攻略対象、いち
他の悪役令嬢モノを書いていた最中に思いついた、現実逃避作品です。
悪役令嬢モノがお好きな方に、別目線から楽しんでいただければ幸いです。
私はその日、どこかで見たような、でも全く身近にあり得ないような豪華な部屋で目覚めた。
――ここはどこ?
鏡を見ると、どこかで見たような愛らしい少女の姿。
本来の姿とは違う、しかし見覚えのある姿が、自分の意志で動かしたゼスチャーと同じ動きを再現してみせた時、あ、コレ異世界転生モノだわ!と瞬時に悟った私は偉いと思う。
恐らく私は一回亡くなったんだろうと思うけど、それなりに鮮明な過去の記憶を探ると、ココは直近まで周回していた恋愛攻略系スマホアプリゲームの世界だと思われる。
そして私の見た目は第一ヒロイン。
――ヒロインかぁ……、この姿だと、ゲーム開始する頃よね、正確には今いつ頃なのかしら。
髪を摘みながら、ヒロインの情報を頭の中から引き出していく。
見た目十六歳前後の姿は、ゲームのトップ画面に出てくるヒロインの姿と同等だ。
ミルクティのような、と表現されたツヤッツヤな茶色のストレートヘアにちょっとタレ目がちなクリクリお目々がポイントの新緑色の瞳。
胸はどちらかと言えばささやかだけれど、小柄で健康そうな“愛らしい”少女。
ある意味個性があり個性がないとも言えるヒロインらしいキャラではあるけれど、自分が転生した先が、ピンクブロンドの第二ヒロインじゃなかったのは結構救いかも、と思った。あれは小悪魔系だから。
私が目覚めたことに気がついて部屋に入ってきたメイドさんに、今が何時なのかをさり気なく確認すると、明日が学園入学式だという。
そう、ゲーム開始初日が明日、ということ。
――助かった!
それならば、対策を立てることができる。
攻略対象者にどう対応するか、とか、悪役令嬢をどうやってスルーするか、とか。
本来ならば、イベントを起こしてヒーローを攻略する必要があるわけで、そのためには悪役令嬢をスルーしてはならないんだけれども。
そうは言ってもこの手の恋愛攻略ゲームらしく、このゲームも当然のように攻略対象が複数存在していた。
ハーレムルートも一応あるんだけど、私はそのルートを望んでないし、攻略方法を考えると現実的でもないしね。
攻略対象を絞るならば、推しか、それとも現実的なお相手か。
それならば踏まなくていい地雷なんて踏む必要ないでしょ。
とは言え、イベントのフラグってのは踏むようになっている。選択肢次第で避けれもするわけだけれど……コレは対策をしっかりと練らなくては。
そうすると、攻略するのは……。
□□□□
「んー、コレは他にも誰か転生者がいる?」
入学式も終わり、一週間経った生徒会による新入生歓迎会。
これまでの期間、あるはずのイベントが起こらなかったり変質していたり、いまいちゲームのストーリー通りに行かなかった。
事前に回避しようと思っていたフラグはさておき、予想していた自動回収イベントすらマトモに作動していない。
ゲームのサービス提供初期時に揃えられていた、所謂メイン攻略対象なんかは、この新入生歓迎会までに遭遇してイベントフラグを立てて置かないと、攻略ルートが開かない、または好感度が上がりにくい。
こうなると、メイン攻略対象はよほど頑張らないと攻略出来ないし、当然全員攻略する必要のあるハーレムルートはまずクリアできない。
ついでにメイン攻略対象たちに付随する隠し攻略対象に対しては、全くフラグが立たない。精々顔見知り程度で終了するエンドだ。
まあ、私はメイン攻略対象もその周辺隠しキャラもハーレムルートも狙っていないので、この状況、実はあんまり困っていない。むしろ回避行動頑張らなくてラッキー!くらいなものだ。
――ただ、なんていうかなぁ、私が回避したから、選択をミスったから、だから攻略通りに進んでない、という感じじゃないんだよなぁ……。
そんなことを考えながら、パーティー会場の片隅で壁の花になりながら思案する。
ゲームヒロインなのに壁の花ですよ。だって出だしで知り合う攻略対象者のイベント、全消失と言っても過言じゃないから。
なんかねぇ、人為的にキャラの行動が変化している、気がする。
トップ画面のフロント獲ってる第二王子殿下なんか、婚約者の悪役令嬢にべた惚れ雰囲気満載。
その上他攻略対象者もなんか私を見て警戒したように避ける。まだ私何もアクションしてないんですけどね!
これ、「ワタシヤバいヤツ」って誰かに入れ知恵されてるでしょ。
もちろん、ゲームで見ていたシーン以外にも地道な生活があるのは、この一週間で痛いほど理解しているので、可視化できるはずもない選択肢も多彩、当然その結果も多彩だろう。ひとりひとり生きている人間なんだもの、連綿と続く選択の結果、シナリオ通りに動かなくて当然、と言われたらそのとおりかもしれない。
いやもう実際、この一週間、現代日本との違いが身にしみた。只今自宅では異常な行動をするお嬢様扱いで絶賛要監視対象だ。だってお風呂も一人で入らせてくれないし、着替えもひとりでできる仕様じゃないし、コルセットとか耐えられないから悲鳴あげるし。履き慣れないヒールとかもう……ミュールとはいえ家の中で靴ずっと履いてるのも辛い。食べ物も無駄に豪勢な食事が毎度出てくるんだけど、そろそろファストフードとかコンビニの塩にぎりが恋しい。ゲームでは市井に出れば食べられるっぽかったから、街歩きしてみようかと思ったら、当然一人で街になんて出して貰えず、隠れて出掛けようとして家人に発見され、只今絶賛軟禁状態。学校と自宅のみ、その間の移動は監視付きの馬車のみ。辛い。
いやまぁ、それはさておき。
「うーん……」
もう少し様子を見ないとわからないけれど、
「早々にヤンデレルートに突入している気が……」
しかも、ヒロイン相手にではなく、第二王子殿下の悪役令嬢に向けて。
眼の前にいるのは、第二王子殿下とそのご婚約者様。
学園の二年生で生徒会長でもある第二王子殿下は、歓迎会の開幕宣言とともにフロアの中央へとやってくると、婚約者を伴ってダンスを踊り始めた。連続して只今二曲目。婚約者とは二度連続踊るのが通例なので、これは正しい。
このシーンはゲーム内でも行われるシーンで、婚約者と踊る。
ただしヒロインとの序盤イベントを最大好印象でクリアしていると、第二王子殿下は二曲目をヒロインと踊る。
宰相の愛娘であり侯爵令嬢でもある婚約者を蔑ろにして、単なる地方出身の伯爵令嬢でしかないヒロインをダンスに誘うのだ。とんだ浮気野郎である。
とは言え、この悪役令嬢、ゲーム内では序盤から悪名高く、見目の良い第二王子を気に入って、父親の権力を使って婚約者の立ち位置に収まった。かなりの我儘娘という設定なので、ゲーム内の第二王子は彼女に対して元から塩対応である。表向きには婚約者として最低限の対応をしているものの無表情を貫き、裏では父である国王陛下に婚約解消を事あるごとに打診しているレベル。
宰相家の権力が強すぎて、国王の発言が弱いこの国は、いろんなことが宰相の権限で執り行われる。その状況を憂いた王太子殿下及び第二王子殿下は、近い未来結託して反乱を企てる。
まぁ、この反乱イベント自体はゲームの恋愛要素を盛り上げるスパイスになるだけで、ストーリーの進行条件はそれほどシビアじゃない。条件を満たせば基本クリアするし、バッドエンドにする方が難しい。
それもさておき。
――目つきがなぁ、怪しいんだよなぁ。第二王子様の、悪役令嬢を見る目つきが。
因みにこのゲーム、買い切りゲームではなく、基本無料、ゲーム内課金制のスマホアプリゲームなのである。
更新も頻繁なこのゲームは、追加ストーリー、追加イベント、果ては攻略対象も追加されるし、実はヒロインも追加されている。新規キャラだけじゃなく、既存悪役令嬢なんかも第三、第四のヒロインとして選択できるようになったのだ。
そう、例えば目の前で第二王子殿下と踊っている悪役令嬢とかね。
ところで、第二王子殿下のご婚約者様は、いつ頃転生なされたのだろうか。
数年続いた更新の末、爽やかオンリーの第二王子殿下は大量に増えた攻略対象の影に埋もれた。
チュートリアルキャラといっても過言ではないくらい、攻略が一番チョロ……楽だったこともある。
私が倒れた当時一番人気だったのは、確か五度目の大型更新で追加投入された、第二王子より十歳年上の王弟殿下である。
で、それに対抗すべく、七度目の大型更新で第二王子殿下に追加属性が新しいシナリオルートと共に公開された。
それは、ヤ・ン・デ・レ。
最近流行りの監禁溺愛系スパダリというやつである。
周囲の攻略対象者複数人の好感度を一定数上げすぎると発動する新しい属性。
これのお陰で、ゲームオープン初期時では簡単だったハーレムルートが、めちゃくちゃ高難易度に変化したのだ。
もちろん爽やか王子のまま、ハーレムルートに突入することはできる。
だがしかしである。
攻略がチョロ……楽な分、第二王子殿下は好感度を簡単に稼げてしまうのだ。他キャラから群を抜いて。
そのせいで改変後、第二王子を含む複数のキャラに対して細やかな数値チェックが必要となり、その上増えたフラグに調整が激ムズとなり、ハーレムルートをクリアしたい乙女たちにとって阿鼻叫喚のルートとなった。特に新規参入者はかなり血を吐いたと聞く。
私はヤンデレルートの差分スチルを取得するだけだったので、そんなに大変ではなかったが。
それもさておき。
この世界と私たちが生きていた世界の時間経過は、果たして同じなのだろうか。
悪役令嬢殿はどのタイミングでこの世界に転生なされたのだろうか。
彼女は明らかに、私よりも先にこの世界に転生していたと推測される。
もしも悪役令嬢がサービス開始序盤の情報のみで転生していたとしたら。
それが私だったらと仮定して。
もしも婚約もまだ決まっていないような幼少期であれば?
断罪ルートに行かないように婚約回避に注力する。そんで他の攻略対象者にも近寄らないようにする。
でも、もしも第二王子殿下との婚約から逃げられないようだったら?
嫌われないようにいい子にしてる。最低限の好かれる努力して、ヒロインがいたら身を引いて応援する。
そんで初期に配置された他の攻略対象者は、王太子殿下や第二王子殿下の側近なので避けることができない。だから危機管理のため、それなりに愛想を振りまくだろう。
でも、それヤンデレルートが投入された更新後の世界線でやるとアウトなんである。
このヤンデレルート、王太子殿下や側近に愛想振りまいて好感度上げた挙げ句、身を引くふりをしたら、他の男を選ぶのかと疑心暗鬼に囚われた第二王子殿下に監禁されちゃうのだ。
十八禁ゲームじゃないんで、その手の詳細は省かれるんだけど、結婚式までお外出してもらえなくなるのよね。そんで結婚後も病弱設定がつけられて公務にも出して貰えなくなるらしい。
いや、なんでそんなルート付け足したのか運営。それで何故か王子人気がぶり返したんだけど、ホント何故?
因みにヤンデレルートに入った判定がでるのは、ストーリー中に何度かあるダンスイベント。第二王子殿下と踊るダンスの回数なんだけど、単なるお付き合いのダンスは一回まで、婚約者相手は二回まで、というルールがある。三回以上連続で踊れるのは既婚者だけですよ、と。ところがヤンデレると、そのルールを第二王子がガン無視してそのまま三回連続ヒロインと踊るという、王国にあるルールを無視してでもヒロインに執着している姿を表立って見せてしまう、という行動が、……あー、眼の前で三回目突入しましたよ、ダンス。
……あー、すごい悪役令嬢が戸惑ってる、そしてどんどん青ざめていってる。しかも王子、満面の笑み浮かべてんのに目が死んでる。アーコレ、ヤンデレ判定でちゃいましたね、アー、もう逃げられないわ、多分鉄格子嵌った窓のある無駄に豪華な部屋で足枷着用コース。確かそんなスチルあった。
本来なら、チュートリアル内である新入生歓迎会では起こり得ない判定なのに、こんなゲーム開始早々で発生するって、悪役令嬢どんだけ事前に頑張っちゃったのよ。あーあ……。
思わず悪役令嬢に向かって合掌してしまったわ。
悪役令嬢が私に気がついて助けを求めるような素振りを見せたけど、そっと目を逸らす。
だって私、貴女とご挨拶したこともございませんので、お名前もお呼びできません。
第二王子殿下は、悪役令嬢の腰をガッチリとホールドしたまま、三回目のダンス終了後に、そっとホールから消えていった。
あー、コレもうホラーだな……。
うん、私は大人しく生きよう。
だって今後の投入される追加コンテンツ、確認できないわけでしょう?
もしかしたら、私の推しにまでダーク属性付く可能性あるってことでしょ?
意気揚々と知ってる情報だけで攻略してみなさいよ、どんな目に合うかわからん!
うん、もう下手に攻略対象者には絡まず、清く正しく生きよう。
ありがとうございます、悪役令嬢……この世界での生き方をご教授してくださって。
もうあのお方は悪役令嬢じゃないな、ひが……第三ヒロイン様だったな。まあ、好きな人と結ばれたんならこれもハピエンってことでOK?好きな人だったんだよね?実は推しは別だったとかないよね?
うん、よし、もうそういうことにしておこう。
せっかく序盤の出会いイベント、悪役令嬢……違う、第三ヒロイン様が全部潰してくれたんだし、この後に控えている攻略対象のフラグは折って……、モブならワンチャン、いや、今後誰が攻略対象に追加されるかもわからないのか。ええ……、これもうノーマルエンドの王宮文官就職コース狙うのがいいかな。でもそれ、前世とおんなじことにならない?社畜過労死?ちょっと待って、この世界の労働基準ってどうなってんの?せっかく転生したんだからさぁ……。
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『その攻略対象は悪役令嬢に差し上げますが、 』 私が幸せになるルートはありますか?
お読みいただきありがとうございます。
ほんのりホラー、お届けしました。
アプリゲームは更新が頻繁に入ってバランス調整とかそれなりにされちゃうよなぁ、ユーザーの阿鼻叫喚って結構SNSで聞こえてくるので、それを題材にしてみました。
前作ご感想ありがとうございます。どれもすごく喜んで拝見しております。
が、諸事情で今回は閉じさせて戴いております。
(別作品の執筆及び更新がですね、怠け者につき、大変申し訳なく……。)
もし宜しければ、お星さまといいねで反応戴けると、今後の励みになります。
あ、誤字脱字報告は今まで通りよろしくお願いいたします!




