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 いつものシュワシュワは起こらない。その代わりパチンとシャボン玉がはじけるような感覚がして、それが起こると違う日にちの違う場面に移動させられている。炭酸水の泡から石鹸水の泡に変わった感じだ。

 鮮度が落ちたタイムソウルキャンディが正常にタイムリープしないということはこのことだったんだ。魂だけが過去に戻っている。それは一回で終わらず、また続けてどこかに飛ばされた。

 憑依ができない私は恵都を助けることができるのだろうか。焦ってグルグルと恵都の頭の上を飛んでいる時、由美里と向かい合わせに座っている清美が、恵都と利香にマカロンが入った入れ物を差し出していた。

 これは新学期間もない時に、四人が友達になった場面じゃないだろうか。遠足でお弁当を食べた時に話していた話を思い出した。

「いっぱい作ってきたからよかったら食べてよ」

「いいの?」

 人懐こい清美に明るく言われ、恵都と利香は遠慮がちに手を伸ばしている。

「これ本当に手作りなの? すごい。お店で買ったみたい」

 恵都は利香と顔を合わせてびっくりしていた。

「なんか照れるな」

 清美は褒められてとても嬉しそうだ。

「立ち話もなんだから、一緒に座って食べようよ」

 由美里が言うと、恵都と利香は近くにあった椅子を引っ張ってきた。

「ねぇ、このマカロンの写真撮ってもいい? パステルカラーでとてもかわいい」

 恵都はポケットからスマホを取り出した。姉からのお下がりだけど、初めてスマホを持った恵都には機種の違いなんて関係なさそうだ。たどたどしい指先で画面をタップしていた。

「だったら記念にマカロンもってみんなで一緒に撮ろうよ」

 利香の提案で、恵都はスマホを持っている手を伸ばして、自分たちにかざす。

「もっと寄って、そうそう。じゃあ撮るよ」

 みんなの顔が近くに寄って恥ずかしそうにしている恵都。きっとドキドキとしながら写真を撮っているはずだ。

 パシャリと音がなった後、みんなで画面を確認する。

「いい感じ。なんかさ、うちら昔から友達って感じの写りだね。それちょっと送って」

 由美里がスマホを出すとみんなも出していた。自然とアドレスと電話番号の交換になり、あっという間に四人は仲良くなっていた。

 恵都はとても楽しく笑っている。本当に楽しかったんだと思う。私が恵都の中に入れないのが残念なくらい、みんな和気藹々としている。

 もう一度恵都の体に向かって入ろうと試みる。何度やってもすり抜けていってしまった。

「はあ」とため息が出た時、教室の隅で英一朗がこっそりと恵都の様子を見ているのに気がついた。

 彼は恵都の存在を気にしているけど、母親の心無い一言で顔を合わせられないでいる様子だ。

 今恵都は自分のことで精一杯だから、英一朗が自分のことを見ているなんて思ってもいない。誰かが話す度に風見鶏のように視線を向け、何度も頷いて相槌し、そして笑う。

 自分が話す時は、少し自信なさげに目線が下に向く。でも誰かが話すとまたぱっと明るい顔をしてそちらを向く。目立つことになれてないからみんなの視線が集まると緊張してしまう。

 他の三人も初めての集まりだからリアクションが大げさすぎる。

 入学したてでみんな友達を見つけたくて必死なんだろう。すでに友達になったこの四人は自分たちの居場所を見つけてとてもキラキラ輝いていた。

 それとは対照的に、英一朗は恵都に構ってもらえなくなったことが寂しかったのだろう。メガネを外して雰囲気も違い、こんなに輝いている彼女を見たら、益々声がかけにくくなる。だけど本当は謝りたかった。そのきっかけがつかめずにいるから、恵都の周りにいる三人のせいにもしたくなってくる。

 この時、恵都たちが立ち上がる。座っていた椅子を片付けていると、恵都は英一朗の存在に気がついた。英一朗が咄嗟に顔を背けたから今度は恵都が気まずそうだ。

 お互い意識していたけど、その意識が返って喋れなくしていた。

 私が恵都に憑依できれば、ここで英一朗と接点を作れるのに。

 一言言えばいいだけじゃないの。「また同じクラスだね」って。どっちかが声を掛ければ問題はすぐに解決しそうなのに、どちらもそれができない。そのうちお互い悪いように考えて、時が経てば経つほど声が掛けられなくなっていく。

 無視されたらどうしよう。怒っていたらどうしよう。そんな気持ちが交差してお互い何もしないことで何も起こらない。見ていてもどかしい。

 恵都に取り憑くことができないのなら、英一朗はどうだろう。英一朗に突進してぶつかってみた時だった。彼を通りぬけてしまったのだけれど、とても落ち込んでいる感情が一瞬伝わってくる。もしや恵都以外の体に触れてもその人の感情がわかるのだろうか。もう一度試そうと彼めがけて突進すれば、パチンと泡がひとつはじけてその拍子に自分も飛ばされた。



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