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異星界で。  作者: 蜜りんご
第3章 道なき星界
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第83話 怪鳥ラプソディー

 甘くて爽やかでスパイシィな、どこまでもわたしを掻き乱す大好きな香りに包まれていた。

 大好きな匂いのする暖かいものに包まれている。

 クラクラする。

 それだけで、クラクラしてくる。


「ステラ…………」

「…………レイジン」


 気づけば、わたしはレイジンに抱きしめられたまま、絨毯の上に横たわっていた。

 レイジンが、わたしを支えたまま、身を起こす。

 絨毯の上で向かい合って座り見つめ合う。


「ステラ。無事でよかった」

「うん。ううん。助けてくれて、ありがとう」


 背中に回されたレイジンの手のぬくもり。

 わたしを見つめる瞳の奥に灯る青白い光。

 光が揺れている。

 青く冷たく熱い炎が燃えている。


 ああ。


 好き。

 好き。

 レイジンが好き。


 その炎で、わたしを燃やしてほしい。


 わたしを助けてくれたレイジン。

 自分だけ助かろうとはしないで、最後までわたしを諦めないでいてくれたレイジン。


 揺らめく花弁のように、わたしの中で、わたしの中でも、喜びの炎が踊る。踊っている。


「いや、助けられたのは、俺の方だ。ありがとう、ステラ」

「……………………は、はうっ!?」


 至近距離でフッと微笑まれて、心臓が止まりそうになる。

 止まるっていうか、もう。ぶっ壊れそう。

 脳みそが、沸騰しそう。


 星空(そら)天海(うみ)に挟まれて。

 わたしたちは今。

 絨毯の上で二人きり。

 抱き合うように向かい合って。

 見つめ合っている。


 このまま溺れてしまいたいような。

 それでいて、逃げ出したくなるような。


 わたしは。

 わたしたちは――――今。


「キョエエエエエエエエエエエエエッ!」


 最高にロマンチックなシチュエーションで、もしかして初チューしちゃうかも……なんて。

 浮かれのぼせた期待は、甲高い鳴き声に邪魔をされた。

 甘蕩けるような雰囲気は、あっけなく霧散して消える。


「ちっ。追い払うだけでなく、きっちり仕留めておくべきだったか……!」


 鋭さを宿した瞳で、上空を見上げるレイジン。

 鳴き声と、風音。

 たぶん、さっきの怪鳥だ。

 やっぱり、レイジンが追い払ってくれてたんだ。

 だけど、そのせいもあってか、怒り心頭って感じで一直線に急降下してくる。

 お腹の底から冷たいものが溢れてくる感覚にキュッとして、わたしはレイジンの服にしがみつく。

 レイジンは、冷静で頼もしかった。


「大丈夫だ、ステラ。今度は、ちゃんと守る。俺がステラを守る」

「…………う、うん」


 レイジンは、片手でわたしの腰を抱え自分の方へ引き寄せると同時に、反対の手を空へ向けた。

 人差し指と中指をそろえて親指を立てる……ピストルごっこみたいな形を作り、指先照準を怪鳥へ向ける。

 引き寄せられてレイジンの胸にピッタリ寄り添うみたいになったわたしは、どうしようもないくらいにドキドキしながら、レイジンを見上げる。

 無茶苦茶に凛々しくてかっこよかった。

 そうでなくても、怜悧さを漂わせつつも芸術的に麗しいのに。

 そこに凛々しさまで加わったら。もう。


 もう、こんなのっ、好きにならないわけないじゃんっ!


 乙女心が全開フルスロットルで、もうもうもうもう、とっくにぶっ壊れちゃってるのかも。

 好きが加速して止まらない。

 好きすぎて苦しくて。

 かっこよすぎておかしくなりそうでレイジンの顔が見てられなくて。

 逃げるように、指ピストルの銃口になってる指へと視線を逸らした、その時。


 指先が、銃口が光って。

 光が、力が、解き放たれた。


 蒼い光が銃弾となって線を描き、そして。

 怪鳥にぶちあたる手前で、弾けた。

 弾けた蒼は網になって、怪鳥の体を絡めとる。


 そうか。

 あれは、やっつけるんじゃなくて、捕獲するための光で力だったのか。

 蒼い光があまりにも綺麗で、何も考えずに目で追っちゃったけれど。

 あれが、やっつけるための力なら、覚悟もないままスプラッタなシーンを見ることになってたのか。

 そうなったとしても、野蛮だなんて的外れなことを言うつもりはないけど。

 だって、あの怪鳥は間違いなく、わたしたちを狙っていた。

 間違いなく、ヤるきだった。

 ヤられるのは、嫌だ。

 わたしは、わたしを、わたしたちを選ぶ。

 だから、ヤられないためにはやっつけるしかないってレイジンが判断したのなら、それに異を唱えるつもりはない。

 やっつけなくても何とか出来る力をわたしが持っていて、何とかするって言ったのに、それを押しのけてレイジンがやっつけちゃったのなら、怒るけど。

 そうじゃないもん。

 助かりたいけど、方法はこうじゃなきゃ嫌だなんて、そんなの勝手すぎるもん。


 それがどんな方法であれ、助けてもらったのは事実で、わたしは助かりたかった。

 だったら、ありがとうでしかない。


 人がどんなに夢を見ても、自然は人だけを甘やかしてくれたりはしないんだよ。

 そうでしょ?

 まあ、家の裏が完全に裏山なおじいちゃんからの受け売りではあるんだけどね。


 んで、まあ。

 それはともかくとして――――。


「この鳥、どうするの?」

「ああ。食べたことがない鳥だから、食用に向いているかどうか分からない。持ち帰って、シャクランにも意見を聞いて、活用方法を考えよう」

「あ、はい」


 わたしは大人しく頷いた。

 いや、うん。そうだよね。

 お肉は、お肉だもんね。

 生きてる姿を知ってると、ちょっと「う」ってなるけど。

 シャクランさんの家で、もう何度か食べた鶏肉だって、森で獲った鳥だって言ってたし。

 使用前・使用後の両方を知っているか、いないかってだけで、同じことだもんね。


 おじいちゃんが釣った魚を調理するところとか見てたから、魚は割と平気なんだけどな。

 お肉はやっぱり、違うよね。

 こういうの、生き物差別になるんだろうか?


 まあ、でも。

 食卓に上ることになったら、ちゃんと心していただくよ!

 でも、調理のお手伝いは無理そうです!

 ごめんなさい!


 うーん。しかし、鳥のおかげで盛り上がった乙女は、完全にどっかいったなー。

 さすがに、網の中で暴れている鳥がいる状態で再開とかないし。

 ちょっぴり残念なような、ほっとしたような、複雑な気持ちです。


「今度は、ちゃんと助けられてよかった」

「あ! そうだ! ありがとう! ごめん、お礼が遅れて! 二度も助けてもらったのに!」


 いっけない! そうだった!

 一度目のお礼はした気がするけど、それはそれ!

 鳥の行く末よりも、まずはお礼だった!

 名残惜しいけどドキドキし過ぎちゃうから、レイジンの胸元を離れて、正座で頭を下げる。

 頭を上げると、レイジンは困ったように笑っていた。

 う。うく。

 普段割と無表情だから、ほんの少しでも表情が乗ると、もうそれだけで撃ち抜かれる!

 心が! ハートが! 乙女心が! わたしのすべてが!

 撃ち抜かれていく…………。


「いや、お互い様だろう。俺の方こそ、さっきは、本当にありがとう」

「う、ううん! そんな! そんなの! それに、その…………わたしだけの力じゃ、なかったし……」


 真摯にお礼を言われて、わたしは慌てた。

 なんかこそばゆくて、力強く首を横に振り出し…………その最中に「そもそも」を思い出して、もしょもしょと否定する。

 そう、そもそも。あれは、わたし一人の功績じゃない。

 今さらのように、辺りを見回す。

 鍵は、見当たらなかった。

 レイシアの白い鍵も、たぶんおそらく顕現したはずの、わたしの鍵も。

 たぶん、肉体を取り戻したと同時に…………助かったのと同時に、消えたんじゃないかと思う。

 レイジンを繋ぎとめたのはレイシアの鍵だったけれど、最終的に力技で二体の骨を引き上げたのは、ギリッギリで顕現して発動した、わたしの鍵だった…………と思う。

 けれど、それが出来たのはレイシアがそれまで頑張ってくれたからこそ、だ。

 レイシアの鍵の力がなかったら、わたしたちは、わたしは…………。

 だから、それを、わたしだけの功績にするのは、フェアじゃない。


「ああ。あれは、やはりレイシア様の……」

「…………」


 だけど、申告するまでもなく、レイジンはちゃんと気づいていたみたいだった。

 胸の奥が、ズキンと痛い。

 わたしは、力なく項垂れた。


 その先のレイジンの言葉を、聞きたくないって思った。


 白い鍵の力に焦がれて追い求めたレイジン。

 白い鍵の持ち主がレイシアだと知ってしまったレイジン。


 そんなレイジンが語るレイシアへの想いを。

 自分を助けてくれたレイシアのことを、どう想っているのかを。


 聞きたくなくて。


 わたしは――――――――。


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