………………って、いや、待て!


 待て待て待て待て! 落ち着いて、わたし?


 新しい黒歴史を増やしてどうするの?

 わたしは、レイジンと一生を共にしたいのであって、一笑に付されたいわけじゃないんだよ!


 ――――と、まあ。

顔には出さずに、内心一人で暴走しかけていたわたしでしたが。

 なんていうか。

 そもそも。

 前提が、杞憂だったわ……。


「うぅーん、確かにレイジンは、眺めているだけなら、とてつもなく優良物件なんですけど」


 レイミア様は、形の良い顎に人差し指の先をチョンとあて、絶妙な角度で首を傾げながら、レイジンへのダメ出……………………レイジンを推してくる二人への反論を始めた。

 わたしとしては複雑で、しょっぱい気持ちが、さすがに顔に出た。

 強敵が減るのは、嬉しい。

 でも、それ。

 でも、この後。

 レイジンへの…………ダメ出し語りになるんだよね?

 わたし、それ、あんまり聞きたくない…………。


「ほら? 白い鍵でみっちりすぎて、完全なる片思い物件でもあるじゃないですか? やっぱり、恋愛するなら片思いよりも両想いを体験したいですし、もうその時点で完全なる対象外なんですよね!」

「あー……。それなら、仕方ありませんわね」


 あ。思ったよりひどいダメ出しじゃなかった……?

 いや、でも、これ。

 レイジン個人への、こう……人としてダメなところ語りじゃないけど。けど……。

 なんだろう?

 普通にダメ出し祭り開催されるよりも、むしろ、わたしの心にぶっ刺さりまくりっていうか。

 だって、つまり、こういうことでしょ?


 レイジンの興味は白い鍵オンリーに全振りで、それ以外はすべて興味の対象外。

 だから、自分(レイミア様)もレイジンのことは恋愛的対象外。


 ってことでしょ?

 ………………つまり、それって。

 今一番、恋愛フラグが立ってるのって、白い鍵の持ち主であるレイシアで、それ以外は完全なる対象外。

 つまり、わたしも完全なる対象外……。


 ずーん……と落ち込んでいたら、話の矛先は、なにかとんでもない方向へと転がっていった。


「…………それにしても、てっきり失われていたのはシアの鍵の力だけで、シアは鍵を失ったショックで寝込んでしまい、黒幕かもしれないお父様が悪事を隠すためにシアを幽閉しているんだと思ってたのに……」

「ミア……」

「まさか、星宮(せいきゅう)から飛んで行ったという白い光が、白い鳥に変化したシアだったなんて。…………はっ! つまり、レイジンは最初からシアに一目惚れしていたということでは!? レイジンが心を奪われたのは、鍵の力ではなく、鳥となったシアそのものだったということよね!? これは、もう、決まりじゃない!? 後は、シアの心一つじゃない!?」

「ミア、ちょっと落ち着いてください! いろいろ、勘違いが混じってます!」


 じゅ、重要情報ポロ出しからの、わたしの心をザックリ切り裂く勘違い……。

 え、衛生兵! 衛生兵――――!

 結構、傷が深い…………。


「レイジンが見たという白い光は、わたくしの魂を宿した鍵の力です! わたくしの魂と鍵は異星界へ流れ出て、運命の出会いを果たした星灯愛の中に間借りしていたって、最初に説明したじゃないですか! もう!」

「あ、そう言えば……。いえ、でも! それは、それで! つまり、レイジンはシアの鍵の力とシアの魂の輝きに心を奪われたということでしょう!? 結論は、一緒よ!」

「ええー……?」


 ………………………………!

 それは、確かに、そう…………。

 つまり、レイジンの心は、レイシアの魂の輝きでみっちり満たされていて、他の婦女子が入り込む隙間は髪の毛の先ほどもないってこと…………?

 とんでもない、致命傷をくらってしまった。

 似たようなことを、自分でも考えたことはある。

 でも、人に言われると、より一層ダメージがでかい。

 裏付けされちゃった……みたいな。

 真実味が増しちゃった……みたいな。

 そんな感じで。

 息も絶え絶え。


「ううーん……。わたくしは、レイジンとお付き合をするよりも、スイちゃんとの仲をもっと深めたいです。ふふっ」

「スイちゃん?」

「揺らぎで保護した、渡り神の子供です。小さなガラスの蛇みたいで、絨毯がなくても空が飛べるんですよ! 今のわたしと、おそろいです」

「ええー? 渡り神の子供って…………。まあ、それなら、今の見た目的には、お似合い……? あら? そう言えば、今さらですけど。シアってば、どうして、そんな姿に…………? 飛んで行ったのが鍵と魂ということは、本体は、まだ星宮にあるということ?」

「はい! その辺については、一旦座って、みんなでちょーっとすり合わせ……といきましょうか?」


 レイシアは、華麗に恋バナを躱した。

 でもって、そこからのレイミア様の今さらな疑問。

 そして、ここで。

 今まで沈黙を保っていたルーシアが、パンと手を打ち鳴らして話に割り込んできた。

 座って大事な話をしようって、小部屋の奥のテーブルへとみんなを促す。


 座れるのは、嬉しい。

 だって、瀕死だし。


 わたしは、今。

 息をしているんだろうか?


 わたしは、フラフラしながらテーブルへと向かった。


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