第69話 星の世界の天と水
サラッとぶっこまれた絨毯話に色めくわたしでしたが。
絨毯については本当にサラッと触れただけで、話は本題へと戻っていった。
里でのお水管理についてだ。
「内陸の大都市では、絨毯ありきの文明が築かれていきましたが、その一方で、こうした辺境の里や村は、天の海の近くということもあって、絨毯が行き届かず、独自の文化を発展させたんです」
「ほ、ほう?」
ど、独自の文化とな?
絨毯がサラッと流されちゃったのは残念だけど、それはそれで、気になるね?
まあ、絨毯知識については、星導教会本部に行けば、嫌でも身につくだろうし。
なんかね。魔法の絨毯を開発したのは、大昔の星導師で、今も絨毯は星導教会で作ってるっていうんだよ。
鍵使いじゃない星導師の主なお仕事らしい。
絨毯工場とかあるのなら、一回、見学させてほしい。
「かつては、絨毯を普及させたい星導教会側と対立することもあったのですが、近年では、水の確保手段は多ければ多いほど有事に対応できるという考えに傾いていて、こうした辺境の水対策は注目されているんですよ」
「ほ、ほう?」
あ、里に話が戻った。
ん、んん。
でも、そっちはそっちで、興味あるっ。
中央と辺境の対立ってヤツ!
よくあるヤツぅ!
でもって、今はむしろ里のやり方が注目されてるとかっ!
近年って、どのくらいまでが近年なの?
もしかして、星導教会で何やらしでかして左遷されたっぽいシャクランさんがこの里に流れ着いたことも、関係してたりする?
やっば! 興奮してきた。
「……ステラ、ステラ。この里が発展させた独自の文化について、気づいたことはありますか?」
「…………は、はい! あ、あああ、あります!」
「では、どうぞ?」
やっべぇ! 滾ってたら、なんか呼ばれてた!
もしかして、思考が脇に逸れがちなわたしの性質を把握されちゃってる?
でも、待って? ミナセ、今のは違うの!
話がつまらなくて余計なこと考えてたんじゃなくて、話が面白かったからハフハフしちゃっただけなの。
あと、答えも、なんとなくは分かってるから!
「えっと、植物の力を貸してもらう!」
「どのように?」
「…………え? えっとぉー……」
さすがに、ざっくりすぎたか!
まあ、こんなの小学生でも答えられるよね……。
でも、言い訳させて?
ほら、突然の質問だったから、こう……ね?
とはいえ、一つはこれが正解だろうなって思うんだけど、もう一つは、いや、もう一つも正解ではあるんだろうけれど、理由が分からないっていうか。
ええい。テストじゃないんだ。
思ったままに、答えよう。
「一つは、あれですよね?」
「ええ、そうです。さすがにこれは、分かりますよね。シャクランも使ってましたし」
「あー、あはは」
いや、昨日のランチは、すでに用意されていたし。
その後は、呆然自失状態だったから、目には入っていたのかもしれないけど、記憶にはないんだよね。
分かったのは、地球にも似たような植物があるからで。
いや、木の形状とかは、違うんだけど。
実の性質は、一緒なんじゃないかなって。
それにまあ、ここに連れてこられて、まず水の話が始まったってことは、そういうことなんだろうなって。
でもって、“ここ”がどこなのかというと。
里のはずれの果樹園…………いや、ほんとに果樹園なのかな?
里のはずれにたまたま自生していた……?
それとも、この天然果樹園があるから、ここに里をつくったって可能性もあるな?
「これは、トプカの木です。あの大きな実の中に、水分を蓄えています。いわば、自然の貯水槽ですね」
「これって、里の果樹園なの? それとも、野生の果樹園なの?」
「…………ほぼ野生ですかね? 朝、その日必要な分を収穫するだけで、特に手入れもしていないようですし……」
「そ、そうなんだ」
それは、お手軽でいいね?
わたしは、改めてトプカの野生果樹園を見つめる。
がっしりしっかりした太い幹。身長は、一階建ての屋根よりちょい高いくらい?
濃い緑色の葉っぱがわさわさしてて、ラグビーボールみたいな白くてツルスベっとした実がもりもり生っている。
たぶん、あの実は、地球で言うところのヤシの実みたいな感じで、実の中に水分……ていうか液体を蓄えているんだろう。
野生の果樹園は、野生の貯水施設なのだ。
「トプカは、内陸にはあまり生息していないんですよ。主に浜の近くの森などに群生しています。内陸でも、大きな天の湖の周りなどではよく見かけますね」
「え? それって、もしかして、もしかして?」
「もしかして…………なんでしょう?」
気づいちゃった! 気づいちゃった! 気づいちゃった!
ミナセが「へえ?」って、なんかこう、興味深そうな感じに続きを促してきた。
あれ? もしかして、わたし。期待されちゃってる?
き、期待に応えられなかったらどうしよう?
ちょっと不安になりつつも、でも思いついたことが合っているのか確かめたくて、わたしは思い切ってみた!
がっかりされたら、その時は! がっくりしょんぼりすればいい!
いざ!
「植物は、日光と水で育つけど、トプカは“天“を水の代わりにすることが出来る……もしくは、”天“が水の代わりなんじゃない? 水場が天に成り代わったってことは、水と天は表裏一体で、何かのきっかけで、水が天になったり、天が水になったりする…………あ! ダメだ! 道も天になったんだった! こ、後半は、ナシで!」
「いえ、素晴らしい発想です。前半については、今のところは星導教会の公式見解でもあります。後半についても、同じ説を唱えている星導師がいますし、そのような性質も、確かにあるのだと僕も思います」
「え?」
「実際、水と天の間を行ったり来たりしている不安定な泉などもあります。降雨の後の水たまりが天たまりになったり、それを鍵の力で水に戻して安定化を図ったり……などは、実際に私も任務として行っておりますし」
おお。現場を知る者の意見! 信憑性ある!
あと、水問題には直接関係ないけど、ミナセも僕と私を行ったり来たりだね?
仕事として講師役をしているけど、たまに素が出てきちゃうってことかな?
なんだろ? なんか、ニマニマしちゃう。んふふ。
「道については、これといって有力な説はないんですよね。水場の天化が、どの順番で起こったのか、同時多発だったのかもはっきりはしていませんし」
「そっか……」
「海や湖などの水のたまり場から始まって、同じ水繋がりで次に川、それから流れるもの繋がりで道……と天化が移行していったなら、似た性質をもつものに天化が進行していって、最終的には星そのものが天に呑まれる……といったことも考えられますが…………あ! すみません。いきなりこんな話をしてしまって! 少し、刺激が強すぎたでしょうか?」
「え? ううん! 大丈夫! つまり、水っていう性質をもつものが、順番に天になっていって、それが終わったら、同じような概念を持つものが次なる天化のターゲットとして狙われたってことだよね!?」
むしろ、ドーンと来いですよ!――――とばかりに、若干……いやかなり興奮を滲ませてアクセル全開! 前のめり気味で自分なりの考察まとめを伝えると、ミナセはまじまじとわたしを凝視してきた。
え? 何?
「ステラ。本当にさっきまでのステラと同一人物ですか? 小さな子供が、いきなり星の研究者になったみたいなんですが?」
「し、失礼な! 正真正銘の同一星灯愛だよ!」
う、ま、まあ、あれですよ?
妄想が捗る時と捗らない時があるっていうか。
それはほら、妄想は勝手にどこからか湧いてくるもので、自分でコントロールできるものじゃないんだよ。
どっちも星灯愛は星灯愛です。
…………あ、しいて言うなら、常識人の皮を被ったままの星灯愛とオタク全開の星灯愛って感じかな?
まあ、そんなことは言わないけど。
「…………ようやく調子が出てきたってことですかね? まあ、気晴らしになったなら、何よりです」
「あ、えー。お、おかげさまで」
どうやら、ご心配をおかけしていたようだ。
フッて感じに柔らかく笑われて、わたしはドギマギして顔を伏せた。
や、やば。赤くなってるかも。
任務の一環の講習会だと思ってたら、心配されてて気遣われてたのが分かって気恥ずかしいっていうのもあるけれど。
う、ううん。
黙ってると嫌味キャラにも見えちゃうインテリ系イケメン(レイジンほどの美形じゃないけど)眼鏡が、不意に優しく笑いかけてくるの、なかなかの破壊力だね?
乙女ゲームやってる気分になって来た。
いや、これは浮気じゃない。
浮気じゃないよ?




