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異星界で。  作者: 蜜りんご
第3章 道なき星界
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第80話 白は希望か絶望か?

 宇宙の中で。

 二体の骨が絡まり合っていた。

 大きい骨格標本とちょい小さ目な骨格標本。

 大きい方が、小さい方を抱きかかえているみたいにも見える。

 大きい方は、手の先だけが宇宙の外に出ていた。

 骨オンリーじゃない、ちゃんと肉をまとった手が、片方だけ宇宙から飛び出ていて、海面ならぬ宇宙面スレスレを飛んでいる絨毯の端を掴んでいる。


 ちょっと、何が起こったのか分からなかった。


 鳥葬になるかと思ったら宇宙葬に切り替わりそうになって。

 最後にレイジンの名前を叫んで、それにこたえる声があって。

 わたしを呼ぶ、声が聞こえて。

 聞こえて――――。

 あの声、あの声は――――。


「大変です! 星灯愛(すてら)! 某っとしている場合ではありませんよ! 早く引き上げなくては! 三人そろって永遠の漂流魂(ひょうりゅうだましい)になってしまいます!」

「…………え? レイシア?」

「はい! そうです! レイシアです! わたくしたち! 天の宇宙にダイブしちゃったんですよ! 最後に聞こえた声、レイジンさんでしたよね!? きっと、星灯愛を探しに来てくれたんですよ! そして、あの鳥も追い払うかやっつけるかしてくれたんですよ! だって、追撃がありませんでしたもの! いえ! それどころじゃないんでした! まずは! 引き上げねば! わたくしたちを助けようとしたレイジンさんもろとも! 骨は天の中で! 魂は天の外で! それぞれ漂流しちゃいます! 骨と魂に分かれて盛大なる人生の迷子状態になっちゃいます! なんとかしないと! 早く! ハリアッ!」


 事態についていけなくて呆然としていたら、霊体レイシアがわたしの周りを忙しなく飛び回りながらめっちゃ早口で状況を教えてくれた。


 おかげで、ピキーンと覚醒した。


 そう。そうだ。そうだよ。

 わたしを呼んだのは、レイジンだった。

 つまり、手首から先だけお肉をまとったわたしの骨と思しき骨をを抱きとめるこの大きい方の骨の持ち主は――――!


「レイジンッ!」


 わたしは、レイジンの手をつかんで持ち上げようとした……けど。伸ばした手は、レイジンをすり抜けてしまった。

 そうだった! わたし今、霊体なんだった!

 どうしよう!? どうしたら…………!?


「ああ! なんということでしょう! 魂と肉体の華麗なるすれ違いが今ここに!?」

「いや、華麗なるって、そんなこと言ってる場合じゃ…………あ! そうだ! 鍵だ! ね、レイシア! 鍵の力でなんとかならないかな!?」


 パニクり絶叫レイシアに脊椎反射でツッコミ入れかけて、はっと閃いた。

 閃いた打開策はレイシアだよりの他力本願案だけど、この際、しょうがない!

 てか、何とかなるなら、なんでもいい!

 だから、お願い力を貸して!

 大いなる地球の揺らぎ事件の時に、鍵の力で巨地蔵さ様を助けてくれたよね?

 てことは、霊体でも、鍵の力は使えるってことだよね?

 わたしを助けようとしてピンチなレイジンを助けるのが、わたしじゃなくてレイシアなのは、正直アレではあるけど、そんなこと言ってる場合じゃない!

 レイジンだけでも、助けなきゃ!

 だから、お願いレイシア!

 力を貸して!


「なるほど! そうですね! 分かりました!…………鍵よ!」

「あ、ありがとう、レイシア!」


 レイシアが「てい!」って感じに両手を突き出すと、絨毯の端を掴んでいる手の上に白い鍵が現れる。

 絨毯と手は、上がったり下がったりを繰り返していた。

 たぶん、現状を維持するだけで手いっぱいってことなんだと思う。

 だから、わたしたちで何とかしないとなんだよ!

 わたしたちっていうか、わたしは鍵の力は使えないから、レイシアだよりなんだけど!

 それが悔しいっていうか、レイシアの白い鍵のおかげで助かったって分かったら、レイジンの心がより一層レイシアに傾きそうで乙女心が苦しくはあるけど、それは頑張って呑み込む。


 だって。だって――――。


 わたしは完全に骨浴状態だけど、レイジンはギリギリ天浴状態だ。

 だけど、絨毯を掴んでいる手が完全に宇宙に沈んで、レイジンも骨浴になったら……。

 そうしたら――――――――。


 フッと浮かんだ考えを、わたしは胸の奥の奥の方へ沈めた。

 そのまま、蓋をする。


 二重に自己嫌悪。

 でも、その自己嫌悪ごと、封印する。封印した。

 そのまま、目を逸らす。


 どちらにせよ、それはいろんな意味で回避しなきゃいけない事態だ。

 そう。だって。

 レイジンが、わたしを助けたせいで体を失うなんて、そんなのやっぱりダメだ。

 レイジンだけでも助けたい。

 それは、ちゃんと、わたしの心からの願いで、望みだ。


 だから、わたしはレイシアに祈り、願う。


 それしか、出来ることがないから。

 わたしを助けようとしてピンチなレイジンが、レイシアに助けられるなんて、本当は嫌だ。

 レイジンとレイシアの間に、新しい結びつきが出来ちゃうのが、嫌だ。

 痛くて辛くて、苦しい。

 今は、そんな場合じゃない。

 分かってる。

 それは分かってるけど、わたしの乙女心がそう叫んでいるんだよ。


 呑み込んでも呑み込んでも湧き上がってくる乙女心を、何度でも何度でも、また吞み下す。


 だって、それは最悪じゃないから。

 今の最悪は、それじゃないから。


 わたしは、胸の前で両手を組んで、白い鍵に念を送る。

 少しでも助けになるようにと、念を送った。

 お地蔵様に祈りを捧げる時みたいに。

 レイジンを助けて、と。

 だけど――――。


「だ、ダメです! 星灯愛! どうしましょう!? 祈りを捧げてはいるんですが! 手ごたえがないと言いますか! そういえば、わたくし! 鍵の力を自分でちゃんと使ったこと、ないんです! 星宮(せいきゅう)にいた頃は、わたくしが鍵の力を使わなくてはいけないようなこと、起こりませんでしたし! 出して眺めて遊んでただけで、ちゃんと使ったことって、ないんです!」

「…………え?……………………ええ!? いや、待って! 地球の揺らぎの時、巨地蔵様に助太刀してたよね!? あの時みたいにすればいいんじゃないの!?」


 必死なのにどこかコミカルなレイシアの叫び声が、わたしの乙女思考を吹き飛ばした。

 どうして、わたしのシリアス乙女路線は長続きしないんだろうと思いながらも、レイシアのノリに釣られて叫び返す。


「それが! その! あの時は、巨地蔵様を応援する念を送っていただけで、わたくし自身が何かをしたわけではなかったと言いますか! 星灯愛! 星灯愛が……星灯愛の鍵を顕現させてください! そうすれば、星灯愛の鍵の力を応援することは出来ますから!」

「えええ!? レイシアの白い鍵の力は、サポートオンリーな能力ってこと!?」

「あ! 確かに! そうなのかもしれません!」


 ……………………え? まさかの急展開?

 待って?

 そんなこと言われても、わたし。

 鍵の力、使えない。

 使えないよ?

 使えるとか使えない以前に、顕現すら出来ないよ?

 使えるようになりたくて頑張ったけどダメだったの、レイシアだって知ってるよね?

 わたしの中から、見てたはずだよね?……って、あ。


 ああ! ダメ! 待って!


 グルグルしていたら、本当の急展開が来てしまった。

 絨毯を掴んでいたレイジンの手が、ズルリと滑ったのだ。


 頭の中が真っ白になった。

 咄嗟に手を伸ばす。

 レイジンの手を掴もうと手を伸ばす。

 掴んだはずだった。

 間に合ったはずだった。


 なのに――――――――。


 わたしの手は、レイジンの手をすり抜けてしまう。

 そうだ。そうだった。

 わたしは今、霊体なんだった。

 霊体の手は、肉体を触れないんだった。掴めないんだった。すり抜けちゃうんだった。

 さっきも失敗したばかりなのに。


 ああ、そうだ。

 だから、鍵が必要なんだった。

 それで、レイシアに頼んだんだよ。

 でも、レイシアの鍵だけじゃ、力が足りなくて。

 それで、それで――――。


 ああ、どうしよう。ダメ。もう、間に合わない。

 間に合わないよ――――!

 レイジン――――!


 お願い! 鍵よ! 助けて!


 真っ白になりながら祈り見つめる、その先で。

 レイジンの指が、指先が、絨毯の端から、ついに、ついに…………。

 ああ…………!


 真っ白な絶望に心が埋め尽くされようとしたその時。

 目の前に、白い光が走った。


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