第91話 星霊と星の生霊
洞窟の奥の小部屋の真ん中で、星球儀が浮いていた。
海が宇宙になっている、こっちの星界バージョンの地球儀。
大きさは、バランスボールぐらい?
わたしが知ってる、学校で見たことある地球儀よりは大きめなサイズ。
本物じゃ、ないっぽかった。
や、本物じゃないって言うのは、あれ。あれだよ。
言葉の綾ってヤツ。
偽物とか、そういうことじゃなくて。
模型とか、そういう、物質的なヤツじゃないって意味。
なんて言うんだろ?
こっちの星界に満ちてる“天”のことじゃなくて、空の向こうに広がっている本物の宇宙から見たこの星の立体映像? 3Dホログラム?
そんな感じの質感。
だけど、それも正解じゃない。
もっと素直な感想を言えば。
星の生霊…………みたいな感じがする。
幽霊じゃない。
だって、この星はまだ、生きてるから。
だから、生霊。
人々に何かを伝えるために生霊になって現れた……みたいな。
そんな感じがする。
「これが、あの伝説の……。まさか、星球儀だったなんて。なんだか、運命を感じますね。ね? 星灯愛」
「…………うん。…………うん?」
隣でふよふよしている白いヒヨコが、深く感じ入った吐息を洩らした。
白いヒヨコは、白ヒヨコ人形に宿ったレイシアだ。
わたしは頷いて、それから首を捻った。
……………………う、運命?
わたしは、ふよふよしている白ヒヨコをじっと見つめる。
ヒヨコは星球儀に見惚れていて、わたしとは目が合わない。
わたしは、もう一度星球儀を見つめる。
あ、そうそう。
言っておくけど、あの星球儀は、わたしが呼び出した星球儀じゃない。
星灯愛、関係ない。
じゃあ、何かって言うと。
えーと。ちょっと、遡ろうか?
公衆天浴場と植物住宅の里で。
星灯愛とレイシア&白い鍵との分離に成功したわたしたちは。
里を出発し、無事星導教会本部に到着した。
――――なんかね?
霊峰ナントカー……みたいな、高く険しく厳かな雰囲気いっぱいの神様が棲んでいそうな山々に四方八方を囲まれた…………なんていうんだろ?
山の中腹くらいの高度のところに中台みたいな場所があって、そこに建てられた普通に木材建築の建物だった。
てっきり絨毯建築なんじゃないかと思ってたんだけど、そうじゃなかった。
てゆーか、ぶっちゃけ丸太小屋だった。
大・中・小と大きさも割と自由な丸太小屋が無秩序に建ち並んで……いや、建ち並んではいないな。
丸太小屋のおもちゃをちっちゃい子が、自由に置いてみました感があるっていうか。
うん。とにかく星導教会の自由さが伝わってきたよ。
それはともかく。
他所との行き来には絨毯が必須の立地なわけで、どうしてこんなところに本部を建てちゃったの?――――って、言うのが正直な感想ではあった。
だって、ほら?
今でこそ絨毯文明が栄えているわけだけど(ただし、へき地は除く)、本部が出来たばかりの頃って、まだ絨毯黎明期だったんだよね?
や、黎明期っていうか、星導教会設立当初って、まだ絨毯もなかったんじゃなかった?
んー、まあ、ある意味。
だからこそ、絨毯開発が必須で、絨毯文明が栄えたのかもしれないけど。
ちなみに、当時の移動には、山裾から中台まで繋がっている洞窟を使っていたらしい。
でもって、その洞窟内部にも、教会の重要施設があるのだ。
ここも……星球儀のある洞窟内小部屋も、その一つだ。
たぶん、星導教会の最重要施設なんだと思う。
えー、で。
なんで、その最重要施設にいるのかって言うと――――。
わたしたちが、本部上空に到着すると。
丸太小屋の建ち散らばる中台では、キューピーみたいな髪型の白髪のおじいちゃんが待ち構えていた。
緑と青が混ざったような生地に金を塗しこんだ派手めのアラビアン衣装を着ているおじいちゃん。
あれが星導会長のトイクーンよ――――って、ルーシアが教えてくれた。
わたしたちの乗っていた絨毯が中台に降りると、トイクーンさんは、わたしたちが絨毯から下りるのをまたずにこう叫んだ。
「ようこそ! 星導教会へ! さて! 早速だが、鍵使いとなった二人に見せたいものがある! こっちだ!」
「うん。なんか、ごめん。待ちきれないみたいだから、一旦付き合ってちょうだい」
トイクーンさんは、わたしたちの返事を待たずに中台を取り囲む山側に向かってスタスタと進んでいった。行く先には、山の中へ繋がっている洞窟の入り口があった。
や? まだ、挨拶も自己紹介もしてないんですけど?
ま、まあ。たぶん、割といつもこういうノリなのだろう。
ルーシアは、トイクーンさんに返事をせずに、わたしとレイシアから気まずそうに目を逸らしながら身内の粗相を謝りつつ、後に続くよう促してきて、それで――――。
連れて来られたのが、この星球儀を祀っているお部屋だったのだ。
はぐれて迷子になってもいけないからって、ルーシアが一緒について来てくれた。
ルーシアには行先についての検討はついているみたいだったけど、詳しい説明とかはしてもらえなかった。
理由については何となく察しがついたので、わたしもレイシアも大人しくワクワク意気揚々と先を行くトイクーンさんについていった。
うん。なんか企んでる……いやいや、えーと。け、計画してくれてるみたいだし。
余計な茶々を入れて段取りを台無しにしたら、おじいちゃんがすねちゃうかもしれないもんね。
まあ、そんなノリだったから、歓迎と鍵習得のお祝いを兼ねたケーキ的なものが用意してあるのかなー……くらいの感覚だったんだよね。
そうしたら、まさかの星球儀とご対面だったわけですよ。
や。まあね?
入り口に特殊な絨毯で封印がされているとか。
鍵使いじゃないと入れない術式がかかっているとか。
たとえ鍵使いでも星導会長の許可なく入った場合には、警報が鳴り響くのよ、とか。
ルーシアは外で待っている、とか。
まあ、いろいろと「あれ?」って思うところはあったんだけどね?
何にも聞かされないままのご対面だったけど。
それでも、分かる。
伊達にラノベを読んできたわけじゃないのだ。
封印された部屋の中で浮かんでいる、星の生霊にも思える星球儀。
つまり、ここは星導教会の聖地的な場所なんじゃない?
あの星球儀は、ご神体的なアレなんじゃない?
てゆーか、あの星球儀がここにあるから、こんな交通の便が悪い場所を本部にしたんじゃない?
今でこそ、絨毯のおかげで移動に不自由はないけれど。
本部が出来たのは、確かまだ絨毯文明が発展してない時代だったはずで。
当時はたぶん、洞窟を使ってここまで行き来をしていたはずで。
そうまでして、こんなところに本部をしたのは、この星球儀を守るため、とか?
でも、守りも重要だけど、各地で起きてる天化や天の海で揺らぎが起きた時の対応なんかも必要で、それもあって。
絨毯が発展したってことなんじゃないかな?
――――というのが、余談も入ったけれど、ここまでの経過なわけなんだけど。
う、運命は、何? どういう意味?
完全にレイシアの独り言なら、そんなに気にしないんだけどさ?
なんか、運命の件だけ、わたしにも、こう、同意を求めてるような感じだったんだよね?
ちょい意味深っていうか。
星球儀は、薄暗い小部屋の中で浮かび上がるように光っている。
洞窟の通路には、光る球が適当な感覚で床……っていうか地面に直置きされていて、それなりに明るかったんだけど、小部屋の中の光源は、星球儀オンリーだった。
星球儀のどこか儚くも感じられる美しさを際立たせるために、あえて他の光源は置いてないんだろうな。
うん。分かる。
これは、絶対にその方がいい。
なんか、儚げなのに圧倒的な存在感があるんだよね。
まさしく星の生霊って感じ。
「美しいですね。この星界の形代にして、聖霊……いいえ、星霊というべきでしょうか」
「…………なるほど! 星霊! 星の生霊みたいとか思ってた!」
ちょっと、目から鱗が落ちた!
そうか、星霊! まさしく!
…………あ、しまった。
ご神体っぽいものに見えたから、さすがに生霊呼ばわりはまずいよねと思って声には出さないようにしてたのに、驚愕のあまり鱗と共にうっかりポロった!
ど、どうしよう!?
これ、不敬ってヤツ!?
星導会長に怒られちゃう!?
「ま、まあ、ワードのチョイスにセンスの差が現れてはいるが、どっちも似たようなもんだろ……ふっ、ふぐん……ほ、星の生霊……ふぐっ、ぐふん……」
が、がーん!
怒られはしなかったけど、ワードセンスを笑われた!
――――というか。
わたしの脳内はともかく(一応、自覚はしてる)、たとえ白いヒヨコがふよふよしていても、あんなに厳かな雰囲気だったのに。
い、一瞬で台無しにしてしまった…………。
ま、まあ?
星導会長様は、なんだかうけていらっしゃるし。
え、えーと。
星導特性ありってことで、評価のほど、よろしくお願いします。




