第93話 恋の不整脈
心温まる再会と、いらん再会があった。
星救の間――あの部屋は、星救の間と言うらしい。“球”じゃなくて、救う方の“救”――でのイベントの後。
いや、イベントっていう言い方もどうかなんだけど。
いや、なんていうか。
とにかく、あの後。
鍵をお披露目した後には、神秘的な体験なんかもして、まさしく儀式って感じの瞬間も確かにあったんだけど。
最終的には。
星導会長が、わっちゃわちゃにしちゃったせいで、全体的には神聖な儀式っていうよりは、星救の間でのイベントって感じになっちゃったんだよね。
まあ、ともかく。
そのイベントの後。
星導会長は、「やっぱり、ラピステラだよな」とか不吉なことを呟きながら、ドピューンって勢いでどこかへ行っちゃって。
うう。ラピステラは、ちょっと可愛いし、そう呼ばれるだけなら別に構わないんだけど。
絶対、何かおまけがついてくるよね?
不安しかないんだが?
で。その後は。
こうなることを見越していたらしきルーシアが(ラピステラはさすがに初耳だったみたいだけど)会長の後を引き継いで、洞窟内の別の部屋に案内してくれて。
そこで、予期せぬ二つの再会があったのだ。
そして、その再会は、ほんっとうに予想外の化学反応を引き起こした。
わたしとルーシアを盛大に巻き込んで――――。
ルーシアに連れていかれた小部屋には、二人の女の子がいた。
どちらも、見たことのある顔だった。
一人は、不本意ながら一応知り合いで。
もう一人は――――。
顔は知っているけれど、会うのは初めての人だった。
まずは、感動の再会劇が始まった。
その人は、綺麗な瞳が零れ落ちちゃいそうなほど大きく目を見開いて、ふよふよ浮いている白いヒヨコをジッと見つめ、そしてハラハラと涙を零した。
視線の先にいるのがぬいぐるみじみた白ヒヨコじゃなければ、映画のような、絵画のような、光源もないのに光が差し込んできそうなくらいに美しい光景だった。
ゆるく編み上げた金髪。
涙で濡れた翡翠の瞳。
薔薇色に染まった透き通るようなツルスベ肌。
ピンク系のアラビアン星導服に身を包んだ、天使級美少女。
レイシアそっくりの、天使降臨しちゃった?……と思わせる可憐系美少女。
透き通るように儚げなのに、ちゃんと肉体を身にまとっている美少女。
レイシアの双子の姉妹。
この星界の、もう一人の星女様。
なんで、ここに?――――とか考える前に、次のシーンに進んだ。
「……………………シア? ねえ、シアなんでしょう? そうよね?」
「……………………」
し、白ヒヨコの正体は知らされていなかったのか。
わたしは、ハラハラしながら成り行きを見守る。
だって、白ヒヨコってば、肯定も否定もせずにどうしたらいいのか伺うような視線をルーシアに向けてるんだもん。
え? ええ?
バラしていいのかとか、打ち合わせてないの?
で、お伺いをたてられたルーシアは。
ルーシアは、「ええ」って感じに静かな笑みを湛えて頷きを返した。
白ヒヨコから、ほっとしたような気配が零れ出る。
あ? つまり?
「……ええ。そうよ。久しぶりね、ミア。ふふ、大きくなったわね。すっかり綺麗になって」
「やっぱり、シア! シアは、すっかり小さくなって、可愛くなっちゃって……!」
レイシアが正体を明かした。
レイミア……様は、白ヒヨコをむぎゅっと抱きしめた。
白ヒヨコが、レイミア様の涙で濡れていく。
わたしも、ちょっとウルッときた。
そして、なんとなくザックリした事情は把握した。
つまり。
なんでか知らないけど、レイミア様は今、星導教会に滞在中なんだろう。
お姫様にしては口調が砕けた感じなのは、もしかして滞在期間が長いせいだったり?
まあ、なんにせよ。
これは、生き別れの姉妹の再会イベントのために設けられた場なのだ。
白ヒヨコの正体は、一般の星導師たちには秘密のはずだから、関係者だけの密室を用意したんだろうな。
当のレイミア様に何も説明がされてなかった感じなのは、まあ、星導教会のいつもアレ的なヤツなんだろう。
うん。もう、そこはツッコまない。
――――なんて。
軽い背景読みをしながらも、気分はすっかり、コーラとポップコーンがお供な観劇モードだったりします。
あ。ちなみに。
嬉しくない再会の相手は、言うまでもないかもしれないけど、エイリンでした。
小柄な薄茶のクシャクシャツインテール。
ソバカス多めの、まあまあ愛嬌がある顔立ち。
星導服の色はオレンジベース。
レイジン推しだけど、自分が付き合いたいとかじゃなくて、ルーシアとのカップリング推し。
なので、わたしとは仲がよろしくない。
愛想をよくしていれば、礼儀正しい妹系キャラなんだけど。
わたしからしたら、“薄茶の小生意気”に集約される。
この再会イベントだって。
姉妹の感動の再会が始まっちゃったから、残りのメンバーは必然的に観客になるしかなかったんだけどさ。
それでも、ルーシアには労うような目礼を送っていたのにさ?
わたしには、「ハンッ」って小馬鹿にしたみたいに鼻で笑って、挨拶終了だったんだよ?
そりゃ、感動に目を潤ませつつも「むっきー!」って、なるよね?
あ!
思い出しムカムカしている間に、天使級美少女と白ヒヨコの抱擁(?)シーンが終わってしまった。
解き放たれた白ヒヨコは、ふよふよとわたしの顔の前まで飛んで来た。
「星灯愛! 紹介しますわ! わたくしの妹のレイミアです。そして、ミア。こちらが、わたくしが、魂と鍵を間借りさせていただいていた星灯愛です! ふふ。星灯愛という名前には…………地球の古い言葉で星に愛を灯すという意味があるのです! しかも、わたくしたち! 年も同じで、誕生日も近い……というか、おそらく一緒なのでは!……と思います!」
「へ?」
「まあ! つまり、この出会いは、運命だったということね!?」
「そうなんです! さすが、ミア! 分かってくれますか?」
「もちろんよ! シア!」
え? そうなの?
初耳なんですけど?
てゆーか、地球の古い言葉って……。
ま、まあ、それが一番分かりやすい説明ではあると思うけど。
そういえば、“レイ”って、こっちの星界の古い言葉で、星って意味なんだよね?
ってことは、“シア”と“ミア”は、どっちかが“灯り”で、どっちかが“愛”って意味?
「レイシアは、古い言葉で星の光を……」
「レイミアは、星の愛を意味するの」
「そして、誕生日もおそらく……いえ、ここはもう、一緒ということにしておきましょう!」
「そうね! そうすれば、すべては偶然ではなく、運命ということになるものね! そうするべきだわ!」
び、美少女と白ヒヨコが、盛り上がっている……。
誕生日を一緒ってことにしましょうって……。
いや、まあ、いいけど。
…………あー、でも。
言われてみれば。
わたしが、前世だと勘違いしていたお姫様でアラビアンな夢を見るようになったのって、確か、十歳の誕生日のすぐあとくらいだったような……?
ちなみに誕生日は七夕です。
でもって、年齢は……えー。
もうすぐで誕生日って時に異世界転移しちゃったから、今……何歳だ?
その時は、十五歳だったんだけど、もう十六歳になったのかな?
あ、やばい。
地球のことを……日本にいた時のことを思い出したら、出発前のアンニュイのせいもあって、ホームシックな気分が溢れてきそう…………。
やばい。まずい。
今は、胸の奥にしまって、蓋をしておかなきゃ。
鍵かけて封印しておかなきゃ。
夜になったら、ちゃんと封印解除するから。
だから、今は。
生き別れの姉妹が、肉体復帰はまだとはいえ、ようやくの再会を果たしたとこなんだもん。
ホームシックにぐずって、水を差したくないよ。
――――なんて、一人でシリアスぶっていたら、とんでもない爆撃をくらった。
「あ、運命と言えば! シアは、もうレイジンには会ったのよね? シアの元宿主であるステラは、レイジンにプロポーズをして返事は保留中と聞いているけど、シアはどうなの?」
「え? どう……とは?」
「もーう! レイジンは、渡り人にも関わらず、この星界からはぐれたシアの鍵に一目惚れして、その執念でもって異星界から鍵ごとシアの魂を宿主ごと取り戻した人でしょう!? そして、鍵使いとしての腕も一流で、なにより星界に類を見ない、お父様にも匹敵するレベルの美形なのよ!? これもまた、運命でしょ!? シアは、レイジンのことを、どう思っているの!? わたしは、もちろん! シアの味方よ!」
……………………!
そういわれると確かに!
レイジンとレイシアは、運命の二人っぽい!
でもって、わたしはお邪魔虫っぽい!
え? ちょ? なに、この展開?
姉妹の感動の再会の熱も冷めやらない内に、なんで?
わたしは、恐る恐る、白ヒヨコを見つめる。
今まで、レイシアはスイちゃんの方に夢中で、そんな素振りは一切見せなかった。
でも――――。
星灯愛の手前言えなかったけど、実は……みたいな告白をここで始めたら、どうしよう?
レイミア様がライバルじゃなさそうなのは、朗報だけど。
レイシアの答えによっては、よっては…………!
ま、まずい!
恋の不整脈が止まらない…………!




