攻略対象、に。
お久しぶりの続きになります。
「まぁ、半年後に、ですの……?」
「ご予定では、ご卒業後ではなかったかしら……」
困惑の声が周囲からほんのりと聞こえてくる。
私は、興味ありませんよ?と言う涼しい顔をしながら、食堂でゆったりと紅茶を飲みつつ、耳をそばだてた。
あ、因みに『耳をダンボにする』って言葉があるじゃない?知らない?
私、『ダンボ』って最初なにかわからなかったのよね。前世の母、某遊園地系は全く興味がない人で、付随するアニメも見たことがなかったんだけど、『耳をダンボにする』って言葉はよく使ってたのよ。
で「ダンボって何?」って聞いたら、ちょうど辞書を手にした頃でね。「聞く前に調べろ」って言われたんだけど、載ってないわけよ。
しょうがないから、父のパソコンを借りて検索してみたら、耳のでっかい架空の象のお話でね、しかも某遊園地オリジナル作品!両親もギリ生まれてないわけよ。
単なる当時の流行語じゃない!辞書に載ってるはずもないわけよ!
いやまあ、それはどうでもいいんだけどね。
「どうやら、ご懐妊されたとか……」
ぐほっ。
聞き耳なんて立てておりませんよ、という体で優雅なふりをして飲んでいた紅茶を、思わず喉に詰めかける。なんとか飲み込んでシラを切ったつもりだけど、果たして周囲にそういう風に見えているかはわからない。まあ、そもそも周りから聞こえる噂話の内容が内容なだけに、私が何してようと多分誰も気にしてない。
「まぁ……なんてことでしょう」
「そんな……婚前交渉が……?」
「どうも……殿下が……」
ざわざわ、ひそひそと、とまあ小さいけど結構周りにはっきりと内容が理解できる滑舌の良いご令嬢方のお陰で、大方の見当がついた。
やりやがったな、第二王子。
新入生歓迎会から早三ヶ月。
第一攻略対象こと第二王子と悪役令嬢改め第三ヒロイン様が、戦線離脱、じゃなくてメリバ、でもなくて、ルートクリアによるハッピーエンドを迎えたようです。
……まぁ、この三ヶ月、学園内で第三ヒロイン様のお姿見てないからね……。
ゲーム内ではありえない、最短ルートを踏破なさいましたね。素晴らしいREAL TIME ATTACKです。
絶対に追走しないし追走したくないし追走できないけど。
第二王子の方は、それはもう爽やかな一点の曇りもない微笑みを浮かべて、単独通学してるのはちょいちょいお見かけしてたのよね……。
もうね、末永くお幸せにお暮らしください、としか言えないわ。
元の世界と倫理観とか法律とか諸々、違うしね?
まあ元の世界でも、ちょっと遡ったらそういう時代もあったって言うし、更に遡ったら十代前半で結婚が普通だった時代もあったらしいし。なんだったら生まれる前から婚約者が決まってるとかもあったらしいしね?
何も問題ナイ!ナイのよ!
この世界でも王族の出来ちゃった婚はアウトな気がするけど、私が気にすることじゃないしね!
紅茶しか飲んでないけど、もうお腹いっぱいだわ、と席を立とうとすると、「あっ」という言葉と共に、小柄な少女が、私の横で尻もちをついた。
「大丈夫?」
慌てて手を差し伸べると、これまたどこかで見たような顔の少女。
アッシュグレーの髪を両サイドで三つ編みにした、メガネっ子少女。
地味な雰囲気で、小動物な雰囲気を漂わせたその少女は、宰相閣下の御子息ルートで立ちふさがる悪役令嬢こと幼馴染の女の子、その実メガネをとったら美少女だった!という第四ヒロインちゃんであった。
あれ、なんかやなよか〜ん……、と思いながらも彼女が立ち上がるのに手を貸そうと腰を落とすと、
「何をしている!」
と、頭上から怒鳴られ、大きな手で振り払われた。
「わっ……」
第四ヒロインちゃんを助けようと中腰になっていたこともあり、振り払われたせいでバランスを崩してよろめき、さっきまで座っていた椅子の足にガツッとぶつける羽目になった。
「うわっ……」
「きゃっ……」
なに、このコメディみたいな状況、と前を見ると、初代メガネヒーローこと宰相閣下の御子息が、第四ヒロインちゃんを守るように抱きかかえていた。
因みに可愛らしい「きゃっ……」という声は第四ヒロインちゃんである。「うわっ……」って低い呻き声は残念ながら私ね。なにせ私ご令嬢始めて、まだ三ヶ月と一週間だからね!
「大丈夫か……?」
と、宰相閣下の御子息こと元祖メガネヒーローは、それはそれは甘い声で、第四ヒロインちゃんに声を掛けた。
まーじーかー……。ここも既に攻略済みかよ。いやまあ良いけども。
「だ、大丈夫。ちょっと尻もちをついただけ、よ?」
と、眉毛をハの字にしつつも、可愛らしく首を傾げる第四ヒロインちゃん。
「虐められていたのでは?」
「ち、違うわ……!転けた私を助けようとしてくださっていたのよ?」
「しかし、お前が通り掛かった途端に椅子を引いただろう?わざとじゃないのか?」
そう言ってこちらを睨みつけてくる、怜悧だという設定のあるメガネヒーロー様。いや、いつから第四ヒロインちゃんの行動をチェックしてたの?お前は第四ヒロインちゃんのストーカーか。
ていうか、なんで初会話なのに私、そんな疑い掛けられてるの?
「……人が近くにいるとは知らず、椅子を引いたことは謝罪いたしますわ。ですがぶつかった感触もございませんでしたし、そちらの方とは初対面です。何故突然そのような疑いを掛けられなくてはいけませんの?」
呆然としつつも、この三ヶ月と一週間でなんとか被れるようになったご令嬢の皮を駆使して、なんとかお上品に返事をしてみた。いや、本当になんでいきなり断罪(?)されてるんですかね、私。
「彼女が私の婚約者だと発表してから陰口や嫌がらせをして来た者が多く居たが、君もその一人だろう?」
「……はっ?」
「第二王子殿下のご婚約者が、君は誰にでも愛想を振りまき、愛を語る危険人物だと言っていたが」
……なんだって?
思わず顔が強張る。あの第三ヒロイン、やっぱり攻略対象に余計なこと吹き込んでいやがったわね?
なんで私が謎の冤罪ルートを最短で進む羽目になってるの?こんなRTAいらないんだけど!?
第三ヒロインめ、自分がヤンデレ最短ルート開拓したからって、私にまで余計な最短ルート増やさないでくれるかな!?歓迎会で助けを求められた時に目を逸らしちゃったの、ちょっと罪悪感あったんだけど、感じる必要なかったわ!一生監禁されてなさいよ!
「ち、違う違う、彼女はそんなことを言ってなかったわ……」
慌てたように、訂正を入れる第四ヒロインちゃん。まだ抱きかかえられてるよ、なんなのかしらこのバカップル。
「端的に言えば同じことだろう。その上……私達が、婚約者を捨ててしまうほどの魔性だとも言っていた。そんな馬鹿なことがあるはずないのに!」
第四ヒロインちゃんに甘い目線を向けて喋るも、最後の一言でこちらをキッと振り返って睨みつけてくるメガネ野郎。うん、お前もうメガネ野郎でいいよ。
「お言葉ですが、何一つ理解できません。入学して三ヶ月経ちましたが、私、貴方にお会いするのはこの場が初めてです。つまり愛想を振りまいた覚えはございません」
「では、私のことは知らないとでも?」
「入学式に、生徒会副会長としてご挨拶なさっていたので、存じておりますが」
「ならば彼女を影で虐めて、婚約者から外させた後に接触する予定だったのでは?」
「そもそもその方が婚約者だと、今、初めて存じ上げましたわ」
何せ、ゲームでは貴方達、只の幼馴染だったからね!既に婚約者になってるとか寝耳に水だよ!
こちとらこの三ヶ月、この世界に馴染むのに必死で必死で、ゲーム情報を元に地雷避けまくってた以外何一つ出来なかったからね!ゲームとの差異なんて殆ど追えてないよ!しかも未だに家に帰ったら監視付きの出禁状態だよ!放課後にお友達と街歩きとか、ゲームみたいなお遊びターンなんて一切発生出来てないからね!泣くぞ!
因みにここまでの会話、私は結構大きめな声で、できる限り滑舌良く言い切った。
いや、だってさ?あれだけ第二王子殿下とその婚約者の早期ご結婚の噂話が蔓延していた食堂がよ?このメガネクソ野郎のせいで、全部こっちに『耳がダンボ』してるんだけど!?ふざけんなよ!
こちとら婚約者もいなければ恋人もいない、真っ白な未婚女性なのよ?確かに、そもそも恋愛する気も結婚する気も完全に喪失してるんだけど、でも外聞ってあるじゃない!
「そのような言葉が信じられるとでも?」
ぷっちん。
「先程からお聞きしておりますに、生徒会副会長様は妄想癖がお有りなのではと勘ぐってしまいますね(にっこり)」
「なんだと?」
「“誰にでも愛想を振りまいているらしい”、“わざと椅子を引いたのではないか?”、“婚約者を虐めているのではないか?”、“婚約者を知らないはずがない”……どれも貴方様の誰かから聞いたか想像したかの範疇からはみ出ておりません。それらをどうやって事実だと証明さないますの?生徒会副会長様」
「……それは……」
「人から聞いただけの話は証拠になり得ませんし、前例があったせいで疑心暗鬼になられるのは理解できますが、他の方が行った行動を私に重ねるるのはおかしいことかと。婚約者様が大事なのはわかりますが、そのためにむやみに周囲に牙を向けるのは悪手ではございませんか?(にっこり)」
「……彼女を虐めた事実はないと?」
分が悪いと気がつき、言葉尻は弱まっているものの、未だにギリリとこちらを睨みつけてくるクソメガネ。しつこいな!
「私の行動で彼女を驚かせたのは事実かと思いますが、彼女が真後ろを歩いていたとは気がついておりませんでしたし、ただの偶然です。だからそうですね、ご令嬢」
笑顔キープのまま、メガネっ娘に目を向ける。
「はっ、はい」
「驚かせてごめんなさい、お怪我はなかったでしょうか?」
「あ、ありません……」
「そう、良かったですわ(にっこり)、敢えて言わせていただけるなら、今後椅子の近くを通る時は気をつけてくださいませ。私も周囲に人が居ないか気をつけるようにしますわ」
「は、はい。気をつけます……」
第四ヒロインは、おどおど小動物のようにコクリと頷いた。なんだろ、モヤッとするわ。このキョドり感で対応されると、なんか私が虐めてるきぶーん!まあいいか!
「生徒会副会長様も、前例があってこの様な行動を起こされたのかと思いますが、証拠もなしに突然追求するのは悪手ですわ。場合によっては、貴方が不利になってしまいます。今のように」
「……そのようだな」
おいこら、聞こえてこなかったけど、今舌打ちしなかった?
「視野を広く持って落ち着いて行動なされば、きっと虐めの真犯人にたどり着けるでしょう。周囲の噂話に惑わされるのではなく、それらを精査なさることが肝心かと。大事なご婚約者に傷一つ付けたくない気持ちは良くわかります。安寧にたどり着ける日をお祈りしておりますね(にっこり)」
「……君にそのような他意はないと?」
無ぇですよ!そもそも近寄りたくもないの!誰でも彼でもお前に恋するとでも思ってんのか!思ってんだろうな!顔も肩書も成績も良いもんな!実際言い寄られてるんだろうしね!
「私は女性文官を目指しておりますの。将来働くための人脈形成は必要かと思っておりますが、恋愛ごとには興味がございませんと言うか邪魔ですし面倒です(きっぱり)」
「……天真爛漫な性格と聞いていたが……どうやら真逆のようだな。……まさか結婚する意思もないと?」
「両親が相手を見繕ってきた場合は(嫌だけど)考えますが、(地雷が怖いので)私自身でお相手を見つけるつもりはございません(にっこり)」
この世界、まともな男性いなさそうな気がしてきたし。
「……すまなかった。失礼なことをした」
少し考えた仕草をした後、宰相閣下の御子息殿はきっちり四十五度の角度で頭を下げて謝罪をした。
……謝罪、できるんだ……!(驚愕)
「いいえ、わかっていただけましたらそれで結構です。ご婚約者様とどうぞお幸せに。では、私はこれで(にっこり)」
そう言うと、私は極力笑顔キープで優雅な仕草に見えるような立ち振舞を心がけつつ、すすすと速攻で食堂を出た。
後ろで、
「ね、ねぇ……もう降ろして欲しい……」
「せっかくだ、もう少しこのままで……」
「いえ、あの……ここ食堂だから……」
というバカップルの声が聞こえて足から力が抜けそうになったけど、耐えた。
………えっ、ていうかなになになになに……?元祖メガネヒーローが短絡馬鹿になってるんだけど?どういう変化?メガネの奥に見える瞳がたまに暖かく緩むのが素敵と評判の参謀系クールビューティーがどういう変化?
ちょっと怖いんですけど。
なにこれ、第三ヒロイン様が引っ掻き回してああなったの?それとも私が居なくなった後に入った更新のせい?え?わからーん!怖い怖い怖い、地雷がどこにあるのかわからん!
……今回は乗り切れたんだよね?……これ、三年続くの?マジで?……接触しないようにしてるのに、こうなるの?
……社畜でいい、本気で文官目指すわ……。だから、フラグが全部折れますように……!
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『その攻略対象は悪役令嬢に差し上げますが、 』 私が幸せになるルートはありますか?
お読みいただきまして、誠にありがとうございます!




