朝顔
息抜きに書いた短編です。
タイトルなどの意味は調べていただけるといいかと思います。
リクエスト等感想で受け付けております。
光彩。
彼を一言で表すとしたら、そんな言葉が似合う。
純粋で、煌めいていて、まるで星のようで、汚れを知らず、ただ美しい、そんな人。
小学3年生の時に出会った一つ上の彼とは、切っても切れない、縁のようなもので結ばれていたように思う。
小学校の頃から毎日のように一緒にあそんで、中学に上がってもそれは変わらなくて、高校生になってからは同じ部活の選手とマネージャーという立場で、私と彼は関わり続けていた。
それでも、恋仲になることはなかったし、私も彼も、考えもしなかった。
彼はそれを望んでいないのだろうし、私なんかが立ち入る好きなんて、もう一分もないから。
ある意味家族よりも近い関係なのだ、彼はそういうことを全く意識していないに違いない。
彼は、いつか素敵な花嫁と結婚するのだろう。
だけど、それは私ではない誰かなのだ。
「空が綺麗ですね」
いつからだろう。
彼との帰り道、こういうことを言うようになったのは。
きっと一生伝わらない、気が付いてすらもらえないだろう思いの花を、言葉という武器に包んで。
そうしてできた届け物を、毎日毎日口にする。
「雨が止みませんね」
「夕陽が綺麗ですね」
「明日は晴れますか?」
何回、何十回、言っただろう。
良くも悪くも単純な彼は、それの真意に気づかない。
からりと裏表のない笑顔で、「そうだなー!」というだけで。
彼は、いつか遠くへ行ってしまうのだろう。
私みたいな地上で足掻いてる村人Bなんかじゃ到底手も届かない、空、宇宙の果てのような世界まで。
それこそ、星のように。
そして、出会った誰かと結ばれて、子供も生まれて、暖かな家庭に包まれながら、いずれ死んでいく。
その彼の未来に、私はいない。
私と過ごしたという記憶は、私ではない誰かとの思い出に塗り替えられていく。
やがて、彼は私とのことなんてさっぱり忘れて、白昼夢のようなものになるんだろう。
私が望んでいたって、彼は気が付かない。
それなら、伝えるのも烏滸がましいというところだ。
それでも。
気が付かれなくても、受け取ってもらえなくても。
言葉にするくらいは、許して欲しい。
「星が、綺麗ですね」
きっと一生届かない、この思いを。
私は今日も、口にする。
閲覧ありがとうございました。